SS-20 女騎士の闘い①
階段を降りた先は、もう別世界のようだった。
無数の音。
今の今まで、自分たち以外の音を聞いてこなかった。
だからなのか、より一層違和感を覚えもする。
また、巣食っている相手が想定と異なっていたことも、要因の一つか。
スパイダーではない。
きっと、アレらに捕食されてしまったのだろう。
「副団長、ご指示を」
「一組は階段を保持。敵を階上へ逃すな。ワタシの組は敵の掃討に当たる」
「「「ハッ」」」
「ワタシが前に出る。残りは横列で討ち漏らしを叩け」
「「「ハッ」」」
不快な咀嚼音は、共食いでもしているのか。
ダンジョン内の明かりに加え、手持ちの松明が相手の姿を照らし出す。
人の子供ほども大きさがある。
巨大なネズミの姿をした魔物。
ラットだ。
スパイダーの巣窟だったこの場所は、ラットに取って代わられたらしい。
明かりに気が付いたのか、鳴き声がこちらに迫ってくる。
視認できる数は、軽く二桁を超えてゆく。
敵の相手をしながら探索など、容易なことではない。
先に掃討するべきだ。
幸い、通路には十分な広さがある。
数を減らすには、剣よりも槍の方が良いか。
どの道、先手を譲るべきではない。
同行しているのは精鋭ではないのだ。
恐怖に呑まれれば、容易く瓦解するだろう。
そうなる前に、敵をこそ瓦解させるのみ。
一気に前に出る。
同時に、松明を群れの先頭へ投擲。
火を恐れてか、勢いが弱まる。
生じた隙を逃さない。
≪召喚≫
手に馴染みの重さが宿る。
金と銀の意匠が施された円錐状の槍。
魔力を注ぎ込む。
途端、槍が光を帯びる。
表面に浮かび上がるのは、不可思議な紋様。
刻印武装の真価が発揮される。
≪付与≫
光が形を得る。
宿るは雷。
進み出た勢いを殺さず、更に加速して群れへと突進。
≪雷撃≫
雷槍が敵を消炭にする。
至近に落雷したかのような轟音を残し、敵の後方まで突き抜けた。
驚きか怯えか。
一瞬の間を空けて、魔物の悲鳴が通路を満たす。
伝わる意思に、思わず顔を顰める。
だが、ここで手を抜くわけにはいかない。
魔力が尽きれば、ただの槍と化してしまう。
そうなる前に、大勢を決する。
再び群れに向き直り、槍を構えた。
「お見事でした! 流石は副団長!」
「ああ」
興奮気味の騎士たちとは異なり、単調な声しか返せない。
こちら側に被害は無い。
一方的な蹂躙。
その殆どが、自らの手によるもの。
耳鳴りのように、先程までの声が残っている。
何故、ワタシだけが……。
魔物の発する声。
いや、意思が伝わってきてしまう。
原因は明白。
【意思疎通】というスキルの所為だろう。
魔物を討伐する際、障害となることが多い。
他者にとっては単なる鳴き声に過ぎないが、自分にとっては途端に意味を持ってしまうのだから。
だからこそ、討伐任務よりも警邏などの町中の任務を精力的にこなしてきた。
最初の頃に比べれば割り切れるようにもなったものの。
未だに戦闘直後は駄目だ。
どうしても、精神的に参ってしまう。
「あの、副団長? この後のご指示は……?」
声に意識を戻す。
「オマエたちは最優先で転移魔法陣の破壊を。但し、トラップには十分注意せよ」
「「「ハッ」」」
「待機組! 死骸にもう一度トドメを刺し、一箇所に集めろ。脱出時に焼却する」
「「「ハッ」」」
フゥ。
こういったことに、向いてないなワタシは。
気が滅入る作業ばかり続く。
が、まだ油断は禁物。
冷静、且つ、慎重に事に当たらねば。
魔物があれだけ巣食っていたのだから、魔族は居ないとは思う。
それでも、ここはダンジョンの中。
人の想像の範疇を超えた場所。
何が起きても不思議ではない。
長く息を吐きだす。
気持ちを切り替えなければ。
まだ、各部屋の探索も残っている。
魔力を消耗した気怠い身体を叱咤し動く。
ここでダレてはいられない。
ワタシが範を示さねば。
地図を手に、トラップの破壊を開始した。
結果的に、成果は一つ。
ここに魔族は居ない。
それだけだった。
ダンジョンの外の2名と合流し、野営を行う。
疲れた。
これをあと何度繰り返すことになるのだろう。
魔族を見つける、その日まで。
魔物の悲鳴を聞き続けなければいけないのか。
ああ、気が重い。
聖都での生活が、早くも恋しくなってくる。
皆は元気にやっているだろうか。
団長にご迷惑をお掛けしていなければ良いのだが。
…………。
望み薄、か。
厳しく接しているつもりではあるのだが、迫力不足なのだろう。
あの勇者を筆頭に、どうにも侮られている節がある。
団長の元、少しは真面目になってくれるだろうか。
きっと団長ならばという期待と、ワタシでは力不足だったという惨めさ。
あー、駄目だ。
悪い方向ばかりに思考が偏ってしまう。
けど、この先、どうなるのだろう。
もしも、世界樹群の向こう側に行けたとして。
そこから始まるのは、長い長い戦いの日々なのでは……。
果たして、平和を乱してまですべきことなのだろうか。
ワタシの考え方が変なのか?
限られた世界で、今を享受する。
それで十分なのではと思ってしまう。
それとも。
世界を隔てる壁の先に、より素晴らしい世界が広がっているのか。
上手く想像できない。
もし、もしかしたら、あの風変わりな物語のように、人と魔物が仲良く暮らしていたりはしないのかな。
ならば、見てみたい気もする。
本当に、そんな世界があるならば。
本日はSSをあと1話投稿します。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




