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59:連続クエスト開始。

「レベルアーップ!」

「ふぇー、エリュちゃんいいなぁ。私ももう少しだし、頑張るぞぉ〜」

『頑張ってください』


 カジャールの町を出て3時間。

 前方にようやくそれらしい田園風景が見えてきた。

 もう少し進めば村も見えてくるだろう。それまでにココットのレベルが上がるかどうか。

 そして俺と受付嬢のレベルは……ちょっと無理そうだ。

 

 ここに来るまでの間、エリュテイアのレベルは21から、つい今しがた23に上がっている。

 3時間でレベルが二つ上がったって事だな。

 だが俺のレベルは上がりそうにない。26から、経験値バーが7割分増えた程度だ。

 マゾ度が高くなってきたなぁ。


「よしっと、ステータスもスキルも設定完了。DEXは17まで上げてみたんだけど、足りるかしら?」

「いいんじゃね? 様子見て、どうしても命中率が気になるなら、その時に振ればいいさ」

「うん、そうね。ありがとう」


 あ、ありがとうなんて言われると、恥かしくなってしまう。

 カジャールを出て北に進みだし、彼女らよりレベルの高いモンスターと交戦しはじめた頃だ――

 エリュテイアの攻撃にミスが多い事に気づいたのは。

 ステータスを聞くと、DEXがなんと10しかないと!

 更に、STRもVITもAGIも平均的に上げていた。やっぱりバランスステか。

 悪くは無いんだが、先に何かをカンストさせたほうが後々の戦闘が楽になるんだよなー。

 あと、前衛物理職にとってDEXは、命中率だけだと考えても良いが、低すぎると攻撃が当たらないので20前後はほしい。

 そう教えると、本人も命中率の低さを感じていたようだった。


 で、レベル22になったときは5ポイント全部をDEXに振り、今のレベルアップで17までは上げたようだ。


「よぉーし! あの狐男で命中率の検証よ!」

「やめてっ。俺を攻撃しないでっ」

「あ、あんたじゃないわよ!」


 解ってる。けど言ってみたかったんだ。


 前方に2匹のモンスターが闊歩していた。

 見た目は二足歩行で歩く狐だ。狼男じゃなく、狐男なのだ。

 尻尾が2本生えていたり、頭に角があったりと、若干可笑しな点もあるが。




---------------------------------------


 モンスター名:フォックスマン

    レベル:26


---------------------------------------




 エリュテイアのDEX検証が出来るように、俺と受付嬢は手を出さないでおく。

 だが別の手は出すけどな。


「『スティール!』よっしゃー! 取ったどぉっ」

『負けました……ではこちらに『スティール』。あ、盗めましたっ』

「っち、引き分けか」

「あんたたち、ふざけてばっかりでしょ!」


 だってなー。これもエリュテイアの為だしー。

 などと言いながら戦闘を観戦する。

 うん。カジャールを出たときに比べると、命中率もだいぶ上がったな。

 たった7ポイントでも、前衛の命中率という点だけで見れば十分なんだよ。

 弓職はDEXが攻撃力になるし、魔法職は詠唱速度になるから、DEXは重要だ。

 でも剣士や盗賊系は敵に攻撃が当たれば、それで十分。


 何度か襲ってくるフォックスマンを撃退し、田園地帯を抜けるとようやく村を発見。

 今にもポキっと折れそうな木の柵に囲まれた村の向こうには、田んぼや畑ではなく、同じような柵で囲まれた牧場みたいなのが見える。

 更にその奥には森が広がっていた。






 サマナ村に到着した俺たち。

 ふんふん、村そのものは全然襲われてないみたいだな。

 質素な造りの家が立ち並んでいるのかと思いきや、案外しっかりとした造りの家が多い。

 軒数は少ないものの、村にしては小奇麗な印象だ。


「さて、クエスト内容は村長との会話っていう、なんとも簡単なものの訳だが」

「このクエストは、カイトが道中に教えてくれた『NPCによる仕事の依頼』とは違うものなんでしょ?」

「あぁ。ドジっ娘職員NPCの話し方だと、条件が揃うことで半強制的に発生するクエストだな。クエストタイトルに1って書いてるだろ。これは連続したストーリー系のクエストだと思う」


 思う――っていうのは、この『レッツ』のクローズドベータでは、ほとんどクエストが無かったので、正直な所よく解らないというのが本音だ。

 更に言えば、ゲームによって多少クエストの仕様も違ったりする。

 ぶっちゃけ――


「やってみなきゃ、どういうクエストかは解らないっ!」

「そこ、張り切って言うところなの?」

「あのぉー、クエストって、クリアすると何か良いことあるんですか?」

「んー、そうだなー……」


 クローズドベータでのクエストは、クリア後報酬がお金だけだったという報告はwikiにあった。

 これまたゲームによって、報酬は様々だからなぁ。

 一般的なのは経験値とお金、それにアイテムだったり装備だったりってのが多いな。


「けど、俺としてはお金やアイテムだけで十分だと思うんだよなぁ。経験値なんて、戦闘すれば増えるわけだし、戦闘もしてないのに経験値貰えるのって、俺的には納得できねーんだよ」

「うーん、そうね。中にはただのお使いみたいなクエストもあるんでしょ? 町のA地点からB地点に行くだけで、経験値が貰えるのって、確かに不自然だと思うわ」


 俺の話を聞いていたエリュテイアが、俺の意見に賛同してくれた。

 なかなか解ってるじゃないかぁー。


 なんて事を話しながら、まずは『月光の森の聖なる獣』をクリアさせる為に、村長を探す事にする。

 クエスト完了条件が、この村の村長に会う事――という、クエストのド定番な内容だ。

 けど、村長って……誰だよ。


 家畜が襲われているからなのか、あちこちでやる気の無さそうな老人NPCの姿が見える。

 村長っつったら、やっぱじーさんだよな。

 さて、どのじーさんが村長なのか……。


「村長さんに会わなきゃいけないんですよね?」

「あぁ、そうなんだが……」

『どなたかに聞きましょうか?』

「そうよね、聞かなきゃ解らないわよね」

「よし、ここはコミュ力抜群のココット先生に――」

「カイトよろしく」

「カイトさんよろしく」

『え、あの……カイト様、よろしくお願いいたします』


 なんでだよぉー!

 何? 知らない人に話しかける事に慣れる為?

 NPC相手にかよ!

 ったく、解ったよ。やればいいんだろ、やれば。


 適当に、その辺の民家の軒先で溜息を吐いているじーさんの所に行って、村長の家を訪ねてみるか。


「村長の家はどこか教えてくれないか?」

「んあ? 村長さんの家だべか? それならあそこの――」


 っと、いかにも田舎くさい喋りのじーさんが、村の奥側を指差した時。それとは反対方向、今まさに俺たちが来た方角から若い男がやってきて、じーさんの指差す方角へと走っていった。


「あんれま……トクサ――今走っていた男なんだべが、あれの向った先が村長の家だべ」

「そうか、ありがとうなじーさん」


 それだけ言って、3人の待つ場所へと戻った。

 会話は聞えていたみたいで、そのまま村長の家に向う。


「カイトさん、ちゃんと喋れましたね!」

「そうよ、自然体だったわよ」

「いや、そりゃーさ、あのじーさんはNPCだぜ? 人間相手じゃないんだし、緊張なんかしねーよ」

「「なんだぁー」」


 なんだーって……酷い扱いだなぁ。


 男が走っていった先を見ると、他の民家よりはすこーしだけ大きな家がある。

 その家の軒先で、さっき走っていった男と初老のおっさんが青ざめた様子で会話しているのが見えた。

 たぶん、これもクエストに関係した物なんだろうなぁ。男が登場してきたタイミングが、まさに村長の事を尋ねた時だし。


 二人の近くまでやってくると、なにやら腕組みをして悩みこんでいる姿が目に入る。


「すみませーん、クエストをクリアしに来たんですけどぉ」

『ココット様。彼らはクエストの依頼者ではありませんので、何のことだか理解されませんよ?』

「そうよ。条件発生のクエストなんだから。あの、お気になさらずに。それよりも、何かお困りですか?」


 お、なんだかエリュテイアの奴。本物の冒険者っぽいじゃねーか。

 明らかに農民でもなければ、商人でも町人でもない服装の俺たちを見て、村長っぽいおっさんの表情がやや明るくなる。


「貴方方は冒険者ですか?」

「「はい」」

「それは有り難い。いや、しかし……我々は冒険者を雇うほどのお金も無いし……」


 明るくなったはずの顔が、一気に暗くなる。

 貧乏は辛いな。


「お金なんて結構です。モンスター絡みでしたら、倒せばアイテムが手に入りますし、それを換金すればいいだけですから」

「なんと! そう言って頂けると有り難い。実は――」


 エリュテイアの凛とした立ち振る舞いに心打たれたかのように、おっさんは安堵して話し始めた。


【クエスト『月光の森の聖なる獣1』をクリアしました】

【クエスト『月光の森の聖なる獣2』が引き続き行われます】


 やっぱりストーリークエストか。

 以後は『YES』ボタンを押さなくても、勝手に進んで行くようだ。

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