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 出た先は森の中。

 どこにもアオイの姿は無く、だが遠くから聞こえる獣の唸り声で現場はすぐに分かった。

 受付嬢とともに駆けつけると、そこはまさに怪獣大決戦場!

 五本の尻尾を持つ巨大狐と、ダンプカーより若干小さい、一本尾の狐とが取っ組み合いをしている。

 その周辺では唖然と見つめるプレイヤーと、横たわって戦闘不能状態のプレイヤーとがいる。かなりの人数だな。

 クィント達が言っていた、二十メートル級には見えないな。


《ガアァァァァ》

《ととさまっ! 倒れてよぉ》

《ガアァァァッ!!》


 おっと、五尾が立ち上がったぞ。

 あぁ、そういう事か。

 後ろ足で立ち上がると、確かに二十メートルは超えてそうだわ。

 ってか立つのかよ!

 その足元で狐バージョンのアオイが駄々っ弧パンチを繰り出しているが、まぁ効いてないですよねぇ。


《ととさまが倒れてくれれば、それでいいんだぉ。ちょっところっと、ねぇ、ころっとぉ》


 必死に足を引っ掛け転ばそうとしているアオイ。

 この状態で五尾と戦える訳ない。アオイは必死に父親を『倒そう』としているだけなのだ。

 俺たちプレイヤーが言う『倒す』とは違う。

 ただその場に転ばすだけの、その『倒す』なのだ。

 そして父親に『参った』と言わせるんだろう。そうすれば勝利すると思っているのだろう。

 でもきっとそれは違う。

 マザーの提示する勝利は、五尾のHPをゼロにする事。


「そんな事したら、アオイが悲しむだけじゃねえか」

『……カイト様……』


 駄々っ子パンチを繰り出すアオイの足元で誰かが動いた。


「『ハイランド・ブレイク!』」

《ギャオオォォォォッ》


 呆気に取られたプレイヤーも段々とその光景に慣れ、行動を開始しはじめた。

 まるでアオイを盾にするような形で、一人、また一人と戦闘を再開しはじめる。


《やめてぉ。ととさまを虐めないでぉ》

「悪いなチビ狐。こいつを倒さなきゃ、俺たちはログアウトできないんだっ」

「俺は別にログアウトできなくてもいいし、そこにボスが居る限り倒すだけさっ」

「俺は両方かな。レア欲しいしログアウトもしたい。今度『夢見る天使・アイドルファンタジー』がアニメ化するんだよ! それを見なきゃならないんだよう!」

「ヲタクめっ」

「あぁ、それ俺も見るぅ」

「同士よ!」

《グルガアァァッ》


 怒りの咆哮を上げる五尾の攻撃を、プレイヤーはアオイの影に隠れてやり過ごす。

 当然、その攻撃はアオイに向けられ――


《痛いぉっ。ととさま、やめてぇ》

「アオイ!」


 慌ててポーションを投げ、アオイの傷を回復する。

 もうやめてくれ。

 プレイヤーの、俺たちのエゴでこの親子を巻き込むのはやめてくれ。

 こんなの……こんなの……


「全然楽しくねえよ! こんな糞ゲー、クリアする価値なんか無いっ!!」

「はぁ? 何言ってんだっ。クリアしなきゃログアウト出来ねえんだぞっ」

「だからってアオイが悲しむのは嫌なんだよ!」


 周囲のプレイヤーからひしひしと伝わる敵対心。これがヘイトか。


「ログアウト作戦は、確かお前達が広めたんじゃなかったのか?」

「今更無しにしろって、都合が良過ぎるだろ」

「そもそもNPCなんだぜ? そんなに感情移入するなよ」


 分かってる。

 でもこのゲームの中でずっと一緒に居たんだ。NPCだからって、無感情になれる訳ないだろ!

 寧ろこいつらはどうなんだよ。贔屓にしているNPCの一人や二人、居るだろ?


「マス、ター……私、やっぱり参加できません」

「私も。ポーションを買いに行ったときよく見る、店番をしているあの狐ちゃんのお父さんだと分かったら……倒せない」

「僕も。早くログアウトして両親に会いたい。そう思うからこそ、あの子の気持ちも分かるし……」


 居た。

 俺と同じ気持ちの人も居た!


「そうだよ。アオイは出会ったときから父親に会いたがっていた。それがこんな形で……俺たちが、いや、俺が変な提案をマザーにしたばっかりに、こんな形で出会わせてしまったんだ。だから……アオイ、ごめんな!」


 五尾の足元にしがみ付いたアオイは、首をふるふると振って、それから人バージョンの姿に変わった。その姿は俺の知るアオイとは少し様子が違っていた。

 身長が伸び、少しだけ成長したアオイだった。


「いいんだぉ、カイト。カイトたちは元の世界に戻らないゃいけないんだぉ。アオイ、よく分からないけど、そう思うの」

「アオイ……なぁ皆、聞いてくれ!」


 五尾と戦っている者、まだ状況を把握しきれていない者、戦う事を躊躇している者、全員に呼びかける。


「アオイは父親を倒そうとしている。でもそれは、俺たちプレイヤーが言うのとは違う意味の倒すだ」


 その場にドタっと倒して、参ったと言わせる。

 それが目的だ。


「だからそれを一緒に手伝ってくれ!」


 静まり返る戦場。

 五尾だけが唸り声をあげ、何人かのプレイヤーを薙ぎ払っている。


「無理に決まっている」

「どうやって参ったと言わせるんだよ! 娘の事すら理解してないんだぞ」

「理性がありませんね」

「そんな事分かってる! アオイ、親父の目を覚まさせるんだ。いいか、絶対にだ!」

「分かったお! アオイもととさまにアオイの事、思い出して欲しいもんっ」


 そう叫ぶとアオイは再び狐の姿へと戻った。


『アオイ、進化しておりますね』

「進化?」


 受付嬢が指差すアオイの尻尾が……二本!?

 うぉ、マジで進化してる。しかもサイズだってさっきよりでかくなってるし。


《ととさまっ。アオイだよ。ととさまに会いに来たんだぉ!》

《グルルルルゥ》

《ととさま……アオイの事、忘れてるなんて酷いぉ!!》


 そう言ってアオイ狐が飛びかかる。

 それをがしっと受け止め、微動だにしない五尾。

 よし、今だっ!


「足を狙え!」

「転倒させるだけでいいんだなっ!」

「一応作戦には乗ってやるっ。けどなぁ、ダメだったときは――」

「ダメなんてことは無い!」


 絶対に成功させる。

 それしか方法はないんだ!

3/27:新作を投下しました。

「転生魔王様。勇者召喚されたけど全力でスローライフを送ります(願望)」

コメディ色強めの異世界転生&転移物。こちらもよろしくお願いします。

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