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泥状のギギルコン「と」  作者: がら がらんどう
吉井とみきとみきと吉井
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第71話 場所が変われば車も変わる


 依頼の当日、サエランとの待ち合わせより早めに着くよう体感時間で調整した吉井とみきはギルド裏にある受注所の玄関前で扉が開くのを待っていた。


「完全にわたしたちが1番ですよね。これならすぐですよ」

「そうだな。早く来てよかったかも」

 吉井が振り返るといつのまにか人が増えており、既に12、3人は並んでいる。


「しかし吉井さんも中々やりますね。サエランさんと合流する前に受注して、無駄な時間を無くそうなんて」

「よかったよ。この程度で褒めてくれるんなら、きみとはこれからも上手くやっていけそうだ」


 そっか、割と仕事探してる人いるんだな。というかこの国の景気って今どうなんだろう。まあ朝一でこれくらい並んでるのが多いのか、少ないのかわからんけど。そもそも景気ってあるんだろうか?みきの話しぶりだと他の国とのやりとりあんまりなさそうだし。なんとなく内需だけだとそんなに変わらない気も。あー、でも災害とかあるわ。そっちはもろに食らうよな。そしておれが知らないだけで内需の中の内需でいろんなことが。それにみきが知らないだけで他の国との売り買いもあるかもしれないし。


 吉井が漫画で得た経済の知識と、以前読んだ漫画でわかる経済学の知識を合わせつつ考えていると、受注所の扉が内側からゆっくりと開き始めた。


「あ、開いた! 吉井さん、早く! がっががって行かないと後ろから抜かれますよ!」

「ああ、まあそうかもしれないけどさ。とりあえず入ってひ」

 

 吉井が言い終わる前にみきは走り出し、半身になって入り口の扉をすり抜けた後、掲示板を見ながら室内を駆け回る。


 一応おれ言ったからな、きみは聞いてなかったけど。完全に扉が開いてから吉井は建物に入り受注所に向かった。



 受付で説明を受けた吉井は、再度氏名及びグループ名、登録番号を記載し窓口の男に渡した。


「ああ、これ物必要なやつか」

 担当の男は心底面倒だという表情を隠さず、後ろの扉を開けて倉庫と思われるスペースに入った。


 おいおい、客、まあ客ではないけどさ。ここの職員思いっきり態度に出てるよな、この前いた総合案内のおっさんといい。よし、決めたぞ。おれがめちゃくちゃえらくなったらここの責任者になってがんがん改革してやろう。役所はもはやサービス業だということをこいつらに教え込まないとな。


「これだ。水汲みが終わったらまたここに持ってきてくれ」

 吉井が改革案をいくつか思い浮かべていると、窓口職員が壺を一つカウンターに置いた。


「ええと。壺って一つだけ?」

 吉井が壺を手に取って尋ねると、手に持っていた紙を見た窓口職員はごく小さな舌打ちをした後、もう一度倉庫に入る。


 めちゃくちゃえらいっていう設定だったよな。そうだ、責任者だ。ってことはおれが人を、というかこいつを部署移動させてもいいんだよな。吉井が人事について考えていると、いつの間にかみきが横に立っていた。


「あ、吉井さんに文句はないですよ。むしろ場所がわからないのに飛び出した自分に腹が立ちます」

「わかってるならいい。実際そうだからな」

「で、今なに待ちですか?」

 みきはカウンターに置いてあった壺を覗き込む。


「壺だな。さすがに1つじゃ水質と降水量の調査は無理だ」

「合わせて6カ所ありますから最低同じ数は必要ですもんね。あ、そうだ。こっちの依頼ってなんか面白そうなのありました?」

「うーん、内容的にはギルドの個人にあったのと同じだけど」


 えー、そうだな。吉井はいくつか見た依頼を思い出す。


「娘に迷惑を掛けた男を連れてきて欲しいとかってのもあったよ。死なない程度にぼこぼこにして可。みたいな」

「ああ、ここ警察ないですもんねえ。国は仲介だけして市民に任せてるってことですか」

「なんでもありってわけでは無さそうだけど。一応ギルドで審査みたいなのあるんじゃない」


 ああ、そっか。ここで駄目だった依頼がコミュニティに行くのね。処理しきれない、誰もやりたがらないけど、国としては安定のため必要って感じなのかな。


「あれ、吉井さん。なんか扉の奥で呼んでますよ」

「どうせ壺持てないんだろうよ、あと5個はあるからな」


 吉井とみきはカウンターの中に入り、窓口職員と協力しバケツリレー方式で壺をカウンター横に運んだ。


 うーん。これはどうやって持って行くんだ……? 吉井はカウンター横のスペースに並んだ12個の壺を見た。


「水質、降水量が3カ所ずつ。それに全部予備が必要なんですねえ」

「まあ水質のやつはいいよ」

 吉井は500mlペットボトル程度の壺を1つ手に取る。


「まあこっちですよねえ」

 みきは4、5リットルは入りそうな壺を持ち上げた。


「きみでどうなの? そっちは2個持てそう?」

「持てることは持てますよ。こう、ぎゅってしたら。でもその状態で移動するのは無理かな、と」

「だよなあ。じゃあ結局何往復するんだ?」

「でもこれ簡単な算数ですよ」


 ええと。みきは指を折りながら現状を確認する。


「3人で6カ所に12個の壺を配置しようとしています。大きい壺は1人1個、小さい壺は1人4個まで持てそうです。また大きい壺には小さい壺が2つは入りそうです。さて何回で行けるでしょう?」

「ごめん、考える気すら起きない」

「ふ、吉井さん、答えは1回ですよ」

 みきは笑って入り口に置いてあるリアカーを指差した。


「ああ、あれ。借りられんのか?」

「わたしバケツリレーしてるとき聞いたんですよ。1日1,000トロンらしいですね」

「おいおい、1日12,000円って。車種にもよるが単純にレンタカー料金じゃないか」

「だってあのリアカーこっちでは車扱いじゃないですか。感覚的にはハイエースみたいなもだと思いますけどね」

「なぜきみがハイエースを知っているかはいいよ。わかってるから」


 ええ、じゃあ。3,200トロンの内半分渡して1,000使ったら、おれとみきで1日600トロンか。きっついなー。


 吉井が取り分を計算していると、みきが小さい壺を吉井の前で揺らす。


「それとこの壺めちゃくちゃ高いですよ。小さいのが1個2,000で、大きいのが1,000トロンだって言ってました」

「おいおい、じゃあ小さいの2個壊しちゃった時点でもう赤字かよ」

「だから安全のためリアカーは必要かと」


 その後、2人で話し合った結果、リアカーを借りることを決め窓口職員に頼んだ際に、料金は依頼の金との相殺はできず前払いとの説明を受け、吉井とみきはさらにもう一度相談し、結局1,000トロンを支払ってリアカーを借りることにした。


 そして2人で協力して入り口まで壺を運びリアカーに積んだ後、みきは昼食を買うためサンドイッチ屋に向かい、吉井は細心の注意を払いつつリアカーを引きながらギルド入り口を目指した。


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