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135:カジャール襲撃3

 レイドパーティー戦を開始して十分ほど経った。

 が、取り巻きを召喚する気配が無い。

 それはそれで有り難い事なんだが、なんか拍子抜けな気もしないではない。


「属性単位で潰していたら再召喚してくるくせに、全属性を一度に潰していれば召喚しなくなるとはな……」

「しかし、全属性対応の魔法などありませんじゃろ」

「無いな」


 雑魚がいなくなった事で余裕が出た鋼のおっさんと教授の会話が聞こえてくる。

 全ての魔法は何かしらの属性があって、魔術師はモンスターの苦手な属性で攻撃するというのがセオリーだ。だから今回みたく、モンスターのグループ内に複数の属性が混ざっているとやり辛いもんだ。魔術師様の超範囲火力が、場合によっては敵を回復させる手段にもなっちまうからな。


「まぁしかし、雑魚がいなくてもボスの強さは健在な訳でーっ」


 俺がわざとらしく大声を張り上げると、はっとなった鋼のおっさんが二枚盾を構える。

 雑魚の相手をしなくてもいいが、コボルトキングの攻撃はしっかり防いでくれよ。でなきゃ……


《グルガアォォォン》

「ふんぬぅーっ」


 コボルトキングの爪とおっさんの二枚盾とがぶつかる。

 通常攻撃ですら、まともに食らえば俺のHPは半分吹っ飛ぶんだ。今は回避向上の『アヴォイド・ブースト』も切ってある。あれ、MPの消費が案外激しいんだよな。

 素の回避率だって低くはないが、万が一の事を考えるとおっさんにはしっかり肉壁になってもらわねば。


「しかし、ヘイト主への攻撃も、その前に他人が立ち塞がる事で回避できるなんて……さすがVRってことだよな」

「そうだねぇ〜。鋼のおじさん様サマだよ。今度からカイトは鋼のおじ様って呼ばなきゃね」

「どこの少女マンガだよ。キメェ」


 コボルトキングの攻撃の合間に、ひょっこりおっさんの後ろから飛び出し、ヒットアンドアウェイで切り付ける。

 ソルトから託された『コボルトキラー』は、通常の攻撃力自体は元々持っていた短剣の八割ほどしか無い。だが、対コボルトに関してのみダメージが二倍になるという性能だ。お陰でスキル攻撃やクリティカルでも入ろうものなら、なかなか良いダメージを叩きだしてくれる。


 じわりじわりとコボルトキングのHPを削ってはいるが、優勢ばかりという訳でも無い。

 俺のカウンターは物理攻撃をキャンセルすることは出来るが、どうにも魔法攻撃はタイミングが合わないのか、キャンセルさせられない。

 たぶん、遠距離攻撃扱いだからだろうな。

 糞、至近距離で撃ってるってのに……システムが憎い。


 そんな訳で――


《グルオオオォォォッ》

「げっ。アレが来るぞっ」

「後衛、ヒーラーは退避いぃーっ」

「前衛南無ぅー」

「南無」


 後衛グループが一斉に逃げていくのと同時にコボルトキングが真っ赤に燃え、地団駄を踏む。

 辺りがぐらぐらと揺れ、俺の視界が真っ赤に点滅し、やがて白黒の世界になった。


《戦闘不能に陥りました。セーブポイントへ帰還しますか?》

《YES / NO》


 もちろんNOだが、地団駄が完全に終わるまで待つ。それが終わると三秒程度だが、コボルトキングの動きが止まる。その隙に死亡したメンバー全員が復活するわけだ。


「俺、ふっかーっつ!」


 した途端にコボルトキングのヘイトが集まる。

 普通、死んだ瞬間にヘイト量もリセットされるんだけどなぁ。ったく、こいつ、どこまで尻尾切られたの根に持ってんだよ。


 そうこうしているうちに、あれよあれよと他のプレイヤーも集まってきた。

 最初のうちはレイドボスだからと遠巻きに見ていたのだが……。


「ちょ、巻き添え食らったじゃねえかっ」

「さっさと倒せよ。次が待ってんだぞっ」

「これ襲撃イベントだろ? もうレイドとか関係無いんじゃね?」

「みんなでボコれば怖くないっ」


 そして……五十人以上での乱戦が始まった。






「これ、レイド産アイテムが出たらどうなるの?」

「ボスのHPの六割は我々が削っている。貢献度的に見ればこちらに回ってくるだろう。たぶん」

「レアに、目が眩んだ、雑魚、どもめ。PK、未実装、なのを、感謝しな」


 みかんさん、相変らず辛辣すぎるんですが。

 まぁ俺も同じこと思ってたけどな。

 いっそ『ベナムクラッシャー』を使ってやろうかとすら思える。


 しかし、人数が増えようがさすがはレイドボス。

 コボルトキングのスキルモーションを知らない連中は、物理範囲ですらまともに食らって死ぬ。

 中にはソロで突っ込んで来てる奴等もいて、誰からもバフられる事無く、更に正面からかっこつけて戦おうとして――俺に飛んで来るであろう拳を食らって死ぬ。おかげで俺は無傷だ。

 

 屍累々。


 だがここは町の中。

 蘇生魔法やらアイテムでその場復活するのもいるが、多くはセーブポイントである教会から走って戻って来る。

 更に教会でレイドボスの事でも触れ回っているのか、続々と参戦するプレイヤーが増えていた。

 ここまで増えると、例え取り巻きのエリートコボルトや召喚されても……意味なさそうだな。


《グオオオオオオオオオーンッ》


 コボルトキングも自分の置かれた状況を把握したのか、激しくムカついているご様子だ。

 その辺に転がっている材木を拾いあげては、適当に投げつけはじめた。


「って、そんな攻撃スキルなかっただろっ!」

『あれはスキル攻撃ではないようですね。遂にオブジェクトすらも投げ始めてしまうなんて、なんて低脳なAIでしょう』

「呑気に解説すんなっ。おわっ、あっぶね!」


 投げてくる物が大きいだけあって、回避もままならない。

 あんなもの、まともに食らったら即死だぞ。なんせ、町の建物すら木っ端微塵になってるからな。


 プレイヤーの屍と破壊された建物とがどんどん増える中、それ以上に集まるプレイヤー。

 破壊音に引きつけられて集まってきたんだろう。

 中には見覚えのある顔もあった。

『サンダーボルト連隊』のギルマス、サンダーボルトだ。

 俺と視線があうと、彼は苦笑いをしてやれやれといった仕草をする。それからコボルトキングと自分とを交互に指差し、いいのか? という口の動きをしてみせた。

 今更了解を得ようなんていう輩がいるとはなぁ。随分と律儀な男だ。

 なんとなくほっこりしながら苦笑いで頷くと、じゃあと言わんばかりにサンダーボルトが剣を抜き放つ。更に周辺にいた同じギルドの連中にも声を掛けた様で、高レベルっぽい装備の奴等が一斉に戦闘態勢に入った。


 あ、これはすぐに決着が付くな。


 初めてのレイド戦。

 俺たちの手で決着を付けたい。こいつに最初に挑んで逃してしまったのは俺たちだから。

 そう思っていた。

 でも、今のこの状況――嫌いじゃない。

 なりふり構わず突っ込んでいって、皆で馬鹿力ばかりょくをぶっぱして、一匹の巨大モンスターにゾンビアタックを仕掛けていく。

 知らない人から支援を貰い、知らない人にポーションを投げ、知らない人に感謝し、知らない人から感謝される。


 あぁ、俺今、オンラインゲームやってるなぁと実感できる瞬間だ。


《グルルア゛ァァァァ》

「っけ。この期に及んで物理範囲かよっっと――」


 奴の眼が光り、両手の拳を天高く掲げる。

 そのまま拳を振り回し、近距離範囲内のプレイヤーを吹き飛ばすスキルだ。

 奴が掲げた拳を振り下ろすタイミングに合わせて――


「『カウンター』からの『カオス・スラッシュ!』」


 カウンター攻撃に『カウス・スラッシュ』を乗せる。

 両手を広げるようにして振り回そうとしていたコボルトキングは、急所である心臓ががら空き状態だった。

 俺はそこを狙い、コボルトキラーの一振りを浴びせる。


 こうして、長かったようで短かった奴との戦いも幕を閉じた。


*おの先しばらく、完結に向け暗い展開が続きます。

が、最後はちゃんとハッピーエンドになりますので、生温かくお見守りください。

そんなわけでして、暗い展開を何日もダラダラ続けるのもアレなので完結まで書き溜めしてから

連投しようと思います。

一応この回から10話ちょっとで終わるかなぁと思っておりますが

暫く更新をまたお休みいたします。

来週末ぐらいに書き終わればいいなぁ……。

あまり長く掛かるなら途中まででも連投いたします。

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