表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
World of Fantasia(ワールド・オブ・ファンタジア)  作者: 緋色牡丹
第二章「残り火の街」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/44

第四十一話「星が降る街」

 第四環・商業流通区(マーケット)を歩いていく。

 騒がしい店の呼び声は、もう無い。

 雑多に歩く人影だけが伸び、喧騒は夜に溶けていた。 

 昼にはなかった出店も、ちらほらと並んでいる。

「宝石だっ!」

 フィオナは、とっとこと露店に駆け寄っていく。

「はぐれるなよ」

 とは言ったものの、フィオナは目立っていた。

 肩を露出させた青い軽装、ミニスカート、夜の街でもひときわ映える水色の髪。

 見渡せばすぐに分かるだろう。

 街を楽しみながら、俺たちは南へと歩いていく。

 しばらく進むと、裏通りの道についた。

 その路地の角には──

 金文字で、“赤龍亭”と書かれた看板。

「見てあれ! ドラゴンだ!」

 屋根の上には、大きな赤い龍。

 それは牙を剥くように、身を乗り出していた。

「派手だな」

 軒下には赤い提灯が四つ。

 年季の入った木のドアを横に開けると──

 白いハチマキをした、いかつい角刈りの店主が立っていた。

「……らっしゃい」

 俺たちは、カウンターに座った。

 目の前には、炭火の入った大きな鉄網。

「レッドリザードの炭火焼! あと、おすすめのお酒で!」

「俺も、同じもので」

 彼は無言で頷くと、四角いグラスを二つ出した。

 そして酒瓶を取り出し、傾けていく。

「はいよ、『竜鱗(りゅうりん)酒』だ。ゆっくり飲みな」

 琥珀色の酒が、注がれていた。

 ぐいっ!

 フィオナが、一気に飲み干した。

「ぷぁ~! ()ッよ!」

 顔が、ふにゃふにゃになっている。

 ……驚いた。

 酒慣れしているはずの彼女が、“強い”と言うなんて。

 俺はグラスを持ち、一口、舌上に転がした。

 ──美味い。

 舌の上で、まろやかに溶けていく。

 酒の表面に微細な光が反射し、龍のウロコのように見えていた。

「しかし、これは……効くな……」

 喉奥がひりつく。

 酒に弱い者なら、立っていられないだろう。

 竜鱗酒を楽しんでいると──

 

 パチパチ。

 

 炭が、静かに鳴った。

 鉄網の上には、骨つきの大きな肉が転がっている。

 じゅっと低い音がすると、火が小さく跳ね、煙が立ち上った。

「にーくっ、にーくっ!」

 フィオナは顔を赤らめながら、焼き台を見ていた。

 香ばしい肉の香りに、喉が鳴る。

 炭火焼の肉なんて、いつ以来だろうか。

 

 待つこと数分。

 

「はいよ」

 店主が肉を皿に並べ、カウンターに置いた。

 骨に沿ってナイフを入れると、肉は抵抗なく割れ、湯気がふわりと立った。

 フォークで、口に運ぶ──

 噛んだ瞬間、熱と脂が溢れた。

 塩が軽く振られており、濃い味だ。

 炭の香ばしい匂いと、弾力のある肉の旨味がマッチしている。

「……美味いな」

 フィオナは──

「うま、うまっ」

 素手で骨を掴み、丸ごとかぶりついていた。

 ……ワイルドだぜぇ。

 

「まいど」

「ごちそうさま!」

 寡黙な店主を尻目に、俺たちは外に出た。

「次はどこ行く!?」

 俺は、リリィの言葉を思い出した。

『夜景スポットも絶景なので、よければぜひ!』

「夜景を見に行くってのは?」

「賛成~!」

 フィオナは腕を突き出した。

 それから俺たちは、リリィから貰った地図を頼りに、裏路地へと入った。

 

 曲がりくねった道が、奥へ、奥へと誘うように続いている──。

 

「……人、全然いないね」

「たぶん、こっちで合ってるはず、なんだが……」

 地図を広げ、目を凝らす。

 エンバータウンの裏路地は、複雑だった。

 壁のあちこちに緑の蔦が茂り、道は細く続いている。

 進んで行くと、やがて──石造りの階段に出た。

 小さなランプが階段の横に備え付けられ、足元を照らしている。

 上がっていくと、大きな石橋に辿り着いた。

 その橋の横には、壁画がびっしりと描かれている。

 歩きながらそれを眺めていると、幾何学的なそれは、宇宙を模していることに気づいた。

 中央まで進むと、星を頭に冠した女の絵があった。

 エバーウッドで信仰していた女神、“アストレア”とは違うように見える。

「これも、女神なのか?」

「んー。たぶん……主神の一人、“星の女神・ティナ”じゃないかな」

「色々いるんだなぁ」

「さっき露店で、ティナのマグカップとか売ってたし……この街は、ティナ信仰なのかもね」

 国が違えば、神も違うか。

 思想的な違いも、当然のようにありそうだ。

 壁画が終わると、遮蔽物がない高台に出た。

 その景色は──

 

 光。

 

 都市が、鮮やかな光で埋め尽くされていた。

 まるで、街が呼吸しているようだ。

 都市を包むように広がる桃色の星環樹は、蒼く発光している。

 幹から葉先にかけて、青い(もや)がまとわりついている。

 枝という枝に星が絡みついているようだった。

 白、紫、桃──

 星光の粒は、葉から零れ落ち、それは雨霧のように絶えず地上へと降り注いでいる。


 巨大都市エンバータウンは、星が降る街だった。

 挿絵(By みてみん)

「……きれい」

 フィオナは珍しく、静かだった。

 水色の髪と青い瞳は、都市の光を幻想的に反射している。

 綺麗、だ。

 

 ──びゅう。

 

 冷ややかな風が吹いた。

「さむっ」

 彼女は腰横のポシェットから、青い猫耳ベレー帽を取り出すと、被った。

「……帰ろうか」

「うん!」

 帰路は、来るときよりも短く感じた。

 酒の香りと、ほどよい喧騒は、どこか気持ち良かった──。

 

 *

 

 路地裏を抜け、暗がりの丘に出た。

 小川が流れる赤い橋の先には、五階建ての西洋宿──星見館。

 外には四角い明かりがいくつも吊るされ、穏やかな光が宿の全体を包んでいる。

 橋を歩きながら左を見れば、青く発光した星降る大樹と、煌びやかな街並み。

 あらためて思うが、絶景の立地である。

 まさに、星を見る館だ。

 扉をくぐり、中に入ると──

「やぁ」

 宿の主人、ステラがカウンターに立っていた。

 彼女は黄緑の短髪をかき上げ、俺たちを見た。

「帰って来るの、早かったね」

「ええ、まぁ」

「今日はどこに──」

 そう問いかけられた時、フィオナは大きく口を開け、あくびした。

「ふぁ~。ねむい……」

 無理もない。

 今日は、色んなことがあった。

「私、先に寝るね~」

「ああ」

 昇降機に向かうフィオナを見て、ステラが眼鏡をくいと上げた。

「まだ八時だよ? 大人は、遊ぶ時間だと思ってたけど」

「ええ。遊び疲れたみたいで」

「……なるほどね」

 彼女は俺を見ると──

「山田さんはまだ、元気そうだ」

「実は、あまり寝つけないタイプなんです」 

「そう……そうだ。お酒は、好きかい?」

「嗜む程度には」

「それは良い。なら、小川を下っていった先に、良いバーがある。まだ起きてるなら、行ってみたらどうかな」

「バーですか」

「ああ。みんな、美味しいって言ってるよ。僕は飲んだことないけど。学生だし」

「学生!?」

「うん。こう見えて、十七歳だよ」

「……驚きました。大人びて見えるので」

 ステラは、目を細め笑った。

 中性的な顔立ちだが、どうみても大人にしか見えない。

「よく言われる。ところで、フロントの掃除をしたいんだけど……」

 そう言うと、彼女は申し訳なさそうに、陰から茶色いホウキを取り出した。

「あ~。じゃあ、教えてくれた店にでも、行ってみます」

「うん。あと、敬語はいらないよ」

「……そうか。ところで、店の名前は?」

青の巣窟(ブルー・ケイブ)、綺麗なお店だから、すぐに分かると思う」

「ありがとう。行ってくるよ──ステラ」

「ああ。飲み過ぎないようにね」

 

 ステラに見送られ、俺は館を出た。

 小川は、星環樹の方へと下るように流れている。

 その流れに沿って歩いていくと、やがて石畳の通りに出た。

 人通りはない。

 古い建物や、倉庫のような建物が並んでいる。

 石壁沿いを歩いていると、甘い酒の香りが漂ってきた。

 数メートル先、闇の中で──

 青いランプがひとつ、浮くように灯っていた。

 その横には、木製の扉が静かに開かれている。

 落ち着いた茶色の看板には、白文字で“青の巣窟(ブルー・ケイブ)”。

 ──ここだ。

 店内は閑散としており、客は一人だけのようだった。

 俺は、その静かな空気を壊さないように、扉の向こうへ──

 ゆっくりと足を踏み入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ