11 無職の少年、精霊の住処
▼10秒で分かる前回までのあらすじ
聖都から辛くも脱した主人公たち
姉からこの世界について色々と教えを受ける
その後、主人公を鍛えるとの発言があったわけだが……
知っていたこと、知らなかったこと。
色々と聞くことができた。
頭に詰め込まれた情報を整理する。
いや、しようとしていたのだけれども。
気が付けば、姉さんに連れられて、とある場所へとやって来ていた。
樹上集落の中心部。
つまりは世界樹の中心たる巨大な幹。
慣れた様子で姉さんが手を触れる。
変化は一瞬。
そこはもう、先程まで居た場所では無かった。
茶色い枝や幹とは違う、緑溢れる世界。
広い空間は、隙間こそあれど、植物で覆い尽くされていた。
壁や天井を成すのは、無数の蔦だろうか。
日は常に天上に有り、この場を不夜たらしめる。
背の低い草が足を柔らかく擽る。
「あれ~? 誰も居ないねぇ~」
「そうね。奥に居るのかしら」
そう言うと、姉さんが壁に歩み寄り、手で触れてみせた。
壁を成す蔦が自ら動き、通路が現れる。
「相変わらず、面倒な仕掛けよね」
「――親が親なら、子も子じゃな。明け透けな住処なぞ、危機感が足りぬと思うがのぅ」
声は通路からではなく、誰も居なかった背後の空間から届いた。
皆で振り返ると、そこには全身緑色をした女性が立っていた。
「母は関係ないでしょ」
「――グノーシスめの住処は、一部屋きりではないか。素朴ではなく粗暴に見受けられるがな」
「ひとんちにケチつけないでくれる?」
頭部からは髪の代わりに長い葉が垂れ下がり、服の役目も果たしている。
覗く肌も緑色。
人ならざる存在。
植物の上位精霊ドリアードだった。
「もぅ、脅かすのは卑怯だよぉー! ビックリしたじゃんかぁー!」
「――事前の知らせもなく侵入して来たじゃろうが。警戒して当然じゃ」
「思い立ったら即行動ってね。明日、外出する許可が欲しいのよ」
「――待て。それよりも先に、頼んだ件についての報告を聞かせて貰おうか」
「残念ながら塔へは侵入できなかったわ」
「――弾かれたという意味か?」
「いいえ。その手前で人族に妨害されちゃってね」
「――騎士どもか。それほどの手練れがおったのか?」
「目立ったのは一人だけかしらね。後はそうね、勇者が居たわ」
ブルッと身体が震える。
「――やはり教会に与しておったか。厄介なことじゃな」
「で、もしかしたら襲って来るかもしれないから、二人を鍛えておこうと思ったわけよ」
「――ここに人如きが侵入できるわけがなかろう」
「侮るのは誰にでもできるわ。賢明なら備えは怠らないと思うのだけれどね」
「――口ばかりが達者になりおってからに」
溜息を吐きつつ、ドリアードが膝を曲げ体を後ろへ倒してゆく。
すると地面から伸びた植物が、絡み合って椅子となり受け止めてみせた。
「珍しく賑やかね」
「あ、アルラウネだー!」
通路から現れたのは、これまた全身緑色をした女性。
ドリアードとの違いは、頭部から伸びているのが蔦と言うことぐらい。
姉妹のような似姿。
しかし精霊ではなく、こちらは魔族であった。
「オーガにボウヤまで居るのね。そこの筋肉に愛想でも尽かしたのかしら?」
「筋肉呼ばわりしないでくれる?」
「女らしさに欠けるのよねぇ。ボウヤの方が余程女の子に見えるぐらいよ」
「嬉しくありません」
何かにつけ、優しく構ってくれるのは有難い。
とは思うのだが、隙あらば女装させようとしてくるのが困る。
「あら、拗ねないで。やっぱりここで暮らしなさいな。筋肉がうつる前にね」
「あのねぇ……」
「――後から来て、会話に割り込むでないわ。して、外とはどこに行くつもりじゃ?」
「麓にある魔族の集落にね」
「外にボウヤを連れ出すつもり⁉ あの一件を忘れたの⁉ 一体何を考えて――」
「アタシがいつだって守ってあげるつもりよ。でも、危険から遠ざけるばかりじゃ、いざってときに自分で動けないわ」
「だからって」
「それに今回行くのは、世界樹の壁の反対側よ」
「――危険を危険と知ることも必要、か」
「そゆこと」
「――アルラウネは反対か?」
「当然でしょ! あんな悲しい別れは二度と御免だもの」
「――ならば付いて行くか?」
「え、でも……」
「――偶には外に出てみるのも良かろうて。最近は引き籠ってばかりおるじゃろ」
「野蛮な世界が嫌いなだけよ」
「あの集落なら心配無用だと思うけどね。何せ、頼もしいのがいっぱい居るし」
「アレを頼もしいとか……やっぱり同類なのかしら」
精霊と魔族とエルフ。
普段は見られない表情も垣間見える。
昔からの友達らしいけど。
「何よ、カッコイイじゃない」
「感性がどうかしてるわね。何であんなのが増殖したのかしら」
「――魔族側とは言え、危険は少なくはあるまいよ」
「でしょうね。危険を避けては意味もないしね」
「――ならば供を一体連れて行くが良い」
「いいの? 危ない目に遭うかもしれないのよ?」
「――守れ。傷の一つたりとも許しはせぬ」
天井からフワフワと漂い降りてくる10センチほどの球体。
これまた緑色。
「コロポックルだぁ! やっぱりカワイイねぇー!」
『よろしくポー!』
音ではなく意思が伝わってくる。
葉が折り重なるように球体を形作り、その中心からは顔が覗く。
手も足も無いが、跳ねたり飛んだりできる。
植物の下位精霊コロポックルだ。
「――して、其方はどうするのじゃ?」
「ハァッ……念の為、仕方なく付いて行ってあげるわよ」
「ウチに一体欲しい!」
「――やらぬわ戯け。出立は明日じゃったな。其方も泊めて貰うが良かろう」
「別にアタシはここで構わないけど」
「態々迎えに来るのも手間だから、泊めてあげるわよ。ね、弟君」
「ベッドは余ってますし、大丈夫だと思いますよ」
「……? 何でベッドが余ってるわけ?」
「アタシのベッド、使ってないもの」
「は?」
「いっつも弟君と一緒に寝てるもんねー」
「アンタ、いい歳して何やってんのよ!」
「何よ! 歳はお互い様じゃない!」
「――喧しいのぅ。しかしこれで数日は静かに過ごせそうじゃな」
え、もしかしてアルラウネさん、厄介払いされたんじゃ……。
行きよりも数を増やし、騒々しくも帰路に着くのだった。
前作ではお馴染みの面子の登場となりました。
本日は本編15話までとSSを1話投稿します。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




