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3章9話 The Lonely King and the Werewolf

 ゼファー・フェンリル・アスガルス。そう名乗った馴れ馴れしい半神をクリフは一瞥する。

 天真爛漫な態度。それは自分が未来永劫どう生きようと身につかない気質であると感じる。起きない兄が少し重なって、不思議と声が柔らかくなった。

「顔と名前ぐらいは知っているよ。検査、どうもご苦労様だったね」

「ほ、ほら……王様ちょっと怒ってるじゃないですか! だから君はダメなんです!」

 ――柔らかくなったと思ったのは自分だけだったようだ。 

 抑え気味の声量ではあったが、レオのいう青年の言葉ははっきりとクリフの耳に届いた。

「だってボク、ずっと王様に会いたかったんだもん!」

「聞こえているよ。別に怒ってなんかいない。義務さえ果たしていれば、文句をつける理由がないからね」

 だがそのとき、ゼファーはぱたぱたとクリフに近づいてその手を握った。

 クリフは思わず驚き、振り解こうとしたが思ったより力が強い。

「なんだ? 急に!」

「王様! あの、ありがとうございました! 王様のおかげで病気の妹が助かったんです!」

「そんな慈善事業をやった覚えはない。というか、離してくれ」

「あ、ごめんなさい」

 ゼファーはクリフの手を離す。

「ボクが半神になったから、家にたくさんお金がもらえて。それで、妹が手術を受けられるようになったんです」

「報酬を渡すのは当然のことだ。半神は通常の人間より寿命も短くなるし、適合しなければ死ぬ可能性まであるんだからね」

「でも……このチャンスがなければ、妹は死んでたんです。だから、ずっとお礼が言いたかった。ボクの寿命なんて、ちょっとぐらい短くなってもいい」

 クリフはちくりとしたものが刺さるのを感じた。

 僕は、アダムを半神にしてしまった。

それは彼を生かすためだ。

 でも……兄弟の寿命を縮めてしまったことに変わりはない。

 クリフは頭に浮かんだ考えを振り払うように作り笑顔を浮かべてつぶやいた。

「……へえ、それはご立派なことだね」

 思わず皮肉が交じったのをすかさずレオが感じ取ったらしい。

明らかな焦りを浮かべてゼファーの耳を引っ張る。

「いってて! 耳引っ張らないで!」

「ほら、ゼファー! また人を怒らせて!!」

 クリフは呆れ、ため息をつきながらつぶやく。

「君は彼よりも無礼だと、いい加減に気づいたらどうだい? そんなにも僕が怒っているように見える?」

 そう言うと、レオはさっと顔を青ざめさせながら弁解する。

「あっ……いえ、そういうわけじゃないんです」

 どうやら自分は普通にしていても不機嫌に見えたり、相手を威圧しているように見えるらしい。

 母ゆずりの冷たさを感じさせる顔立ちのせいだろう。そうやって誤解を受けやすい上に、人とまともに関わり出したのがここ数年だからかもしれない。

 さっきゼファーに握られたせいでうっすら赤くなっている手を見つめる。

「しかし、獣神の『嘆きの残滓』は随分、見た目や表面的なものに異能が現れるんだね。その耳に尻尾、あとは力があまりに強すぎて驚いた」

「へへっ、いいでしょ! これ、ふわふわして気に入ってるんだ~!」

 本当にゼファーのふわふわとした厚みのある尻尾がぶんぶんと振れる。

 彼が体内に宿す神はフェンリル――。竜玉公国から高額で売りつけられた獣神の『嘆きの残滓』だ。

 フェンリルはフォルディアルス共和国に伝わる北方神話の『忌神』と言われている。

『忌神』とは、かつて善神ノーデンスに討伐されて地上からも歴史からも永遠に消え去ったと言われる神の『嘆きの残滓』。

 ヨグ・ソトースの暴走以前に忌神たちは息絶え、その聖遺物および『嘆きの残滓』さえも残らないとされていたはずだ。

 そんなものをどこで手に入れたのか炎龍に聞いても『ちょっと盗んだだけや』とはぐらかされるだけだった。

 叛逆国家となったフォルディアルス共和国の領土で入手することはあまりに困難だ。無神の時代において神の聖遺物レガシーは貴重な物資であり、密輸のルートさえも現状持つことができない。

 だが、炎龍はどこからか入手した忌神の強大なる『嘆きの残滓』をルルイエにもたらした。

 それこそがルルイエと竜玉公国の共同戦線。

 ルルイエのシールドが破られてもなお、宇宙神に対抗することができる最高神性の半神、『荒人神』を作るためのものだった。

 炎龍はネクロノミコンのあるページを開き、どう見ても記号にしか見えない文字を読んでクリフに説明した。

 かつてノーデンスによって討伐された、世界に『存在しないはず』の忌神の『嘆きの残滓』と時を繋いだ半神こそが至高の『荒人神』となれる可能性を秘めていると。

 『荒人神』はかつてヨグ・ソトースを殺したと言われる、ルルイエの古代王であり、原初の『荒人神』であるゼルク・ラーに匹敵する力を持つ……。

 クリフは思わず、炎龍を問い詰めた。

『荒人神を作るのに必要な忌神は、一体他の神と何が違うのです?』

『過去に人々を守ろうとして死んだ神々と違って、奴らは『自分の時を持たへん』。だからこそ、ヨグ・ソトースの受肉結晶とは呼応できる』

『時を持たないのになぜ……?』

『時の神ヨグ・ソトースには過去も現在も未来もない。すべての時間を掌握するがゆえに、すべてが地続きでかつ、奇妙な円形や。存在を消された忌神たちもまた、永久に『無』の中にある存在や、自分が善神に殺されたなんぞ認めへんがゆえに、時間の感覚が一切ない。ゆえにある意味、ヨグ・ソトースに近い……まあ、わからんかったら、考えるよりも感じろ』

『それぐらい、理解できます』

『ふ……上出来や』

 炎龍はどこからかもたらした忌神の『嘆きの残滓』を提供するかわりに、戦死した半神の魂を要求した。

 死者の魂は、彼らが国防および軍事産業による収益化に利用している『軍用霊獣キメラ』の動力となる。より優れた『軍用霊獣キメラ』を作るには、神と戦った経験のある半神の魂であることが重要なのだと炎龍は言った。

 炎龍の『嘆きの残滓』の能力は煙の龍を操る事、そして龍神の『聖遺物』(レガシー)の煙管により、魔香と呼ばれる合法煙草が持つある性質を『拡張』することができると言っていた。

 詳しいことははぐらかされてわからないが、炎龍が溶鉱炉に溶かす前の半神の遺体の近くで魔香を吹かすと、不思議な色の煙が遺体を覆いつくした。

ほどなくして、遺体からは淡い光がゆっくりと浮かび上がり、煙管の中へと吸い込まれた。不気味な光景ではあったが、おそらくはそれが魂なのだろうとクリフは理解した。

 『忌神』の『嘆きの残滓』、そして戦死者の魂。それを交換し、いずれ来る崩壊の時に備える。

 たとえ『荒人神』の半神が生まれる確証がなかったとしても、互いに国防と軍需を目的としたこの契約は呑むほかなかった。シールドの残り時間にはあまりに余裕がないこと、そして炎龍の気がいつ変わるともわからなかったからだ。

『わが国は永久の中立……といえば、耳障りはええけど、つまりは誰の味方でもないということや。金稼ぎ以外では誰とも組まん』

『死した半神の魂。それがあるからこそ、手を結ぶと言うことですか?』

 炎龍はふっと笑い、クリフの細い顎を軽くつかんで、整った顔を近づけて言った。

『あとはその顔や。わざわざ、泣かせたくはなかった……』

『え』

 ――竜玉公国では、かつて美しい少年たちが宦官となって後宮に侍っていた。

 どこかで読んだ歴史書の記述をとっさに思い出し、氷のように固まったクリフを見て、炎龍はぶっと噴き出して手を離す。

『冗談や。そっちの趣味はない。そないになんでも本気にしよったら、身が持たんで』

『そうですか、ほっとしました……。でも……だとしたらなんなんです?』

『それはお前に任せる。好きに解釈したらええ』

 ニヒルに笑う炎龍に苛立ちながらも、クリフは不思議な安心感を覚えた。

 しかし、忌神の『嘆きの残滓』は研究段階ですでに通常よりもリスキーな存在だと発覚している。

受肉結晶と時を繋ぐことによって、忌神の魂はその荒ぶる性質を強める。つまり……神食のスピードが通常よりも速まるのだ。

 ――そうわかっていながらも、僕は適合者を選んだ。すべては、この国を……大切なアダムの生きる世界を救うために。

 クリフは思わず、罪悪感から顔を曇らせる。

「王様? どしたの?」

「いや……特に何もない。では、僕は失礼する」

「ねえ! 討伐のとき、王様の戦いを見せてもらえますか? すごく強いんでしょ!?」

 クリフは呆れたようにため息をついて言う。

「持ち場で討伐をこなすのが仕事だ。遊びじゃないんだから馬鹿なことを言わないでくれ」

「え~! 見たい見たい! すごく見たい!」

「ちょっと! また王様怒っちゃうでしょ!」

「いい加減に黙ったらどうだい?」

 そのとき、勢いよくサイレンが鳴った。クリフは思わず身構える。

 国中に設置した監視カメラ映像が繭の破裂を確認したのだろう。

「出動要請だ。各自準備して30分後に広場に集まってくれ」

 そう言い残し、クリフは自分も準備を整えるためにその場を後にした。

「はい、王様! がんばります!」

 後ろから威勢のいい声が響いてため息を吐く。

 気楽な事だ。戦地でいつ命を落とすかもしれないのに。


 半神たちに指示を出して討伐を割り振った後、最も肥大していた繭の下へと向かった。

 クトゥルーのラメントを持った自分が、最も危険な地帯に向かうのは当然だ。

 討伐を繰り返す日々の中、王としての自覚は確かに芽生えていった。

 それは半神が目の前で命を落とす姿を幾度も目にしたからだ。

 戦闘に慣れていない頃は魔獣に怯え、震えながら触手を操ってほうほうの体で倒すのがやっとだった。

 クリフは生まれた時から牢獄の中にいた影響で、体の成長が年のわりに不十分だった。ほとんど使い物にならない筋肉を動かすことだけでひどく肉体を消耗してしまう。

 長時間の戦闘の負担に耐えられずに倒れたことが幾度もあった。クトゥルーの触手を武器として埋め込んでいるとはいえ、元々の体質の弱さはそう簡単に乗り越えられるほどに甘くはないと幾度も思い知った。

 そんなときは、呼びもしないのに炎龍が気づくと部屋に現れた。そして適当に部屋に居座っては、色んな話をしてくれた。

 最初は毎回驚いて叫んだが、だんだん慣れてほうっておくようになった。

決まって、彼からはいつもより少し優しい煙の香りが漂ってきて、その匂いはきらいではなかった。

 少しだけ、全身の痛みがやわらぐような気もしたからだ。

 炎龍はクリフのそばに座り、どこまで本当でどこまで嘘かもわからないような荒唐無稽な話を聞かせてくれた。竜玉公国に眠る最強の邪神である『四神』の墓を暴いただとか、幻獣を問答で打ち負かして金銀財宝を奪い取って、それを元手に竜玉公国を牛耳っていたマフィアを傘下に入れていっただとか……。

 『東方の詐欺師』『ドブネズミ皇帝』。そう言われるだけのことはある。

聞いた話をいくつか繋ぎ合わせてみると、絶対どこかに矛盾が出る。きっと、真実と嘘を混ぜて話しているのだろう。それかもしくは、すべてが嘘か……。

 だが、その低く滑らかな声で語られていくうちに、全てが嘘であってもいいような気がしてくる。それが、この男の持つ人間的な魅力なのかもしれない。

 ある日、クリフは負傷と激しい疲労でろくに動かない体をベッドに横たえたまま、ぽつりとつぶやいた。

『自分が、情けないです。こんな弱い体で戦い続けることなんてできるでしょうか?』

『ま、無理やろな』

『そこまではっきり言わなくても……。僕だって、好き好んで虚弱体質になったわけじゃありません。生まれたときから地下牢に閉じ込められたりしなければ、こんなふうにならなかった。父の嫡子として生まれ、母が不貞なんて犯さなければ、せめて、朝になれば普通に太陽を浴びることができる、普通の子どもとして生きられれば……』

 痛む体を横たえたまま、ひたすら見えないものを呪うように言い募るクリフに対し、炎龍は整った顔でニヒルに笑い、大げさにあわれむような口調で言った。

『おお、お可哀想に。言葉の通り、悲劇の主人公やな。せやけど、一生そう言うて自分を憐れんで生きていくんか?』

 炎龍に背を向けたまま、クリフはシーツを握り締めた。

『僕は半神だ。クトゥルーの神食だってどんどん進んで行く。そんなに長く生きられるかもわかりません』

 炎龍は少しだけ息を呑み、黙った後に言う。

『……なおさら、時間の無駄や。ただでさえ短いもんが、あっという間に終わるで』

顔を見ていないからわからないが、最初の方の声は少しだけかすれているように聞こえた。

『『普通』よりマシなことかて、あるやろ。牢獄に閉じ込められた庶子が一国の王、そして伝説の創生神クトゥルーの半神となるやなんて、朕も聞いたことがない。なかなかオモロイやないか』

『ふざけないでください! 僕の人生を何だと思っているんですか!?』

『ほな、自分で納得するように生きてみたらええ。お前の人生はお前のもんや。誰が語るべきでも、生きるべきでもない。体が思うように動かんのやったら、それなりの戦い方があるはずや』

 気づいたら、炎龍は姿を消していた。クリフはわずかな名残惜しさと共に、静かなざわつきを胸に感じた。そのざわつきは、ひどく尾を引いて後に残った。

 一体どうやれば、僕は自分が納得するように生きられるのだろう?

 その答えは今もよくわかっていない。

 ただ、戦闘で半神たちを守れないどころか、今のままでは自分が死んでしまう。そうなったとき、自分を助けに来てくれたアダムには二度と会えない。

 もし僕が弱くて死んだ王だと語り継がれたりしたら、兄さんはきっと失望するだろう。

 それだけはいやだ、と思った。

 クリフはその日から、体力を極力消耗しない戦い方を研究しだした。相手とできるだけ距離を取ったまま攻撃し、一度の攻撃が効くように相手の弱点を短時間で見抜く。

 宇宙神アザトースが繭から生み出す魔獣たちのベースはこの星に現存したと言われる幻獣だと言われている。アザトースたち宇宙神は不気味な姿を取ってはいるが、その実は無形なる存在。

 だが、大いなる脅威と恐怖を人に与えることによって、瞬間的に見た者たちの奥深くにある集合的無意識にアクセスし、人類の遺伝子に刻まれた恐怖の記憶の中から生成した姿や強さを投影することができる。

 つまり、その姿や技はすべて、人類全体が無意識からイメージしたものの投影だ。

 繭から無限に生まれる魔獣も同じで、その姿や肉体は全て、人類が遠い記憶に恐れたと言われる幻獣の姿が投影されている。

 個人ではなく、集合的無意識の中からのイメージが投影されたものが見えているため、個々人に見える姿にブレや差はない。だが、どういった基準で姿が選ばれているのかはまったくの不明だった。

 神と時を繋いだ半神たち同士であれば、なおさらだ。

 クリフはそう知ってから、文献や魔脳マリアから有神時代のデータをあさって幻獣の特徴や攻撃パターンを研究しつくした。

 やがて、多くの種類の魔獣との戦い方がわかるようになり、そして触手の扱い方にも慣れていき、より少ない労力でかつ短時間で戦闘を終わらせることができるようになった。

 他の半神のフォローにも入ることができるし、やがてほとんどないに等しかった身体能力も少しだけはマシになった。

 炎龍にそのことを言うと、『そらよかったな』と頭をくしゃくしゃと撫でてはくれたが、あなたに言われたことをきっかけにして改善したのだと言っても、『そんなん言うたか?』と、とぼけてみせるだけだった。


 やがてクリフはマップで指定した魔獣の発生地点の座標に辿り着いた。

そこは岩場の断崖であり、魔獣の反応は確かにあったはずなのに、何もいない。よくあることではあるが、クリフは気を引き締めて周囲に注意を払う。

 すると、背後に僅かな気配を感じた。クリフは瞬間的に振り返る。そこには何もいないが、代わりに真っ黒な影が地面に落ちていた。

 確かにここにいる。だがどうやら、顕現に時間がかかっているようだ。

 魔獣が姿を顕すのに時間がかかるときがある。

 それは……人類がかつて感じた恐怖の中から最も深く、記憶の底に沈みこませた存在を摸そうとしている証拠だった。

 影がどんどん広がっていき、大きくなっていく。そしてブラックホールのようなものが空中で広がったあと、弾け、いつの間にそこには巨大な岩人形の姿があった。

「なるほど、ゴーレムか……。岩の体はそう簡単には砕けない。随分と厄介なものに顕現されたものだ」

 クリフは背中の触手を意識し、構えた。

 体内で蠢く数十本に対し、同時に集中する。

 ――いつかこれは、僕が操れる武器ではなく、内側から浸食し、食い破る凶器になるだろう。

 自分と賭けをしてから休眠状態に入ったクトゥルーは眠りながらもきっと、こちらを『見ている』。

 僕の意識を奪い、足元をすくえる瞬間を。

 この予感が真実だとせせら笑うように、心臓の裏側をくすぐられるような感触が襲う。だが、迷っている隙も恐れている暇も自分にはない。

 ゴーレムが容赦なく、岩の腕を振り上げてくる。

 そして次の瞬間――。

「一気に崩す。それしかないッ!!」

 クリフが背中から勢いよく放った数十本の触手は四方八方に伸び、ゴーレムの巨体を派手に打ち砕いた。

 バラバラに砕けた岩が地面へと落ちる。だが、砕けた体の部位が一瞬にして元に戻っていく。

「……ま、まさか、復活するなんて……!」

 その時、背後に気配を感じる。それと同時に、大きな影が自分に向かって落とされた。

 クリフが思わず振り向くと、そこにはもう一体ゴーレムが顕現していた。

「しかも挟み撃ちとは。やるじゃないか……!!」

 クリフは瞬時に触手を繰り出して新しく現れたゴーレムを攻撃するが、同じように粉砕してもすぐに復活するのを繰り返す。

 何度も攻防を続けたが、いたちごっこだ。

 だんだん体力的な限界も訪れ、攻撃を回避するのがやっとになる。思わず、荒い息をつく。

「はあ……はあ……」

 あらゆる幻獣の知識を深め、戦闘法の研究をしてきたが、崩れた体が復活してしまうのは予想外だった。だが、何か打開策があるはずだ……。

 ――考えろ、考えるんだ……!

 ――そうだ、復活できないほどに遠くへ岩を吹き飛ばせば……!

 クリフはもう一度触手で同時に二体のゴーレムの体を粉砕したあと、礫となった岩を遠くへと打ち放った。

 すると、残されたわずかな岩は動きを静止する。

 ――やったか?

 だが、わずかな間のあと、ぼっかりと空中に黒い影が生まれた。

 そしてその影が岩の欠片を呑みこむように覆いかぶさったかと思うと、瞬時にそれは巨大な岩の塊……元のゴーレムの体を形作った。

「……! わずかに体が残っているとすぐ『補完』されるのか……!?」

 クリフは後ろに飛んで距離を取るも、岩の巨人たちは崖のギリギリまで追い詰められてしまう。

 さすがに、ここから落ちては無事でいられない。触手で自分を包んでクッションにしたところで命はないだろう。

 ゴーレムの岩の拳がクリフに向かって落ちてくる。

 逃げないと……! だがその心に反し、クリフは反射的に目を一瞬閉じてしまった。

 ガァァァァァン!!

 耳をつんざく轟音が響く。だが、痛みなど何も感じない。そのかわりに、不思議と温かくふんわりとしたものが自分を抱きかかえている。

「王様、大丈夫!? もう、無茶しちゃダメだよ!」

「き、君は……!?」

 見上げると、そこには自分より頭二つほど背の高い狼の顔があった。そしてその下にはけむくじゃらだが、人間とおなじような二足歩行の体がついている。

 二足歩行の狼……いや、人狼というべきか。

 それは勢い良く飛び上がり、ゴーレムから距離を取った場所に着地する。そして腕をゆるめ、ぱっとクリフを解放した。

 ゴーレムの方を見ると、片腕が消えてなくなっていた。しかも、全く復活する気配がない。

「残さず、粉々に砕いたらいいみたい! 簡単だね!」

 全然簡単じゃない……。

 そう思いながらも、さっきの轟音は、この人狼がゴーレムの腕を砕いた音だったからだと理解する。

 白みがかかった紫の毛に、鋭い爪の生えた腕。鋭い牙の生えたマズルに対して、毛と同じ色の瞳がやたらとつぶらなことがアンバランスだった。

 ――魔獣!? だとしたら、なぜ僕を守った?

 ゴーレムから距離を取った場所に気づくと着地していた。狼の腕はぱっと自分を解放する。

「あ……この姿で会うの、初めてだったね。ごめん、びっくりさせちゃった。大丈夫、すぐ終わらせるからさっ!」

 どこか聞き覚えのある声だった。よく見ると人狼の首には半神の首輪がはまっていた。

 印字された識別番号と名前を頭の中に照合させる。

「ゼファー・フェンリル・アスガルス!?」

 さっき話したばかりの犬耳……いや、狼耳の少年だ。

「あったりー! 大丈夫、すぐに終わらせるから、あとでおいしいもの食べよう! 王様、ここで待ってて!」

 そう言って鳩羽色の人狼は二体のゴーレムへ向き直り、目にもとまらぬ速さで駆けだして行った。


すごく…すごく…休んでしまいましてすみません。

3章の展開を練り直すのに時間がかかってしまいました。

思ったより長期戦になりそうでして、その骨組みを立てるのにかなり苦労しまして……プロットをもう一度立て直しました。

もう一度読んでくださった方、初めましての方にも大変感謝申し上げます。

来週もちゃんとアップする予定でございます。よろしければどうか…不肖で申し訳ありませんが、

お付き合いくださいませ。

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― 新着の感想 ―
ラメントを携えた半身と異世界での魔獣との戦いがあり、 その中で心の葛藤や愛、時を超えて変わらないものや変えられたものを考えさせられる魅力のある作品です。真実は何か、次回も楽しみにしています!
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