15:モモもずモモも蛾のうち
随分とカラフルな蛾だな。
黒く縁取られた羽は、赤やら黄色やら蛍光緑で模様が描かれている。
えーっと、モンスター名とレベルは――
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【モンスター名】☆ムーンモス
【レベル】19
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レベル19か。
奴の頭上に現れたモンスター名とHPバー。その前にあったのは星マークだ。
レアモンスターだな。
「まさかレアモンスターまで昼夜で違うとはな。有り難いぜっ」
嬉々として叫びながら、ポーション瓶を受付嬢に投げつける。
っぱりんという乾いた音とともに彼女のHPが回復し、濡れた髪をかきあげる仕草をしてからお辞儀を寄こした。
次にアイテムボックスからポーション瓶を取り出す。
地面にそれを並べて置くと、ムーンモスのタゲを取る為に飛び出した。
「ポーション置いたから拾っとけっ。俺が投げるのに追いつかなくなったら自分で飲むんだぞ」
『はい。ありがとうございます』
立ち位置を交替すると、降下してきたムーンモスに初攻撃スキルをお見舞いする。
「シャドウスラッシュッ」
叫ぶことで発動したスキルのモーションを体で覚える。
モーションを意識して繰り出す事でも、スキルは発動するからだ。
身を屈め、やや前傾姿勢ですれ違い様に繰り出す斬撃。
短剣は意識していなくても勝手に逆手で握られていた。
これが『シャドウスラッシュ』。
《モモモモモモモ》
ちょ。蛾が喋った!?
いや、鳴いたか。それにしても鳴く蛾とか、見た事ねーぞ。
頭頂部の触覚をうねうね動かし、獲物である俺をじっと見つめる。
正直、きもぃ。
体だけでも1メートルはあるムーンモス。羽を広げれば3メートルぐらいにはなってそうだ。
『カイト様、交代します』
「あぁ。んじゃ頼む」
無言で頷いた受付嬢とポジション交替をし、俺が彼女の背後へと回る。
そして無言で『シャドウスラッシュ』を叩きだす受付嬢。
……NPCえげつねー。最初からモーション知ってんだもんよ。
しかしダメージヘイトでは俺の『シャドウスラッシュ』を上回れなかったようだ。
っふふふ。ちょっと優越感。
《ずモモモモピッー》
上空を飛んだムーンモスが、触覚から赤い怪光線を俺目掛けて放った。
「あっじじじじじじ。おい、どこの大怪獣だよ糞っ」
『カイト様、ダメージ800です』
うげっ。結構痛いぞ。
急いでポーションを取り出して一気飲み。
その間に無事、受付嬢がタゲを取ってくれた。
ダメージヘイトを稼がなくていいよう、今の内に『スティール』しまくっとくか。
しかし、こう飛び回れてたら『スティール』するチャンスも少ない。
先に羽を毟り取るか。
受付嬢に怒りの矛先を向けている間に、奴が降下してくるタイミングを見計らって――跳躍!
背中に飛び乗ると、大きな羽の根元に短剣を突き立てるっ。
「うっしゃー! まず1枚毟りとったど……あ、ヤベ……」
奴の羽を掲げた途端、視界が揺れて地面へと落下する。
こいつ、羽に麻痺性の麟粉もってやがった。
《モッギャアァァァァァッ》
意識はあるが動けない。
そんな中、奴の悲鳴を聞きながらざまーみろと細く笑む。
怒り狂ったムーンモスは、俺ではなく受付嬢へと向っていった。
よし、ヘイト移ってて良かったぜ。
暫くすると体の自由を取り戻し、普通に動けるようになった。
時間にして20秒ぐらいか。結構長いな。
「麟粉に麻痺毒が混ざってるっ。気をつけろ」
『はい。ありがとうございます。しかし、解除手段が時間の経過しかございませんね』
そうだな……。状態異常を解除できる『リカバリーポーション』も作れたんだが、面倒くさくて製薬しなかった。
そろそろこの手のポーション需要も高まってくる頃だよな。今度作っておくか。
片方の羽だけでは上手く飛べなくなったムーンモスだが、地面に這い蹲っては怪光線を放つわ、麟粉を振りまくわ……。
なかなかヤバイモンスターだぜ。
怪光線は直線的なので、モーションが解れば回避は困難ではない。
ただ麟粉はそうもいかなかった。
羽を震わせると麟粉攻撃の始まり。範囲がそこそこ広く、盾役になっている受付嬢をムーンモスが追いかけるのでどうしても彼女は犠牲になってしまう。
その時には俺がスイッチしてヘイトを取り、彼女の回復を待つ――という戦い方だ。
『ご迷惑をお掛けしまして、申し訳ありません』
何度目かの麻痺から復活してきた受付嬢がそう言う。
返事代わりにポーションを一本投げると、彼女の肩にぶちあたって服を濡らしてしまった。
……いかん。
奴の胸の膨らみがモロに出てしまった。
っつーか、一口で飲める量なのに、なんであんな濡れるんだよっ。
出来るだけ見ないように努め、このもやもやをムーンモスへと叩き付けた。
「お前が全部悪いんだっ!」
《モモモ!?》
「すももももももももの内だっ糞!」
《モモモモモ!?》
「いいからなんか寄こせっ」
あ、やっと『スティール』が成功した。
っふっふっふ。さぁ、全力で畳み掛けるぞっ。
『電光石火』で怪光線を潜り抜け、ムーンモスに『シャドウスラッシュ』を叩き込み、一撃離脱。
麟粉の時には離れ、嬲られまくる受付嬢にポーションを投げて支援。
羽を早めに切り落としたのは正解だった。
攻撃パターンがこの二つに絞られたからな。
そして遂に止めを刺す時が来た。
ムーンモスのHPはレッドゾーンの、しかも縦線一本分ぐらいにまで減り、あと一撃で倒せるだろう。
そう思った。
「っち、最後にまた麟粉かよ。往生際が悪ぃーな」
ポーションを取り出し、受付嬢へと投げ込む。あとは麟粉が収まるのを待つだけ――なのに、奴の触覚がもそもそ動き出しただとっ!?
怪光線かよっ。
慌ててポーションをもう一本用意し、CTが切れるのを待つ。
放たれた怪光線は、一直線に受付嬢を貫く――のではなく、麟粉に反射して無数の光線へと変貌した。
『っきゃあぁぁぁぁぁっ』
細い線となった怪光線が彼女を幾重にも貫く。
拙い。ダメージが跳ね上がってるぞっ。
見る間に彼女のHPがレッドゾーンに達しようとしている。
それでも怪光線はまだ止まない。
最後の最後でこれかよっ。
このままじゃ、やられちまう。
NPCがやられたらどうなるんだ?
「っち、考えてる暇なんてねーだろっ」
手にしたポーションを一本投げ、『電光石火』を使って受付嬢の下まで一瞬で駆け寄る。その間にポーションをもう一本、取り出しておいた。
怪光線が飛び交う中、受付嬢を抱きかかえて走り出す。
《ッモモモモー》
「っるせー! これでも食らえっ」
追って来るムーンモスへと振り返り、手にしたポーションを投げた。
奴に向って真っ直ぐ飛んだポーションは、乾いた音を立てて割れ、その中身をぶちまけた。
どす黒い液体がムーンモスの顔を濡らす。
《っモ……モモモモモモモォォォォォォ》
投げたのは『腐ったポーション』。
腹を壊したのか、瓶が当たったダメージなのか、苦しみもがくムーンモスは、暫くすると動かなくなってしまった。
《技能スキル『ポーションアタック』を修得しました》
そんなシステムメッセージが視界に移る。
今の、攻撃スキルになったのかよ……。
「はっはっは。討伐成功っと――」
そう言って俺は肩をぽんぽんと叩いた。
いや、叩いたつもりだった。
あれだよ、あれ。肩がこったからぽんぽん叩くみたいなー。そのつもりだったんですー。
なのに――だ。
俺が叩いたのは自分の肩じゃなく、何か弾力のある柔らかいものだった。
その正体を探るべく、横を見ると――
『あの、カイト様。カイト様はセクハラプレイをなさる方でしょうか? もしそうなら――』
「ぶぶぶぶぶぶわわわわわわ、ぶわっかっ! ち、ちげーよっ。お前を抱えてたのを忘れてただけだよっ。だれがセクハラプレイなんてっ」
肩に担ぎ上げた受付嬢を慌てて降ろし、さっきまで触っていた尻の感触を忘れるべく、何故か自分の尻を触った。
尻尾ふさふさ……しかも毛が思いっきり逆立ってるし。
大体、もしそうならって、そうだったら何だってんだよっ。
『そうですか。ではこのままノーマルプレイを続けますね』
「おお、おおぅ」
内心、ノーマルプレイって何だ? と疑問を抱きつつ、そそくさとムーンモスのドロップ回収に向った。
アブノーマルプレイもあるってことなのか?
『CT』
クールタイムの略。その他『DT』ディレイタイムと呼ぶMMOもあります。
一般的なMMOでは、スキルを使用すると、そのスキルが次に使用できるまで数秒から数分といった
待ち時間が存在します。この時間の事をクールタイムやディレイタイムといいます。
CTと書いてキャストタイムと呼ぶものもあり、こちらはスキルを選択して発動するまでの時間、つまり魔法でいう詠唱時間という意味になります。
『VRMMOでぼっち~』では、CT=クールタイム。詠唱時間はそのまま詠唱時間と書く予定です。
といっても、前衛職のスキルってキャストタイムは無いも同然なんですけどね。
平日の更新はお昼12時の予約投稿で当面は行こうと思います。
今回はちょっと男の子させてみました。
受付嬢の最後のセリフがいろいろと妖しいですが、アブノーマルプレイ推奨だとどうなるのやら。
18禁タグ付けていませんので、これ以上は触れないでおこう。
ムーンモスのイメージは『モス○』か『バト○』でお願いしまs




