100:《YES / NO》
いつでもカウンターが打てる訳ではない。なんせ俺に向って仕掛けられた攻撃に対してしか使えない、反撃専用スキルだからな。
範囲攻撃には対応しているからヘイトを取らなくてもなんとかなるが、逆に言えば範囲が来ない限り使用できない訳だ。
だからってヘイトを取ろうものなら、コボルトキングの通常攻撃二発であの世に逝けるっていうね。
「スキル攻撃でもダメージ150いくかどうかとか……もうね……」
『今の段階ですと、『カウンター』以外は、その……ゴミヒールに習うなら、ゴミダメージですね』
「そこ、習わなくていいから」
などとナツメが凹むのを横目に見ながら、範囲攻撃に合わせて『電光石火』と『カウンター』を仕掛ける。
『急所突き』は特に意識はしていないが、ダメージ量はやっぱり1000オーバー。もしかしてパッシブ系か?
俺の『カウンター』を数発食らい、コボルトキングの尻尾のうち一本は半分以下の長さになっている。それでも、HPバーは微動だにしていない。
ふと、奴が自分の尻尾をチラリと見た。
短くなった尻尾に驚愕するコボルトキング。
今更じゃね?
と思った瞬間だ。奴が地団駄を踏み出し、地面が揺れる。
これ、範囲攻撃じゃねーだろうな?
慌てて『電光石火』で距離を取ると、ここで再びシステムメッセージが。
《【瞬身】技能がLV:50に到達しました。特位技能【神速】が派生しました》――と出る。
ここに来て新しい技能の派生かよ!
技能ポイントはあったから修得できるが、タブレット開いてる余裕もねーってばよ。
「ぬおおおおぉぉぉぉっ。痛いであるうぅぅぅぅぅっ!」
「え?」
突如、鉄壁だと思われたおっさんが悶える。
「っぷ。VIT全振りしかしてない鋼、物理には強いけど、他はカス」
いや、そこ笑ってる場合じゃないだろみかん。
普通に考えれば、前衛物理職なんて魔法ダメージに弱いのは当然といえば当然だ。
さっきのコボルトキングの地団駄攻撃は魔法に分類されるんだな。『カウンター』も効かないだろうと思ってたが、逃げて正解だったぜ。
そしてモロに食らったおっさんは、かなりのダメージを受けたみたいだ。
こっちとはパーティーが違うので、どのくらい食らったのかが解らない。念のため『ライフポーション』を投げておいてやるか。
投げの構えに入ると、再びコボルトキングが地団駄を踏む。
ちょ、マジかよ!
このタイミングでそうくるか?
おっさんが弾み、投げたポーションは目標を逸れて地面に落ちる。
あ……なんか野菜が生えてきたぞ。そうか、ここはサマナ村の畑なんだな……
「って、俺は野菜を育ててんじゃねーんだぞっ!」
『カイト様のポーションは野菜にも効果があるのですねっ!』
「そこ、感動してる場合じゃないでしょー」
『っは! も、申し訳ありません』
エリュテイアに怒られしゅんとする受付嬢を横目でチラ見。
……馬鹿可愛い奴。
……はっ!
俺は今いったい何を考えていたんだっ!
「ぬわあぁぁぁぁぁっ」
「お、おっさん今助けるぞっ」
地団駄攻撃に苦しむおっさんに、再びポーションを投げつける。べ、別に恥ずかしいのを誤魔化す為じゃねーからなっ。
今度は跳ねるのも計算に入れて、タイミングを見計らって――
ッパリンという乾いた音は、今度こそおっさんから聞こえてきた。
うしっ。ど真ん中だぜ。
――が、おっさんは動かない。
背中から地面に叩きつけられ、そのままピクリともしなかった。
「え?」
「地団駄の連続で、鋼のHP、ゼロ。美樹のヒールも、間に合わないぐらい、ゴリゴリ削られてた。ヘイト、カイトにいくわよ」
「え? お、俺?」
おっさん=鋼が……戦闘不能?
鋼のおっさんが死んで、ダメージヘイトを取ってる俺に向ってコボルトキングが吠える。
「リザは!?」
「1次職に『蘇生』はありませんよっ」
「たぶん2次職からデース」
美樹とクィントが同時に叫ぶ。
『カイト様っ、前!』
「あ?」
後方から視線を正面に戻すと、既に目の前に毛深い拳が迫っていた。
電光石火――も間に合わず、モロにパンチを食らって視界が真っ赤に染まった。
あれ?
これって、戦闘不能状態じゃね?
《戦闘不能に陥りました。セーブポイントへ帰還しますか?》
《YES / NO》
あ、やっぱ死んでやがんの。
体は動かせないが、視力は生きているようだ。
俺が死んだ事で、次に教授にタゲが移り――みかんに移り――エリュテイア――受付嬢――
俺たち、やっぱレイドボスなんて倒せる訳ねーよな。
あんなの、大手ギルドの連中が、メンバー同士で力合わせてやっと倒せるようなモンスターだぜ?
行き当たりバッタリな即興パーティーなんかでどうにかなるもんじゃない。
ま、時間稼ぎは出来たんだ。
十分じゃね?
なのに……
倒れたばかりのエリュテイアが起き上がる。
吹っ飛ばされたハズの受付嬢が立ち上がる。
みかんが再び杖を掲げ、魔法の詠唱を開始。
クィントが必死に『ヒール』で皆を癒す。
なんで立ち上がってんだ?
なんでそんなに頑張ってんだ?
《戦闘不能に陥りました。セーブポイントへ帰還しますか?》
《YES / NO》
……。
帰還……。
動かなくなった鋼のおっさん、美樹、ナツメ、教授。
誰も帰還しようとしない。そのまま屍状態で転がったままだ。
他の4人は、倒れては起き上がり、また倒れては起き上がっていく。
俺は――
「カイトぉ。起きてぉー。カイトぉー」
動かない俺に傍らで、アオイが必死にペチペチと叩いて起そうとしている。その目には大粒の涙が見えた。
俺は――
《戦闘不能に陥りました。セーブポイントへ帰還しますか?》
《YES / NO》
俺は――NOだ!
《『月光水』を使用しますか?》
《YES / NO》
え?
月光、水?
あ……
ああぁぁぁっ!
動かない俺の目が捉えたのは、ドス黒い拳を正面から受けようとしている受付嬢の姿。
YES――
「ああぁぁぁあぁぁっ!」
復活の刹那、電光石火からの『カウンター』を発動。
『カイト様っ』
「届けぇえぇぇぇぇぇっ」
俺に向って放たれた攻撃ではない。
けど、受付嬢の前を塞ぐように立った俺は、そのまま前方に倒れこむように二振りの短剣を突き出した。
祝! 100話目達成!
あれ?
これはデジャブだろうか?




