SS-5 アルラウネは垣間見る
「アルラウネ、地中に敵!」
突然の警告。
応じる間も無く、周囲の地面が捲れ上がった。
光景は緩やかに進み、思考だけが加速する。
跳び出してくるのは、土色をした管状の魔物。
ワーム。
耳も鼻も目すらも無く、管の先端に無数の歯を備えた口があるのみ。
地面の振動を感知し、地中を掘り進め、ただただ捕食しようとする、食欲にのみ支配された憐れな魔物。
どの個体も小さい。
1~2メートルほどしかない。
幼生体だ。
でも数が多い。
この周辺だけで、数十は現れた。
腕の中にはコロポックル。
二人はあの子が守るだろう。
ブラックドッグはどうだろうか。
いや、要らぬ心配か。
霧化できるし、何よりアタシよりも強い。
ならば、アタシはこの身とコロポックルを護るのみ。
下げた視界からは、地面を割り、無数の口がこちらへと迫って来ている。
はぁ、魔法が使えたら幾分楽だったろうに。
そんな思考を最後に、行動を開始した。
自在に操れるのは頭部から生える蔦。
枝分かれさせ、成長を促す。
消費する時間は一瞬。
手足を動かすように、呼吸するように容易いこと。
まずは足元から迫るワームを締め上げる。
伸ばす伸ばす。
敵は地中を移動する。
逃せば面倒なことになるのは確実。
ボウヤたちが狙われるかもしれないし、集落への被害もあるだろう。
更に伸ばす。
伸ばし続ける。
余さず漏らさず、一網打尽に。
地面に這わし、片っ端から締め上げる。
瞬く間に土色は緑色で上書きされた。
ワームに意思疎通は通じないと聞いた覚えがある。
もう心優しき魔王もそばには居ない。
やはりトドメを刺す他ないか。
と、舞い上がった土煙が晴れゆく。
いや、切り裂かれ始めた。
土煙が裂けると、その場に居たワームもまた切断された。
一閃で数体が葬られてゆく。
土煙が細切れにされる。
ワームの群れが崩れてゆく。
土煙が消え去ると同時に、周囲のワームもまた息絶えていた。
立っているのは二体のみ。
アタシとブラックドッグだけだった。
今のは、この子の力?
獣の精霊。
本来、この子は下位精霊のはずだが、その有する力は上位に匹敵するとか。
風魔法に似た力に思えたけど、あれも精霊の力なのだろう。
かの血族を守り続ける精霊。
敵に回したくはないわね。
少し間を置いてから、来た道に変化があった。
巨大な棘状に隆起し続ける地面。
どうやら迎えが来たらしい。
伸びた蔦を戻しながら、ぼんやりとその光景を眺める。
魔法が封じられたこの世界において、精霊の揮う力は絶大に過ぎる。
先程の出来事も含めて。
改めてそう感じさせる光景だった。
「お待たせ。いやー、弟君が半狂乱になっちゃって大変だったわ」
「何があったの?」
「アンタたちの状況を見て、色々と思い出しちゃったみたい」
「そう……。そうよね、癒えてるはずはないわよね」
「昔よりは随分と落ち着いたと思ったんだけど、やっぱり、ね」
凄惨に過ぎる経験と記憶。
要らぬ刺激を与えてしまったか。
「鍛えるって言ってたけど、やっぱり無理なんじゃない?」
「いいえ、だからこそよ。さっきみたいな状態に陥るようでは、いざってときに命取りになるもの」
「恐怖の克服、か。何だか昔を思い出すわね」
不思議そうな顔をして首を傾げてみせる。
そうか、この子がまだ産まれる前の出来事だったわね。
銀色の髪は、否応なく記憶を刺激する。
騒がしくも懐かしい日々。
そして悲しみも伴う記憶。
当時の彼女たちもまた、こんな気持ちを抱いていたのかしら。
尋ねることは、最早叶わなくて。
「何なのよ、意味深なこと言って黙りこくって」
「いえ、何でもないわ。地面を直しつつ、ボウヤたちのところへ行きましょう」
「頭でも打った?」
「失礼ね。アタシもコロポックルも掠り傷一つ負っちゃいないわよ」
「それもそうよね。あ、ブラックドッグも無事みたいね」
近くまで寄っては来たが、ボウヤ相手みたくすり寄っては来ない。
随分と長い付き合いになるけど、あんまり仲良くはないのよね。
ドリアードとは勝手が違い過ぎる。
「ごーれむちゃんに預けてきたから、そこまで戻りましょ」
「そう言えばあの門番、まるで役に立たなかったわね」
「あーそうね。警告とかもされなかったわよね」
「300年も経つと性能も落ちるのかしら」
「その物言い、年寄り臭いわよ」
「アンタとそんなに歳は変わらないでしょうが!」
昔とは随分と様変わりした。
世界も、共に在るモノも。
けれど、今もまた騒がしい日々がある。
本作では、アルラウネも結構活躍することになりそうです。
姉よりも更に姉ポジ!
本日は本編20話までと、SSを1話投稿します。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




