第6話
「あぁ? 誰だ、お前、その制服この学校の生徒じゃねーな。関係ないならどっかいってろ」
「関係? 関係ならあるよ、僕は東間聡、キミと話していた氷室さんを推薦してオーディション番組に出演してもらったのは僕なのですから」
「あ、東間? まさかお前は――」
「東間財閥の跡取りですよ。それより、氷室さん、ご無沙汰しております。その節ではご迷惑をおかけしました。西宮のお屋敷の方に伺おうと思い西宮財閥に連絡したのですが、まだ学校にいらっしゃるとのことでしたので、直接こちらに来てしまいました」
そういって、俺に頭を下げたのは東間聡くんだった。
そして聡くんは俺と言い争っていた男子生徒に向き直る。
「それで、僕は名乗りましたが、君はどこの誰でしょう? そして、東間財閥を、いえ、ひいては北条、西宮を侮辱する方だという認識でよろしいですか?」
聡君がそう言うと、男はしどろもどろになってしまう。
「い、いや、俺はそんなつもりは……。ちっ、俺は忙しいからこれで失礼させてもらう」
そう言って男は逃げるように去って行こうとする。
そこに聡くんが追撃をかける。
「おや? 憶測だけであれだけの事を言っておきながら謝罪も無しに立ち去るのですか? もちろん、それでも構いませんけど」
聡くんの言葉に立ち去ろうとしていた男性との足が止まる。
彼は振り返り、気まずそうに視線を落としながら聡くんに向かって頭を下げた。
「す、すまなかった……東間を貶めるつもりは無かったんだ、そ、それに西宮や北条の事もだ、そこだけは取り消す、ただ……」
「ただ、なんです?」
「そっちの……女に媚を売るような男が気に食わなかっただけなんだ。あ、東間……くんだって男ならわかるだろ? 男のくせに無能な女どもに媚を売るような――」
「1ミリも分かりませんね」
聡くんの体の芯まで凍えるような冷徹な声が響く。
俺が責められている訳ではないのに体が金縛りにあったように動けなくなる。
これが、いずれ東間をしょって立つ男のプレッシャーか……。
俺はただ圧倒されてしまう。
「男だ、女だと本当にくだらない……本当に優秀な人間は性別など関係ない。貴方はただ、彼に、和希くんに嫉妬しただけなんじゃないですか?」
「そ、そんな訳ないっ! そんな奴に嫉妬なんて!! 俺たち男は選ばれた人間なんだっ! 男ってだけで勝ち組なんだよっ、それなのに媚びへつらって――同じ男として不快に思うのは当然じゃないか?!」
男の主張に聡くん君は少しだけ目を細めて、それから苦虫を嚙み潰した様な顔をした。
「貴方の様な男がいるから、姉さんは……」
「な、なんだよ? 本当の事だろ? 俺たち男がいるから、世界は存続していけるんだ、なら女が俺たち男のために奴隷の様に働いて、貢ぐのは当然だし――」
「もう十分です、貴方の主張は聞くに堪えない。確かに、こんな歪な世界が貴方みたいな男を助長させたのでしょう。もちろん、女性側にも問題はあった事も分かります。ですが、我々、男は決して選ばれた存在などではないし、女性も奴隷などではない」
「だ、だが――」
「もう、喋るな」
聡くんは心底うんざりした表情で一言だけ浴びせた。
「ひっ――?!」
そして、聡くんは男子生徒に近づいていき、彼の耳元でこっそりと囁いた。
その言葉を近くにいた俺はなんとか聞き取ることが出来た。
「お前程度の男などいつでも潰せる、覚えておけゴミムシが……。不愉快だから、さっさと僕の視界から消えろ。さもないと――」
「わ、わっかった。に、二度と、あ、東間には近寄らないっ!! 近寄るものかっ!」
男はそういって本当に走り去ってしまった。
聡くんの最後の言葉は聞き取れなかったけど、そうとう惨いことを言った気がする。
走り去っていく彼を見送った後で聡くんは護衛の人達にチラリと視線を送りながら言った。
「僕としたことが……氷室さんに謝罪させるのを忘れてました。念のため彼の名前、住所、家族構成、親の職業などを調べておいてもらえますか」
「はっ!」
ただの護衛と思っていた黒服の女性が返事をする。
そして、聡くんは今までの事がまるで無かったように俺に向かって微笑んだ。
怖っ!
念のためで個人情報調べられちゃうんだ……。
聡くんを怒らせない様にしよう。
「突然、話に割り込んでしまって申し訳ありません、氷室さん。それとこの前のオーディションのせいであのような輩に絡まれてしまい、申し訳ない。彼には必ず後で謝罪させますのでご容赦を」
行き成り話しかけられて少し呆けてしまう。
「あっ……いや、謝罪はしてもらわなくて結構だよ。それと俺の方こそ助かったよ。聡くん」
俺がそう言うと聡くんは少し驚いた表情をした。
「あっ、ごめん、聡くんって呼ぶのは馴れ馴れしかったかな? でも、すーちゃん……妹さんもいるから東間さんって呼ぶと混乱するかと思って」
「いえ、構いません。では、僕も和希くんと呼ばせてもらっても構いませんか?」
「もちろん」
「それで、今日は和希くんに会いに来ました」
「俺に?」
「えぇ、再び公開オーディションをやるのは知っていますか?」
「あぁ……咲に聞いたよ」
「そうですか、ですが、そのオーディションは今回は東間、北条、南波留そして西宮の4大財閥がスポンサーになり大々的にやるのです。前回はお遊びではないなどと言っておきながら不正があった事を謝罪します。そして、改めて今度はこちらからお願いします、オーディションに出場していただけませんか?」
「あぁ、俺でよければ――」
「ちょっと、待ってくださいっ!」
俺が返事をしようとすると行き成りリナが俺と聡くんの間に割って入ってきた。
リナって意外と度胸あるな、あんな聡くんを見た後なのに間に入ってくるなんて。
「貴女は確か……」
聡君がリナを見つめる。
「私はアリナ・エヴァノフです。和希はオーディションには出ません!」
「「えっ?」」
リナの発言を聞いた俺と、大人しくしていた涼子が驚きの声をあげる。
「それはどういう事ですか?」
「そのままの意味です。和希は歌手より役者の方が向いています」
「ちょ、ちょっと、エヴァノフさん勝手に和希君の話を断るなんてまずいよ」
涼子がリナの腕を引っ張って何処かに連れて行こうとしている。
「ほぅ、和希くん自身はどう考えているのですか?」
俺はリナの突然の発言に面食らってしまい、少し呆けてしまった。
「……俺は、今でも歌手になりたいと考えているよ。でも、リナどうして役者の方が向いてるって思うんだ?」
「そんなの決まっています。和希は役者の方が輝けるからです! 歌手なら他にたくさんいマス! 例えば私とか……和希が歌ってほしいなら和希の曲を私が歌います。でも、役者に変わりはいまセン。和希は役者として世の中の沢山の人に夢を見せてあげるべきです」
リナの俺に対する役者としての評価を嬉しく思う反面、歌手としての評価に少なからず動揺してしまう。
歌手としての俺の変わりはいくらでもいるか……きつい事を言う。
確かに曲は前世の他人の物で俺の力ではないし、編曲だって斎藤のお姉さんの力だ。
それでも、俺は自分の――前世の曲を他人に譲る気は一切ない。それは、間違いなく俺のエゴだ。
俺は誰かに言われて歌手を目指したんじゃない、自分がなりたいから目指す事にしたんだ、たとえ誰に否定されても、才能がないと言われようと揺らぐな。
「ふむ……和希君が望むなら今度、東間がスポンサーをやるドラマに主演として出演してもらう事も出来ますよ? この前のお詫びも兼ねてね」
「それは名案です! 是非そうしてください!」
聡君の提案にリナはすぐに飛びついた。
「リナ、悪いけどこれからは役者としてもコネを使うのは止めようと思うんだ。自分の役は自分で勝ち取るよ。でも、役者のライバルは少ないから実力かどうかは怪しいかもしれないけど……。それと、歌手を諦めるつもりは無いよ」
「和希は役者として天才です! 間違いなく今世紀で一番の男性役者ですヨ。だから歌手は諦めてください」
リナはそう言って縋るような目で俺を見つめた。
しかし、俺はそれに首を横に振って答える。
「歌手の話は置いて置くとして……僕としても和希くんには是非、ドラマに出演してほしいと思ってるよ。そっちのほうが視聴率も良さそうだしね」
「当然です、和希が出ているドラマを見ないなんて人生を損してイマス!」
「はわわ、なんか和希君が遠い存在になっていく……」
涼子がアワアワしだしたけど、とりあえず放っておく。
俺としてもドラマに出してもらえるなら嬉しいけど、歌手としては未だデビュー前だ。
まずは歌手としてデビューすることを目標としないといけない。
世界的歌姫であるリナに歌手になる事を否定されたのはショックだけど、それでも止まる理由にはならない。
俺は歌手デビューするためにも今度のオーディションには何が何でも出場したい。
そして、今度のオーディションは誰にも文句を言わせない、完璧なパフォーマンスで合格して、リナにも認めてもらえるように頑張ろうと心に決めたのだった。
6話のサブタイトルが思い浮かばないので空欄にしておきます。




