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転生ヒロインの学院生活  作者: 笛伊豆
第四章 離宮

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137.不穏

 目がチカチカする。

 つまり、その舞踏会の開催目的って私の社交界お披露目(デビュー)か。

 その時点でテレジア公爵になっているんだから文句は言わせない、ということね。

 強引だ。

 しかも海外の王侯貴族を招くってことは、王国の意思を示すことにもなる。

 何でそんなに急ぐの?


「舞踏会では王家のどなたかが常に付き添って下さる。

 心配しないでご挨拶だけしていればいい」

 コレル閣下、じゃなくて男爵が気安く言った。

 いいのか。

 子爵のヒース様が敬語使ってるのに。

 でもヒース様もアナ様も何も言わない。

 ああ、ここは私的(プライベート)な場だということね。

 つまり公的な礼儀(マナー)はある程度は無視していいと。

 だったらこの機会に聞いておこう。


「あの、失礼ですが。

 ヒース様やアナ様のお立場は」

 コレル男爵が「コイツ、ホント失礼だな」というような表情だけど、いいでしょ!

「そうですな。

 私は王政府儀典局の審議官を勇退したところでございます」

 ヒース様は冗談というか茶目っ気が通じるようで、乗ってきてくれた。

「後進が育たないからと引退を勧められていたのでございますが、陛下より骨休めも兼ねてテレジア公爵家の面倒を見ろと命じられまして」

 そうなの。

 テレジア公爵家は再就職先、というよりはむしろ天下り先なのね。

 そりゃ王政府でバリバリやっていたベテランならほぼ創設の公爵家を取り仕切るくらいは簡単だろうけど。


(わたくし)は王宮の女官長を引退してしばらく静養していたところを引っ張り出されました」

 アナ様が片目を瞑った。

「正直、もう組織の軋轢はこりごりだと申し上げたのでございますが、事実上は新興の公爵家なのでトップに立って好きなようにして良いというお言葉を頂きまして」

 侍女頭(アナ様)もぶっちゃけた。

 虫も殺さぬ淑女の顔をしてよく言う。

 やっぱ遊び半分臭い。

 ていうか一筋縄ではいかない臭いがプンプンするのよね。

 つまり、これからテレジア公爵家はそういう人じゃないと対応出来ないような状況に追い込まれると。


「……判りました。

 よろしくお願いします」

 何となく納得して言ったら皆さん、なぜか一斉に微笑むのよ!

「さすがでございます」

「これは楽しみが増えましたな」

「やはり血は争えません」

 ん?

 最後はアナ様だけど、言い方が引っかかる。

「あの」

「マリアンヌ様。

 御身は確かにテレジア王家の血を引いておられる。

 その表情や態度がデレク殿下そのままでございます」

 誰?

「デレク・テレジア公爵殿下。

 君の祖父だよ。

 かつてのテレジア王国王太子だ」

 コレル男爵、いや私の専任執事が教えてくれた。


 そういやそんな名前だったっけ。

 いや知ってはいたよ?

 王国史に載っているし。

 でもとっさに結びつかなかった。

「アナ様はデレク様をご存じなのですか?」

 つい聞いてしまった。

 でもそうか。

 私の祖父っていうことは、私との年齢差はせいぜい50年か60年くらいだろう。

 アナ様は初老だから亡くなる前のデレク様をご存じでも不思議はない。


(わたくし)が新米の王宮女官として宮廷に上がった際、何度かお言葉を頂きました。

 気配りが出来る、お優しい方でしたよ」

 さいですか。

 乙女ゲーム小説に出てくる俺様王太子ではなかったらしい。

 十代の小娘に優しかったということはロリ……いや、止めよう。


「そうですな。

 デレク殿下は確かにお優しかったことは確かでございますが、果敢な一面もおありでございました。

 その断絶(ギャップ)に周囲が振り回されたものでございます」

 ヒース様も懐かしそうに言った。

 この方は直接知っているみたい。

 王宮の事務官だものね。

 ああ、そういうこと。

 私、というよりはテレジア公爵の補佐を務める人事でそういう人が選ばれたのか。

 私みたいなどこの馬の骨なのか判らない女でも、かつての主君の孫娘だと思えば情が湧く。

 えげつないけど効果的だ。


「それ、それでございます。

 無邪気そうに振る舞いながら色々と思考を巡らされる。

 判っていても乗せられてしまう。

 あの方がそのまま国王陛下になっていたら」

 ヒース様が言葉を切った。

 それは言ってはいけないことなのでは。

「その、(わたくし)は祖父どころか父上や母上すら記憶にありません。

 出来ましたら、どのような方だったのか教えて頂けませんか」

 話を変える。

 不穏な方向に行かないように思い出話一直線だ。


「そうでございますね…」

 ヒース様が乗ってきてくれたところで言ってみた。

「あの、皆様お座りになられませんか?

 長くなるのでしたら即席ですがお茶会にしたいと。

 グレース」

「かしこまりました」

 打てば響く専任メイド(グレース)が反応してくれた。

 皆様は顔を見合わせてから微笑んで、坐ってくれた。

 ヒース様とアナ様、コレル男爵ええいもう専任執事様も。

 この人だけ異質だけど、何かそういう流れなのよね。


 グレースが配下のメイドを指揮してテキパキとお茶会の用意を調えてくれる。

 これ、私主催の初めてのお茶会なのでは?

 いいのよね?

 恐る恐るコレル閣下じゃなくて男爵でもなくて専任執事を伺うと、ため息をついて手の平を見せてくれた。

 良かった。

「コレル」

「は」

「マリアンヌ様のご信頼に応えるように」

「承知してございます」

 ヒース家令様(上司)コレル専任執事様(部下)の間で何らかのやりとりがあった。

 アナ様は我関せずでお茶を飲んでいる。

 さて。

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