182.脅威
王太子様もかい。
どうせ初恋だったとかだろうね。
奥方がいるから言えないけど。
現テレジア王室ってやっぱり祟られているんじゃないの?
よその国の王太后妃とか皇妃とかに頭が上がらなくてもいいのか。
「そういうわけで、王室からもテレジア公爵に正式に謝りたいのだ。
こちらの都合で御身を振り回してしまった。
申し訳なかった」
一斉に頭を下げるテレジア王室の方々。
どないすればええの?
パニックになりそうな頭を無理矢理冷やして答える。
「お気になさらず。
むしろ、私の祖母上と母上が無茶振りしていたようで、申し訳ございませんでした」
「そう言って貰えると助かる。
テレジア王室は未来永劫、御身を支えていくと誓おう」
うーん。
やっぱりそうなるのか。
これ、別に私が偉いとか恩があるとかじゃないよね。
ええと、整理してみよう。
私はテレジア王国公爵マリアンヌ・テレジア。
実の母上はライロケル皇国皇妃陛下で血の繋がった弟は皇国皇太子殿下。
つまりライロケル皇国皇帝陛下は私の義理の父上だ。
祖母上はハイロンド王国王太后殿下でハイロンド王国国王陛下は私の叔父。
曾祖父は前ゼリナ王国国王陛下で現国王陛下は私の大伯父?
そして前テレジア王国王子で初代テレジア公爵が私の祖父だから、テレジア王室や公爵家とは親類ということになる。
メチャクチャだ(泣)。
私って信管が緩んでいる政治的な爆弾そのものなのでは。
下手したら複数の王家の王位継承権がありそうだし。
こんなのをテレジア公爵にして、テレジア王国って大丈夫なの?
それで思い出した。
早急に聞いておきたいことがあった。
「申し上げます。
陛下は私に何をお望みでしょうか」
私をテレジア公爵に叙爵したってことは、何か目的があるはずだ。
テレジア王国のために私は何をすればいいんだろうか。
というよりむしろ、何をしちゃ駄目なのか。
そこんところを知っておかないといずれ地雷を踏み抜きそう。
「何を、か。
御身は真面目だな」
なぜか陛下に苦笑されてしまった。
「しかしさすがだ。
シェルフィル様の御尊孫だけのことはある」
「しかもセレニア様の娘ごですからね。
我々凡人とは違います」
なぜか王太子殿下も追随してきた。
いえ私なんか元孤児で。
「そうではないであろう。
御身はシェルフィル様の孫でセレニア殿の娘なのだぞ?
誇ることこそあれ、何ら恥じることはない」
「そうですね。
私にしてみれば担ぎきれるかどうか判らない重みですが」
陛下も王太子殿下も変なのでは?
あの規格外れの祖母上や母上の評価が異常に高くない?
そのことを言ったら呆れられた。
「そうか。
御身が知るはずも無いか。
ハイロンド王太后殿下の異名は『沈黙の龍』だ」
「そしてライロケルの皇妃陛下は『影の女帝』と呼ばれている。
お二人とも国際外交の世界では脅威以外の何者でもないのだよ。
どちらにしても我々は膝を折るしかない」
陛下と王太子殿下は達観していた。
それって。
私の家族って人外?
「外交の達人、いやむしろ魔王か。
国際社会ではそれくらい恐れられているということだ」
「睨まれただけでも生きた心地がしないのだよ。
前テレジア公爵も大した置き土産を残して逝かれたものだ」
よく判らないけど私の祖母上と母上が異常だということだけは理解した。
考えるのはよそう。
「それはともかくとして、私は何をすれば」
「ん?
ああ、そのことか。
御身は自由にしてくれて良い。
何もしなくても良いのだ。
国内に居てくれるだけで国際社会におけるテレジアの存在感が増すからな」
王太子殿下、投げてません?
「むしろテレジア王室が御身に何かするべきなのだ。
何か希望があれば言って欲しい。
テレジアの王位はどうだ?」
悪戯っぽい表情で攻めてくる国王陛下。
それ反逆罪で即極刑でしょ!
「私は何も」
「そうか。
ならばお願いしたいのだが」
やっぱり冗談だったらしい。
そんな底なしの冗談は心臓に悪いから止めて下さい。
「何なりと」
「御身にはテレジアの渉外を任せたい。
いや違うな。
外交的な対処は王政府の外務省や儀典局が担当するから、国外の貴顕や特使の歓待を引き受けて欲しい」
何と。
それでやたらに外国語を学ばされたと?
「接待ですか」
「そこまでいかなくてもよい。
お相手が不快に思わないように対応するとか、そういうものだな。
非公式に」
「ああ、なるほど。
つまり表だっては言いにくいご希望を叶えて差し上げるとか」
「そうだな。
無理はせずとも良いが」




