126:チワワの砦。もとい。コボルトの砦。
出てくるコボルトは全て毛の短いチワワにて脳内再生してください。
よろしくお願いします。
コボルトの砦にやってきた。
初回アタックということで、攻略できないだろうという事を前提にだ。
「レイド攻略掲示板情報では――」
教授が簡単な説明を開始する。
今現在、他のプレイヤーがレイドエリアに入っている為、俺たちは中に入る事が出来ない。
所謂順番待ちだ。
順番待ちをするためには、砦の入り口で並んでいなきゃならない。が、もちろんコボルトがうろうろしている訳で、こいつらを蹴散らしながらの順番待ちになる。
魔術師系、弓系メンバーが範囲攻撃でどっかんどっかんやりながら、作戦会議も行われた。
「何故かケモミ族がヘイトターゲットになりやすいという話しだ。よって、ココットとにゃーにゃの二人を同じパーティーにし、このパーティーには少し遅れて入って貰う」
「メイン盾であるわしが十分にヘイトを稼いだら、コボルトキングのいるボス部屋に入るという事じゃ。それまでは部屋の外で待機。いいか?」
「は〜い。よく解りませんが、待ってればいいんですね?」
鋼のおっさんが硬直するのが解る。さすがだぜココット。
って待てよっ!
「おい、俺もケモミ族なんだけどっ」
「「は?」」
全員が一斉に俺を見つめる。その背後でみかんの隕石召喚魔法が、まるで効果エフェクトのように炸裂した。
ちょ、そんな……こっち見んなっ。
「あぁ、そうだったな。君もケモミ族だったな。忘れていたよ。いや忘れるはずはないんだがな、その尻尾はでかいし」
「カイトさん、ぶわってなってますよ。ぶわって」
『恥ずかしいのですか?』
「う、五月蝿いっ! こっち見んなっ」
ぶわっと広がった尻尾を抱え抗議するも、皆からはニヤニヤした目で見つめられる。
くぅー。やめろよ。戦う前から俺のライフがゼロになっちまうだろっ。
「どうする? カイト君は近接戦力だもんねぇ。回避も出来るうえに、技能性能のお陰でプチ硬いし」
ナツメ……俺の事をそんなに評価してくれてんのか。
「それ以上にNPCのアオイちゃんの予備戦力が大きいよ」
ナツメ……本音はそっちだったのか……。
名前を呼ばれたアオイは、俺の肩の上でおおはしゃぎだ。まぁ確かに、でかくなった狐アオイは強かったよな。
まさか今回もかーちゃんが飛んで来たりしないよな? それで倒せたとしても、なんか達成感が得られねえし。
「ア、アオイ。ここでの戦闘ではかーちゃんを呼んだりするんじゃねえぞ?」
「ぉ? ははさまは森からあまり離れられないから、ここまでは助けにこれないぉ」
「おぉ、そうか」
良かった。これで安心だ。
様子見作戦のほうは、こういう話しで纏まった。
今回は俺も後続パーティーに配置される。
鋼のおっさんをメイン盾にした第一パーティーに高火力メンバーを集め、サブタンクを担うロックと準火力メンバー、及び戦闘補助系スキルが豊富なメンバーを揃えた第二パーティー。この二つのパーティーがまず突っ込む。
おっさんが十分にヘイトを溜めたのを見計らって、エリュテイアをタンクにした第三パーティーが遅れて参加する――という計画だ。
ケモミ軍団は第三パーティーに配属される。
「またご一緒ですね、カイトさん」
「カイトとパーティー組むのって、久々じゃないかな?」
「そういや、そうだったなぁ。最近はもっすんとかクィントと一緒だったし」
「クィントと一緒だなんて、羨ましいにゃ」
あ、にゃーにゃって名前の通り、語尾に「にゃ」を付けるRPなのか。見た目も猫のケモミ族だしな。
「にゃーにゃもアサシンか。なら確かに殴り神官のクィントとは相性良いだろうなぁ。けど――」
「呼んだデスかー?」
「呼んでねーよ」
出てきたな。にゃーにゃがこいつと一緒なのを羨ましがっている、なんてことを知ったら、この変態エロ破壊僧は何をするか解ったものじゃない。
とっとと退場して貰わねば。
「にゃーにゃさんが、クィントさんとカイトさんが一緒に狩りしていたのを羨ましいって言ってたんですよぉ」
「そうにゃ。モンクと組むと無双状態で楽しいって聞くにゃ」
「oh! それは今度ぜひ今すぐにでもハネムーンにレッツらごぶっ」
俺が殴る前に、クィントの頭頂部には分厚い本の角が刺さった。ニュータイプの本だ。あれでも一応武器だからなぁ。いや寧ろあの角は痛いだろう。なんせ角は鉄製のカバーみたいなので装飾されてるからな。人も殺せそうだ。
「今はレイドだろう、クィント君?」
「yes my master ……」
第二パーティーでは既に主従関係が出来上がってんのか。
ニュータイプ……名前の通り、凄いやつだ。
交替で昼飯を食い終える頃、ようやく俺たちの順番がやってきた。
もしかして前の攻略組がコボルトキングを倒したりして――は無いみたいだな。
砦から出てきた十八人は、全員して青ざめた顔をしていた。あの顔で攻略できたってのは、ないよな。できたのなら、もっと明るい顔をしているだろうし。
「では――こういう時の号令は大家に任せようか」
「いや、教授……そこで俺を出すなよ」
「これもコミュ障の克服修行と思え」
ぐっ。痛いところを突いてきやがる。
そ、そうだな。修行だな。
どきどきどきどきっ。
「えー……」
あれ?
何を喋れば良いんだ?
レイドは初めてだし、こういう時って、どう号令掛けるんだ?
「えー……」
《ギャワワンッ》
砦から一匹のコボルトチワワが襲ってきた。
余裕で回避できるが、なんといってもワンワン五月蝿い。
「『シャドウスラッシュッ』」
《ギャインッ》
ふ……一撃だぜ。余裕だぜ。
さて、何を喋ろうか。
みんなの熱い眼差しが俺に注がれているのが解る。
「えー……」
《ギャワワンッ》
砦から一匹のコボルトチワワがまた襲ってきた。
余裕で回避できるが、なんといっても以下略。
「『カオス・スラッシュッ』」
《ギャインッ》
手を抜いて攻撃。
倒れることのなかったコボルトチワワは、混乱して砦内の他コボルトに突撃していった。
おぉ、コブルト同士でやりあってるぞ。なかなか楽しいな。
あ、混乱してたコボルトが倒れてしまった。
ぉ、経験値は入ってくるんだな。ドロップは拾えるんだろうか。後で行ってみよう。
あっ!
今はそんな場合じゃなかったんだった。
「えー……」
《ギャワワンッ》
砦から一匹のコボルトチワワがまた襲ってきた。
余裕で回避できるが――あ、あれ?
砦の奥に向うみんなの姿が見えるんですけど? あれ?
『カイト様。みなさま痺れを切らして中に入られましたよ』
「ちょ、待って」
『『スティール!』――骨でした。さ、まいりましょう』
何サラっと『スティール』して骨なんか盗んでんだよっ。
待って、置いておかないでぇ〜っ。




