第40話 コミュニティ壊滅編(前夜のつええ)
このまま見ててもしょうがいないか。吉井はしゃがみ込んで声を掛け、反応があった1人の体を起こした。
「わかるか? おい」
吉井は襟首を掴んだまま頭を揺らした。
「あ、ああ。な、なにが」
「お前ら金持ってるのか?」
「え、ああ。金?」
「この椅子と向こうのテーブル。買わないといけないんだよ、4人でさ」
おれこのまま逃げたりしない、大丈夫だから。ほら、こうやって店の備品のことも忘れてないよ。吉井は店のことを考えている風の表情で振り返り、イイマがいる厨房を見た。
イイマは包丁を持ったままあんぐりと口を開けて立っており、吉井の視線に気づくと、包丁をまな板の上に置いて苦笑いを見せた。
「テーブルって。なん」
いっつ、ううあ。吉井が襟首を掴んでいた男は痛みを堪えながら、吉井が指差した方向を見た。
大体こういうときは弁償の話になるんだよ、そういうもんなんだって。おれとかお前らが生まれる前から繰り返されてきたんだって。って言いたいけど無理だしな。あー、またみきがいたらって思っちゃったよ。ここに着く前、野営のときも思ったけど、悲しいかなおれ割と頼ってる部分あるっていう。
その後、吉井は徐々に意識を取り戻してきた4人に説明し、無理やり手持ちの金を出させた。
「合計で4万トロンぐらいか。けっこうあるじゃないか」
壊れたテーブルをなんとか立て、その上に4人の持っていた金を置いた吉井は、なんで金持ってるのにラゴに借りようとしたの? と訊こうとしたが無駄なラリーが続きそうなので止めた。
「この壊れたテーブルとイスで大体どらぐらいですかね」
吉井は仕事を中断しカウンターに座ってこちらを見ていたイイマに尋ねる。
「お、おう。それは、そうだな、1万あれば足りるぞ」
「そっか。じゃあ」
吉井は1万トロン硬貨を手に取り、残りを集めて一番近くにいた男に渡す。
「そっちが先に手を出したんだからな。今日はもうこれ以上やり取りないから黙って帰ってくれ。最悪なのが、おれらに手を出したから、とか。次あったら、とかそれだけは言うなよ」
テーブルをもう一度壁にきっちり寄せ、なんとか3本の足で倒れないで済むように形を整えた後、吉井は、「あの、さっきの注文を」イイマに向かって手を挙げた。
「おい。お、お前。おれたちはコミュニティにいるんだ。それ知ってんのか?」
意識がはっきりしてきた別の190cmが言った。
おいおい、物心ついてから初めて、物心つく前は言わないだろうから実質初めて言いそうになったぞ。「やれやれ」って。このボケのせいで。吉井は声を掛けてきた190cmの男を見る。
「そうか、コミュニティねえ。それどういう感じのやつ? すいません。もうちょっと掛かりそうで」
イイマにそう告げて、吉井は4人の前に戻った。
「現役の兵士もいるんだ。あ、ぐ。お前そんなことも知らずにおれたちに?」
その後も太腿を押さえながらコミュニティがいかに強大な組織で、それに手を出すということは、この街で暮らしていくのにどれほど不都合なことか。ということを説明をする別の190cmを無表情で見ながら、吉井は少しずつイライラし始めてきた。
わかった、もういいって。長いわ、説明が。だからおれ言ったのに。そういうのはやめろって。
「うん。大体コミュニティの感じはわかったから、今日はもう帰ってくれ」
話を切り上げて、吉井が再びイイマに注文の件で話をしようとすると、ラゴに最初に絡んだ男が「おい、お前!」と吉井に向かって叫んだ。
「おい、逃げてんじゃねえぞ! さっきは何やったから知らねえけどよ、おれらから金取っていいと思ってんのか? お前なんてな、コミュニティがその気になれば明日からここで生きられないんだぞ!」
ふうう、いや、まあね。吉井はラゴに最初絡んだ男を見た。
いや、だからさっきから何回も言ってるだろ、その流れやめろって! わかった、もういい。決めた。今、決めた。もうどうなっても知らん。お前がそう言うんなら次はコミュニティ壊滅編やるからな!
吉井は再び4人に近づこうとしたとき、いかんいかんと我に返った。今はだめだ。ここで4人を壊滅させてもしょうがないよ。コミュニティを壊滅させないと。そうだ、怒りを抑えるには6秒だと聞いたことがある。息を吸って。そして吐く。はい、吸って、吐く。今何秒だ? そして吐く。もう一回ぐらいやっとくか。吸って、はい、吐く。おし、6秒は経ったぞ。吉井はラゴに最初絡んだ男の目の前に立つ。
「わかったよ、行くわ。お前らのコミュニティに。今日は予定あるから明日の午後でいいか?」
「ぐ、あ。おす、そうやった、やって。来ないつもりか?」
ラゴに最初絡んだ男とは他の男が、同じく太腿を押さえながら言った。
おいおい、やめてくれよ。ふう、吸って。吐く。吸って、吐く。は、え?
吉井が吸って、吐いてを繰り返していると、別の190cmが、「いってえ、くそ!」と近くにあった椅子を放り投げ、壁にぶつかった椅子の足が折れた。
あーあ、だめだ。こいつらと話してても終わらねえな。なんか一周回って普通になったよ。
深呼吸を止めて能力を出した吉井は一瞬で4人を通り過ぎ、店のドアを開けた後、無言で1人づつ外に放り出した。
「お前らのコミュニティの場所だけ教えてくれ。もう今日の夜行く」
「リ、リダッタの丘を過ぎた所だ。なあ、お前何をした」
最初にラゴに絡んだ男は地面から吉井を見上げて言った。
「なんだ丘って? それはここの街の中なのか」
「ギルドの、裏にあるだろ。小さな山が」
はいはい、どんぐりが落ちてない裏山ね。そうか、近いな。吉井は家からのルートをいくつか思い浮かべた。
「その辺に行ったらわかるんだよな? 知らない人が行ってもすぐわかる目立つ看板とかあるのか?」
「え、ああ。広い敷地だ。すぐわかる。だが、もう夜だから、い、今は宿直と他に数人ぐらいしか。おい、さっきおれ達を店から出したのは、お前の……?」
最初にラゴに絡んだ男は、少し後退りしながら答え、いつの間にか残りの3人はさらに後ろまで下がっていた。
おい、逃げてんじゃねえよって言ってたじゃないか。夜間帯のシフトで人少ないんなら今行ってぼこぼこにしても全然壊滅じゃないし。結局明日また行くならやっぱり今日はやめておこう。
「わかった。それなら明日行くから。これで最後だ、もうないからな」
吉井はそう言い残して店内に戻った。




