9.使用人は少ない
「そうですね。当伯爵家でも義務として年に何度かは舞踏会やパーティなどは開きますが、それ以外はお屋敷の維持と領地との連絡だけですから」
執事の人に聞いたらやっぱりだった。
ちなみにこの人、領地のお屋敷を差配している執事の息子だそうだ。
身分はかろうじて貴族。
とはいえ爵位はなくて、平民じゃない、という程度らしい。
だから私の方が身分が高いということで、口調も態度も丁寧だった。
面倒くさいという雰囲気はタダ漏れだったけど(泣)。
「舞踏会を開くんですか」
「領地伯爵家ですからね。開催しないと舐められます」
貴族って大変だな。
「この人数では大変ですね」
「その時だけ臨時に雇うんですよ。みんなそんなものです」
なるほど。
私の前世の人が読んでいた小説に出てきた貴族家って何十人もメイドがいたりしたけど、そんなのは王家とか公爵家とかだけなんだろうな。
だってお金がかかるし。
お屋敷の維持費だって大変なのに、その上で人件費がのし掛かってきたらやってられないだろう。
そういうわけで使用人宿舎には空き部屋がたくさんあって私も住めるというわけだ。
社交シーズンはこの宿舎も人で埋まるらしいから私はどうなるのか。
まあ後で考えればいいか。
ここで私の普段の生活について説明すると、前述のように住んでいるのは使用人宿舎の一室だ。
狭いけど個室で、本当は上級使用人用らしい。
調度としてはベッドと机とクローゼットくらいしかない。
掃除は自分でやるけど洗濯はメイドの人がやってくれている。
というよりはやらせて貰えない。
あれってコツというか技術がいるから素人の私がやったら服が傷んだり破けたりしかねないそうだ。
孤児院ではやってたんだけど、それはボロ服だったから大丈夫だっただけらしくて(泣)。
お食事はお屋敷本邸の使用人食堂でとる。
それも使用人の人たちに混ぜて貰っているんだけど、人数がそんなに多くないからみんなで一緒だ。
いわゆる賄い飯ね。
出るのは朝と夜だけ。
お昼はない。
お貴族様は一日三食らしいけど、平民は二食が当たり前なのよ。
でも私は貴族ということで、賄いの人にお弁当を作って貰っている。
パンにベーコンを挟んだだけ程度だけど。
私としては平民生活が長かったからあんまりお昼の食事の必要を感じないんだけど、学院の生徒はみんな食べているから仕方がない。
あの令嬢はお昼抜きだなんていう噂が広まったら私や男爵家だけじゃなくて、寄親の伯爵家まで恥をかくことになってしまう。
だから最低限度の貴族令嬢らしい生活を維持しなければならないそうだ。




