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58:冒険者支援ギルド施設。

「それで、さっきの胸の大きな人が好きだ発言になる訳ね」

「カイトさんもやっぱり男の子なんですね~」

『ロリコン……あ、なるほど。幼い少女を性の対象とす「あぁー! 説明しなくていいからっ!」あ、はい』


 身の潔白というか、誤解を解くためというか、月姫軍団に絡まれた所から説明するはめになった。

 俺が変なのに絡まれている間、女子軍団もまた男共に絡まれていたようだ。

 あたふたするエリュテイアとココットを他所に、受付嬢が一言――


『うぜぇー』


 っと言った事で決着が付いた――と。

 どこでそんな汚い言葉を覚えたんだ。

 あ、俺か。


 周囲の騒ぎから逃れるようにして施設建物内に入った俺たち。

 建物の外見よりも遥かに広い内部に、ちょっと驚く。


「こりゃ、建物内は別エリア扱いだな」

『左様でございますね。大勢のプレイヤーが詰め掛ける場所ですし、だからといってその人数に対応する大きさの建物にしてしまうと、町の外観が損なわれるから――という事なのでしょう』

「こんなに大勢の人が入れる大きさの建物にしたら、きっとお城みたいになっちゃいますねぇ~」


 お城は大袈裟かもしれないが、お屋敷レベルには達するだろうな。

 実際、今見えてるこの空間を、そっくりそのままのサイズで外観を作ったら屋敷サイズになるだろう。

 そんな施設内で、多くのプレイヤーが幾つもの列を成して並んでいる。

 最前列にはカウンターがあって、向こう側にはNPCが座りプレイヤーの応対をしているのが見えた。


「転送装置使うのに、なんか登録が必要ってあったな。とりあえず並んでおくか」

「は~い」

「時間掛かりそうね」

『左様でございますね……』


 一番短そうな列の最後尾に並び、建物の中を見渡す。

 長方形になったロビーには、奥の壁際にカウンターがあるだけで他には何も無い。

 カウンターの向こう側と隅の壁際に扉があって、まだ奥に建物は続いているようだ。

 今後、何かしら実装された時に入れるようになるとか?

 いや、もしかして純粋に、NPCの休憩室とか……


「っははは。まさか、な」


 ピンポンパンポーン……なんつー間の抜けた、そして最高に場違いな音が建物内に響く。

 

『プレイヤーの皆様へご案内いたします。現在当冒険者支援ギルド施設内が大変混雑しております。

 つきましては只今より、職員スタッフの増員を行いますので、施設内エリアの拡張を行わせて頂きます。

 壁際のプレイヤーの皆様はご注意ください』


 はい?

 室内の拡張?

 カウンター向こうの扉から数人のNPCらしき連中が出て来て、壁にもたれかかっているプレイヤーに注意を呼びかけている。

 っつーか、やっぱ休憩室なのか!?


「な、何が始まるの?」

「どこにもスピーカーが無いのに、さっきの音ってどこから聞えたのかなぁ」

『建物内を広くするようですね。これで列の待ち時間も解消されるのでしょう』


 ふふふとしたり顔をしている受付嬢。

 さっきエリュテイアが「時間が掛かりそう」と言ったあと、同意してからずっと黙ってたようだが、どうやら上に報告してたみてーだな。

 それで、急にギルド職員の増員なんてアナウンスが流れたのか。


 やがて軽い地響きが起こると、左右の壁がぐぐぐっと下がっていった。当然、カウンターも左右に伸びて行く。

 壁の動きが止まると、今度は壁際の注意喚起を行っていたNPCがカウンターの向こう側へと回りこんで――


『お待たせいたしました。冒険者への登録業務を再開いたします』


 っと、一人のNPCが声高々に叫ぶ。


「わぁー、受付が一度に倍近く増えましたよぉ」

「へぇ、臨機応変に対応してくれるんだ。VRゲームって凄いのね」

「いや、普通のVRはこんな対応できねーよ。システム管理を人工知能が行ってるから、直ぐにプログラムの改変とか組みなおしが出来るんだろ。俺もシステム関係の事はよくは解らないけどな」

『左様でございますね。臨機応変に、また即座に対応できるのは、人工知能ならではと言えるでしょう』


 っと、ドヤ顔で――いや、無表情の真顔で言う受付嬢。

 だが、いつに無く胸を張って誇らしそうに見えるのは、彼女がNPCだと知っているからだろうか。


 列が増えたことで、俺たちの順番もあっという間に訪れた。


『お待たせいたしました。冒険者へのご登録でしょうか、それともギルドの設立でしょうか?』


 応対したのは受付嬢よりやや若い女NPCだ。

 明るいオレンジ色の髪の毛を短くまとめた、ボーイッシュな印象を受ける。

 が、服装はやっぱりメイド服なので、なんとなくアンバランスな感じもするな。

 そういや、受付嬢のメイド服は茶色と白のブラウスだが、ここの職員NPCは紺色と白のブラウスなんだな。

 カラーバリエーションがあるのか。


「冒険者の登録が希望だ。なにか説明とかあるのか? あるなら俺ら4人、まとめて聞くけど」


 っと言って後ろの3人を振り返る。

 手続きそのものは一人ずつだろうが、話ぐらいはまとめて聞けば時間の節約にもなるし、プレイヤーを捌く時間も少なくて済むだろう。


『簡単なご説明はございますが……』

「じゃ、全員で聞こうぜ。その方が時間の節約になるだろ」

「そうね。職員さんも、少しでも早く手続きを済ませたほうが、助かるでしょうし」

「うんうん。カイトさん、後で教えてくださいね」

「おまっ。一発で理解する気ゼロかよっ」

『ワタクシがしっかり全文丸暗記いたします。大丈夫ですっ』


 暗記じゃなく、もしかしてハナっから全文知ってるんじゃねーか?

 まぁいいや。

 職員NPCに目配せすると、彼女は咳払いを一つしてから口を開いた。


『皆様のお気遣いに感謝いたします。では――』


 冒険者に登録する事で、町への転送装置が使用できるようになる。

 使用には別途お金が必要だが、それほど高価ではない。


「カジャールからアイシスまで50Gか」

『はい。アイシスからサイノスまでが80Gです。最高でも350Gほどに設定されておりますので、お気軽にご使用頂けるかと』

「なるほど。嬉しい金額設定だな」

『あ、ありがとうございますっ』


 何故か嬉しそうなオレンジNPC。あんたを褒めた訳じゃないんだが、まぁいいか。

 で、わざわざ冒険者登録なんてのをさせる意味が解らなかったんだが――


『雰囲気です。昨今の流行コンテンツですので、はい』


 おいおい、ぶっちゃけやがったぞ。


『既に幾つかのクエスト依頼なども入っているのですが、このクエストを誰が受けたかどうかというのを管理する為にも、冒険者登録が必要というのもありまして』

「お? クエスト発生してんのか」

「クエスト?」

「あぁ、後で説明するわ。今は、そうだな、仕事の依頼みたいなもんだと思ってくれ」

「お仕事ですか?」

『はい。受注可能なクエストをご覧になりますか?』


 そう言って職員NPCが、手元にある彼女のであろうタブレットを操作しだす。

 ――と、突然慌てたようにきょろきょろしはじめた。


『そ、そういえば、北にあるサマナ村から届く食用肉の価格が急騰して、商人達が困っているなんて話を聞きますねぇ~』


 なんだ、このわざとらしい展開は。

 もしかするとソルトのセリフが引き金になって発生したクエストとかだろうか。

 その条件をクリアしていたのを今知って、慌ててクエストを紹介しようとする……まだ支援ギルド職員業務に慣れていないせいで、段取りが下手な新人――みたいな?


「俺もその話はNP……防具屋の息子から聞いた。北の村ってどんな所なんだ? 豚はいるのか? 冒険者登録しながらでも教えてくれ」

『かしこまりました。ご登録は至って簡単でして、お客様のタブレットをこちらにセットして頂くだけで結構です』

「なんだ、えらく簡略的だな」


 カウンター台に丁度タブレットが嵌るほどの枠があり、そこに乗せるだけでよかった。

 俺、エリュテイア、ココット、最後の受付嬢の順でタブレットをセットしていく。


 その間、オレンジNPCがクエストの説明をしてくれた。






『これから話す内容は、他のプレイヤーには聞こえません』

「なんでわざわざ……」

『あ、い、いえ、他意はございませんよ。お、お客様から頂いた個別の質問には、このようにしてお答えしているだけです。はいっ』


 特定条件を満たしたプレイヤーにだけ発生するクエストだから、他のプレイヤーに聞えないようにしているだけだろう。

 誘導を失敗したもんだから、慌てて言い訳してやがる。

 このNPC、反応がなかなか面白いな。受付嬢とは全然違う。

 NPCにも個性ってのがあるんだろうか?


 で、村の話ってのが――


『サマナ村の周囲は農場に囲まれておりまして、お客様が仰っていた豚を始め、鶏、牛などの家畜が飼育されております。それ以外にも農地があり、米や野菜も栽培されております』


 まぁぶっちゃけ、総合的な農村って事だな。

 村の北側には大きな森があり、ケモミ族の集落もあるらしい。


「あれぇ? ケモミ族って大陸の北東部で栄えてるって、公式ページで見たんですけどぉ」


 っと、ココットが声を上げる。

 へぇ、そんな設定もあったのか。興味なかったから全然知らなかったぜ。


『あ、はい。所謂ケモミ族の故郷が北東部にある、原始の森と呼ばれる場所です。ですが、ケモミ族はそこだけに生息している訳ではありません』

「あちこちに集落を築いているってだけなのね」

『左様でございます。北にある月光の森には少数のケモミ族と、森の守り手である聖なる獣が住んでおります。もちろん、モンスターもですが』

「聖なる獣?」

『見た目はモンスターと類似しておりますが、多種族に対して中立の立場を取っております。また、知能も高く、場合によっては友好関係を築く事も可能です。もちろん、怒らせた場合にはその逆も然りですが』


 その獣と村が、まさに友好関係にあるらしく、これまでは森のモンスターから村を守ってくれていたんだとか。

 だが、その関係が最近になって破棄されたらしい。

 理由は――


『存じ上げませんが』

「知ってても教えないだけだろ?」

『ななななななんの事だかサッパリですっ。とにかく、聖なる獣との関係が破棄されてからは、モンスターが家畜を襲うようになったみたいですよぉ?』


 明らかに俺と視線を合わせようとしない。バレバレだなー。マジこのNPC面白いわ。


『そ、それで、クエストを受諾しますか?』

「え? これクエストなんっすか?」

『っは!? なななななんでもございません。お忘れになってください』

「いやいや、今明らかに『クエスト』って言ったよな」


 受付嬢以上のうっかりさんだな。

 調子に乗って弄っていると、突然尻に電気が走った。


「っぬひぃ!?」


 へにゃへにゃと力が抜けるような感覚に襲われる。


『カイト様。あまり虐めないであげてください』


 っと、耳元で受付嬢がぼそりと言う。

 こ、この野郎。尻尾を掴みやがったなぁ。


「ひ、ひっぽを、掴むにゃ」

『あ、申し訳ございません』


 っくぅー。力が抜けすぎて呂律が回らないじゃねーか。

 こんな弱点があったとは、糞ぅ。

 尻尾を解放されて、ようやく体に力が入る。


「わ、解ったよ。じ、じゃあ、アレだ。ちょっと気になるからー、見に行ってみるかー?」

「メチャクチャ棒読みね」

「ケモミ族の村、見て見たいですよね~」

『はい。行きましょう』

『あ、ありがとうございますぅ』


 情けない声を上げながら、何故か職員NPCは受付嬢に感謝している。

 その直後、俺の視界にシステムメッセージが浮かんだ。


【クエスト『月光の森の聖なる獣1』が発生しました。受諾しますか?】

【YES / NO】


 ここは『YES』をタップしておく。


【クエスト『月光の森の聖なる獣1』を受諾しました】


『あ、あの。クエスト一覧は、タブレット画面に新規に追加されたメニューからご覧頂けますので』


 やや引きつり気味の笑顔で職員NPCが見送る。

 次来た時もこのNPCの所に並ぼう。

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