39 無職の少年、無気力
風呂場にトイレ。
掃除を終えて居間に戻ると、見慣れた顔が増えていた。
そう言えば、今朝は来なかったっけ。
「あ、オトートクン。おはよー」
「もう、お昼過ぎてるよ」
「じゃあじゃあ、こんにちはー」
髪も身体も桃色の友達。
妹ちゃんが机に身体を預けていた。
「寝坊しちゃったぁ」
どうして今朝は来なかったのか。
そう訊ねる前に、答えが齎される。
とても妹ちゃんらしい理由だった。
「今日、出掛ける予定じゃなくて良かったわね。そうでなきゃ、置いて行ったところよ」
「オネーチャン、酷いよぅ! そこは呼びに来てくれてもいいじゃんかー!」
「姉さん……」
空いた席に着きながら、非難がましい目線を送る。
「弟君を鍛えるのが目的なのであって、妹ちゃんはついでなの、つ・い・で」
「ムキイィー!」
対面に座る姉さんに向け、奇声を上げる妹ちゃん。
今日の姉さんは意地悪らしい。
「それで姉さん。明日は出掛けるんですか?」
「そうねぇ。さっき言われたように、ケンタウロスの狩りの見学でもさせて貰おうかしらね」
「なにそれぇー。つまんなーい」
「なら、付いて来なくてもいいわよ」
「それはもっとつまんなーい」
「ついでに弓の使い方も習ったらいいじゃない」
そういえばアルラウネさんが、あの魔族は弓を使うって言ってたっけ。
男性なのに女性口調なのは奇妙だったけど。
みんな筋肉が凄かったし、強そうには見えたよね。
「うーん」
「何よ、嫌なの?」
「えっとえっと、もう冒険はしないの?」
「冒険? もしかして、ダンジョンのこと言ってる?」
「そうそう。結局、なんにもしてないんだけど」
「当分の間は無しね」
「えぇー」
「危険がどういうものか、実際に感じてみて欲しかったけど。実戦はまだ早かったみたい」
「ぶーぶー」
「焦らずゆっくりやればいいわ」
いきなり魔物と戦わされそうになったわけだけど。
どうやら、考えを改めてくれたみたい。
これも賢姉さんのお蔭かな。
「明日一緒に来るつもりなら、弓矢を持参して来なさい」
「はぁーい」
あんまり気乗りした感じじゃない。
そんなに冒険がしたかったのかな。
とてもじゃないけど、ダンジョンに良い印象は覚えてない。
ここ数日で、魔物への苦手意識までついた気がするぐらいだよ。
『オデカケ?』
「明日ね。一応断っておくけど、連れては行かないからね」
『アブナイ?』
「そうよ。外だから多少はね」
『トモダチ、シンパイ』
机の上でずっと黙っていたスライムが、そう意思を伝えてくる。
「今回はケンタウロスとも一緒の予定だし、むしろ安全なくらいよ」
『オウマサン』
「んんんー? 合ってるのかしら、それ」
「何か変な喋り方してたよねー」
「まぁ、風変りではあるけど、悪い魔族じゃないのよ」
『ヘンタイ?』
「それは流石に言い過ぎ」
姉さんに指で突かれてプルプルしてる。
「昨日、門前に行ったでしょ? あそこよ」
『ゴーレム!』
「そ。あの奥にケンタウロスが住んでる――ってアンタも知ってるわよね」
『オネェ』
「それは覚えなくていい言葉だったわね」
スライムも、あの集落に行ったことあるのかな?
僕が知らない過去。
尋ねれば教えてくれるのかもしれないけど。
知るのはまだ怖いや。
「アルラウネさんには、また一緒に来て貰うんですか?」
「そうねぇ、どうしようかしら。あとで聞いてみるわ」
「あのさぁ、ウチは弓を習うとして、オトートクンは何をするのー?」
「む」
姉さんの動きが止まった。
「むむむ」
口を突きだし唸り出す。
あれ、もしかして僕は何もすることが無い感じなのかな。
「か、狩りの見学よ!」
「それだけぇ?」
「動物の動きを予測して、どう対処するか考えてみたりとか」
「ふぅーん」
「ケンタウロスの真似をしてみたり」
「あれ? 下半身、馬だよね。真似できなくない?」
「そこは想像力で補完するのよ! それに、戦闘を客観的に見ることで、分かることもきっとあるはず」
「なんかテキトーだね」
『テキトー』
「悪かったわね! どうせ受け売りですよーだ」
妹ちゃんから浴びせられる素朴な疑問。
遂に耐えられなくなったのか、姉さんが拗ねてしまった。
両腕で顔の下半分を隠し、机に突っ伏す。
「オトートクンもウチと一緒に弓習う?」
「えっと、どうしようかな……」
僕には天職が無い。
だから、あらゆる才能が備わっていない。
どれだけ頑張ったとしても、きっと人並み以下までしか届かない。
惨めな思いをするだけだよね。
それに、妹ちゃんを妬みたくなんてないし。
「やっぱりいいや」
「そう? でも、見てるだけだと、きっと詰まらないよー」
努力すること。
そのための気力が、いつも湧かない。
何よりも先に諦めが来てしまう。
せめて人並みになれるよう、努力するべきなんだろうけど。
僕は心まで弱くて。
誰かに守って貰わないと、生きてゆくのもままならない。
そんな自分が嫌いだ。
本日は本編40話までと、SSを2話投稿します。
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