365.制服
じとっとした目を見てやるとメロディは慌てて手を振った。
「私だって遊んでいるばかりじゃないぞ。
最適解を求めていったらこうなっただけで」
「どうだか。
異世界の学園だと思って色々導入したんじゃないの?
制服とか」
彼方を向いて口笛を吹く真似をするシルデリアの王女殿下。
やったのかよ!
「まさか女性の制服はミニスカじゃないでしょうね?」
「そんなわけあるか!
痴女扱いされるだけだぞ」
そうよね。
私の前世の人の世界で放映されている動画に出てくる学園って、男は普通の制服なんだけど女生徒のものは胸の谷間が見えたり太ももが丸出しだったりするのよ。
そんな扇情的な制服を着せて、学園は女生徒に何をさせようとしているのか。
「制服とは言っても動きやすいようにしただけだ。
ただ神聖軍事同盟付属学院の学生としての身分が必要だからな。
それに身分を擬装するのにも便利だし」
言い訳臭いけど納得は出来る。
この場合、身分というよりは資格というか所属を示す意味がある。
ミストア神聖国は身分制度がないことで有名だけど、それは別に他国の身分を否定するものじゃないから。
例えばテレジア公爵だったらミストアにおいてそれなりの扱いを受ける。
神聖教の位階で言うと上位の司教とかその辺りかな。
王家の者なら枢機卿だ。
なので、留学してくる学生たちが貴族の令息だったりしたら助祭辺りの扱いになるんだけど。
でも神聖教に何の関係もないというか、一信徒に過ぎない学生を位階持ちにするわけにはいかない。
だから「学院の学生」という階層を造って制服を着せると。
「外出時も制服着用とか?」
「だな。
着てない場合は平民、いや一信徒扱いになる」
「なるほど」
それはそうだろうなあ。
だって母国では貴族もしくは貴族家の者が大多数なんだよ。
他国に行っても当然、それ相応の扱いを期待する。
だけどミストアだと平民だものね。
それが嫌だったら制服を着ろと。
「そうかあ。
学校の制服って合理的な理由があったんだ」
「私もやってみて気がついた。
本来の身分を擬装するというかいったん白紙に戻す効果があるからな」
それ、まさに私達の前世の小説で言われていることよね。
学園内では身分はなくなると。
「ちなみに『学院』だからな。
間違えるなよ」
「判ってるわよ」
学園というと、いかにも恋愛自由の乙女ゲーム的な学校に思えてしまうのよね。
そうじゃなくて真面目な学び舎だから。
他にも色々と聞きたいこともあったけど、お腹いっぱいになってしまったので解散した。
お風呂に入って髪を乾かしながら居間でまったりしつつ考えてみた。
私はまた学院に通うことになる。
でも今度はメダルというか単位を取る必要もないし、実際には講義を受けなくてもいいわけか。
だったら何のために通うのかと言われそうだけど、それはもちろん暇つぶし……じゃなくて神聖軍事同盟を知るためだ。
学院で学ぶ人達がいずれは神聖軍事同盟の中核を担っていくことになる。
理事の皆さんは各国の偉い人だから別として、学生の人達と今のうちから親しくなっておけば将来は安泰?
いや、別に嫁入りとかはないけど。
ていうか無理。
私は身分からしてそもそも誰かの嫁にはなれないし、取るとしたら婿だけど、そうなったら色々と問題が起こりそう。
テレジア公爵位をどうするのかとか、巫女の立場はどうなるのとか。
ロメルテシア様に聞いたところでは今までの巫女はみんな生涯独身だったらしい。
結婚しなかっただけで男女交際が無かったかどうかは判らないと言われた。
聖書(巫女の伝記)にもその辺は書いてなかったしなあ。
ああいうのは都合の悪い事は記録されないから。
まあ、いいか。
私は雌虎。
野生の獣は日々無事に過ごせれば他の事はあまり気にしないものなのよね。
それからもまったりした日々が続いた。
時々「学院の制服が決まりました」とか「これが校則でございます」などと言われて色々と持ち込まれたけど、私にはどうにも出来ないものね。
神聖軍事同盟盟主といっても何の権限もないのよ。
増して付属学院になんか口出し出来るはずかない。
「そうでもございませんよ?」
ロメルテシア様の悪魔の囁き。
「校則を弄ればマリアンヌ様の逆ハーが可能になるかと」
「却下。
ていうかロメルテシア、逆ハーの意味判ってるの?」
「歴代の巫女語録に載っております」
女子高生が!
ろくなもんじゃないな。
ギャルや文学少女も混じっていた臭い。
まあいいけど。




