19 無職の少年、立派なご先祖様
果樹の並木道を抜けた先。
石造りの家が建ち並んでいた。
どの家も二階は無く、横に長い造りに見える。
「地面や家の様子から見て、ワームの襲撃は無かったみたいね」
「ウチらだけ酷い目に遭ったってこと⁉ 最悪ぅ~」
「アタシたちが襲われてなかったら、今頃はこの集落が被害を受けていたはずよ」
「うぅ~」
さっき見たばかりの皮鎧を着た人馬が駆け回っている。
他にも、女性や子供と思われる人馬も居るみたい。
そちらは人族と変わらない服装をしている。
もっとも、下半身は大きめの布で覆われた状態ではあるけど。
「あ、ちゃんと女性のケンタウロスも居るんだねぇ」
「当たり前でしょ」
「だってぇー、女性が居ないから女口調なのかなって」
「そういうわけじゃないわよ」
雑談を交している内に、向こうが気が付いたらしい。
こちらへと駆け寄って来た。
「あらん、早速来てくれたのねん」
「やっぱり女口調だぁ!」
「そりゃそうよん。体は男でも、心は乙女なんだから」
「おぉー」
え、何で妹ちゃんは感心した声を上げたんだろう。
僕にはよく理解できてないんだけど。
「まさか、セントレアがこうも蔓延するなんてね」
「ちょっと、病気か何かみたいに言わないで頂戴! とっても立派なご先祖様なのよん」
「残念ながらよく知ってるわ」
「嘘ッ⁉ その姿から察するに植物の魔族よね?」
「アルラウネよ」
「まぁ⁉ ダーリンの家に勝手に住み着いたっていう、あの⁉」
「妙な言い方は止めて」
「ご先祖様のお話、是非とも詳しく聞かせて貰いたいわん」
グイグイ近づいて来る人馬。
アルラウネさんも困り顔をしてる。
「その前にさぁ~、お腹空いたんだけどぉ~」
グオォーっと、盛大にお腹を鳴らす妹ちゃん。
「と、言うわけなんだけど、何か食べさせて貰えないかしら? その代わり、セントレアの話をしてあげるから」
「モチのロンよ! 折角の機会だもの、みんなにも聞かせてあげなきゃ」
「集落の警備を疎かにしちゃ駄目よ? まだワームが襲って来ないとも限らないんだから」
「分かってるわん。みんなが入れるように、集会場に行きましょう」
「みんな入ったら、警戒できないでしょ」
「んもぅ、言葉の綾よ、あ・や。そんなにプリプリ怒っちゃ、折角の美人さんも台無しよん」
「生憎と、人じゃないもの」
「あらあら、気難しいのね。じゃ、お喋りは後にして、付いて来て頂戴な」
妙に体をクネクネしながら先を行く人馬に、みんなで付いて行く。
他の家が3軒ぐらいは入りそうな、大きな空間。
集会場の中には、机や簡易の寝床などが散見された。
「少し散らかっていて御免なさいね。最近は宴会ぐらいでしか使ってなかったものだから」
「平和な証拠ね」
「そうねん。魔王様や精霊様には感謝してもし足りないぐらいだわ」
「先代の魔王は、割と暴れてたみたいだけどね」
「魔族に対して乱暴はされなかったと聞いてるわ」
「そうだったかしら。でも世界樹は執拗に攻撃してたみたいだけどね」
「男は少しぐらいやんちゃな方が好ましいわよん」
「そういう問題じゃないと思うけれど」
二体の会話を余所に、他の人馬がテキパキと片付けを終えて行く。
中央の机に、調理済みの肉や果物が置かれる。
「いえ、こんな量は食べられないわよ」
「余ったらみんなで食べるわ」
「そう? なら有難く――」
「いっただっきまぁーす!」
誰が何を言ったわけでもないが、妹ちゃんが食事に跳び付いた。
「ハァッ、この子ったらもぅ……」
「子供は元気が一番よ」
「子供って歳でもないのよねぇ……。ともかく、有難く頂くわ」
「どうぞどうぞ。そのために用意したんだもの。た・だ・し、その代わり」
「ハイハイ、話してあげるわよ」
「さぁ、オネェサマのお話が始まるわよん! 警備の子たち以外は近くにいらっしゃいな!」
広い室内を、歓声が埋め尽くす。
そんなに凄い人……いや、魔族だったのかな。
異様な盛り上がりを見せる場を避け、数個の果物を手に取り、壁際へと移動し腰かける。
すぐそばに身を寄せ、伏せるブラックドッグ。
時折歓声が上がる様を眺めていると、苛立ちを覚えてくる。
この魔族たちのために、今まさに姉さんたちが戦ってるのに。
そんなことお構いなしとばかりに、楽しげな様子で。
ちゃんと無事に戻って来てくれるよね……。
眼前の光景を睨み付けながら、姉さんたちの身を案じた。
本日は本編20話までと、SSを1話投稿します。
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