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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第一章
43/230

32 無職の少年、むかしむかし

 パタパタと家の中を移動する。


 何が楽しいのか、みんなも付いて回って来る。


 いや、それなら手伝って欲しいんだけど。



「僕、別に遊んでるわけじゃないよ?」


「そだね。洗濯物は干し終わったし、今はお掃除中かな」


「何で付いて来るの?」


「オトートクンのゴエーだよ」



 ごえーって何だろ?


 気持ち悪そうには見えないけど。



『トモダチ、マモル!』


『護衛』



 あ、ごえーって護衛のことか。


 妹ちゃん……言葉がブラックドッグよりもつたないのはどうかと思うよ。



「どうせなら手伝ってくれると助かるんだけど」


「そしたらゴエーできないよ」


「そ、そうなの?」


「敵はいつ何時なんどき襲って来るかも分からないからね!」



 フンスと。


 鼻息荒く、意気込んでいる。


 よく分からないけど。


 護衛はしても、掃除はしてくれないんだね。



『ゴミ、タベナイ』


「あ、うん。食べなくてもいいよ」


「そんなことしたらバッチイよ」


『マオウサマ、イッテタ』


「? 魔王様?」



 突然、何のことだろ?



「どゆこと?」


『ソウジ、シタ』


「うん?」


『ハッパ、タベタ』


「???」


『ゴミ、タベナイ』



 うーんと。


 全然分からない。



「魔王様、登場しなかったねー」


『イッショ、イタ』


「およ? 魔王様と一緒に居たことあるの?」


『アル!』



 嘘をつくとは思えないけど。


 そもそもいつのことなんだろう。


 最近のことじゃないよね。



「いいなー。ウチも会ってみたい」


『マオウサマ、イナイ』


「あれ? そだっけ?」


『シンジャッタ』


「「あ」」



 ポロポロポロポロ。



「な、泣かないでよぅ」


「御免ね。悲しませたかったわけじゃないんだよ」



 掃除の手を止め、スライムを抱き上げる。


 妹ちゃんが手を伸ばし、表面を撫でる。



「よく分からなかったけど、ウチも御免ね」



 本当に辛そうで、余りにも悲しそうで。


 次第に目が潤んで来てしまう。



「ヒック。な、泣き止んでぇ。ウチまで、悲しくなって来ちゃって」



 妹ちゃんも同じ気持ちらしい。


 と言うか、先んじて泣き始めていた。



『ピェーーーン』


「うえぇーーーん」


「グスッ」



 その場にしゃがみ込んで、みんなで抱き合う。


 ブラックドッグ以外はもう完全に泣いてしまっていた。



「たっだいまー! ……って何事⁉ どうして泣いてるのよ⁉」


『これは事件に違いないポー!』






 姉さんとコロポックルが帰って来た。


 真っ先に泣き止んだのはスライムだった。


 僕たちは席に座らされて慰められている。


 一方で、スライムはテーブルの上で嬉しそうに果物を食べている。



「朝も食べたばかりなんでしょ? この場所でそんなに食べると後で苦しい思いをするわよ」


『リンゴ、ウマー!』


「聞いちゃいないし……。で、弟君たちは何で泣いてたわけ?」


「グスッ、ヒグッ」



 妹ちゃんはまだしゃくり上げている。


 僕が話すしかないみたい。



「掃除をしてたら、スライムが魔王の話をし始めたんです」



 さっきの出来事を思い出しながら話す。



「でも、内容はよく分からなくて。魔王が死んだって言って、泣き出しちゃって」


「そうだったのね」



 姉さんの手が、スライムへと伸ばされる。


 そうして表面を優しく撫で始めた。



「姉さんは何か知ってるんですか?」


「残念だけどスライムの言った魔王と直接の面識は無いわね」


「そうなんですか」



 姉さんは若い女性にしか見えない。


 だけど、すっごく長く生きてるらしい。


 口にすると怒られるから言わないけど。


 その姉さんでさえ、会ったことは無かったのか。



「アルラウネやブラックドッグなら、一緒に暮らしていたけどね」


「え……?」



 何か、前に聞いた話と違う気がする。


 確か、勇者と一緒に暮らしていたって聞いた覚えがあったんだけど。


 ビクッ。


 軽い震えが身体を走る。


 考えるだけでも、やっぱり苦手だ。



「父や仲間の人たちも一緒にね」


「???」



 頭は混乱して身体は震えて心臓は強く脈打って。


 大変なことになっていた。



「弟君のご先祖様。魔王を倒した勇者で、その後に魔王になった人のことよ」



 途端に血の気が引いて行く。


 姉さんは一体、何を言ってるんだ?


 僕が……何だって……?



「かの人のお蔭で、こうして今のアタシたちが在るの」



 僕はこんな出来損ないなのに。


 この身にあの勇者の血を引いてるの?


 気持ちが、悪い。



「――さい」


「? 弟君?」


「止めてください!」


「ど、どうしたのよ急に。大声なんて出して」


「聞きたくありません。そんな話。僕には……僕には関係ありません!」


「オトートクン? どしたの?」



 聞きたくない、聞きたくない。


 そんなわけの分からないこと、知りたくもない。


 僕はただ、勇者を倒せればいいだけなんだ。


 昔のことなんて知らない。


 どうだっていい。



「この話をするには、まだ早過ぎたかしら。御免なさいね、弟君。苦しませたかったわけじゃないのよ」


「お、落ち着いて、オトートクン」


『ダイジョブ?』



 嫌な考えが浮かんだまま消えてくれない。


 みんながそばに居てくれるのは……。


 僕のためなんかじゃなくて。


 昔の誰かのためなの?






本日は本編35話までと、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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