81.楽曲提供
「不思議な言葉ね。
今まで聞いたことがないのだけれど」
「下々の間ではこういった歌が流行っているの?」
聞かれた私は破れかぶれで応えてしまった。
「違うんです。
幼い頃からよく夢を観るのですが、その夢に出てくる歌です。
何度も観るので覚えてしまって」
前世の人の記憶にあった小説では、転生した悪役令嬢やヒロインが日本の事を突っ込まれて誤魔化すためにそういう言い訳で押し通すのよ。
夢で見ました、というのは最強かも。
だって証明は出来ないけど否定も無理だし。
「まあ、夢で」
「にしては完成されすぎている気がしますね」
「そうね。
どう考えても実際に歌われていた曲なのでは」
拙い。
私の正体? に迫られかけているような。
「でも私たちの誰にも聞き覚えがないということは、それこそ夢の世界の曲といってもよろしいのでは」
モルズ様が庇ってくれた。
「ですからこれ、私たちの曲として発表しません?
歌詞はテレジア語で新しく作れば」
「それはいいですね」
「異国風で評判になりますわよ。
綺麗なメロディですし」
庇ってくれたんじゃ無かったの?
駄目だ。
皆さんその気になってしまった。
「……ということがあって」
「それはまた」
「計画が着々と進んでいるのよ。
お茶会の皆様で楽隊を結成して。
シストリア様が歌手で」
そうなのだ。
あれから私は他にもないかと問い詰められて、仕方なく覚えている歌を何曲も提供してしまった。
日本語の歌詞は翻訳と言うよりは大体のニュアンスを伝えたところ、見事に曲に合わせたテレジア語の歌詞が作られた。
皆様、才能ありすぎでしょう!
次の社交シーズンにはデビューよ、と皆様張り切っておられる。
最初はお嬢様たちだけの楽隊だったんだけど、最近ではサラーニア様の伝手でプロの楽団や貴族家のお抱え音楽家まで巻き込んで、オーケストラでも演奏する話が進んでいるとか。
何それ。
サラーニア様って何者?
宰相府怖い。
「……あなた、大丈夫なの?」
青い顔になっていたらしくてエリザベスが心配そうに聞いてきた。
「うん。
私の役目って原曲を提供した時点で終わっているから」
それが唯一の救いだったりして。
ちなみに私も一応、楽隊には入っている。
歌手でもないし楽器演奏も出来ないから何なのかと思ったら作曲家としてだそうだ。
微妙に困っているんだけど、もう吹っ切った。
曲はまだたくさん覚えているし、出せというのなら出しますが。
でも私の前世の人、趣味が偏っていたみたいでよく判らないけど魔法とか少女とかが出てくる物語の曲ばかりなのよね。
こっちではもちろんだけど、前世の世界にも魔法なんかはなかったはず。
でも無いが故に想像力が発達していたらしくて、荒唐無稽な物語がたくさん作られていたみたい。
本当に意味不明なのよ。
年端もいかない少女が何で変身して戦わなければならないんだろう。
そんなの大人の騎士とか軍隊にまかせておけばいいのに。
そもそも変身するって意味不明だ。
まあ、確かに幼女がドレスのままで戦うのって無理がありそうではある。
だって相手は悪の魔法使いとか巨大な組織とか魔物とかなのよ。
そんなの幼女が変身したところでどうにかなる相手じゃないと思うんだけど。
まあいい。
日本語の歌詞も変なんだけど、不思議と曲に合っているというか、むしろ歌詞に合わせて曲が作られたみたい。
ていうかその歌詞って幼女が変身して悪と戦う物語から来ているから、そもそもの根本が荒唐無稽なのよね。
でもそういう雰囲気をかいつまんで皆様に伝えたら、むしろ喜ばれた。
これまでのテレジアの芸能界には存在しない幻想的な分野として押し通せるそうだ。
いや、確かにテレジアだけじゃなくて今まで世界には存在しなかった曲というか分野だもんね。
むしろぶっ飛んでいた方が受け入れやすそう、というよりは難癖つけられにくいと。
「そんなに変わった曲なの?」
「うん。
聞けば判るけど、本当に意味不明だから」
物語やおとぎ話としても変過ぎる。
登場人物が主役だけで3人とか5人とか出てくるのもおかしいし、女子供ばかりに戦わせて殿方が後ろに引っ込んでいたり、せいぜいが助力しかしないのもあり得ない。
考えるだけドツボに嵌まるから気にしないことにしている。




