第26話 大塚/田川
それからチェーン店での仕事前、仕事後に何度かエリアマネージャーから追加の説明を受け、自分なりに研修に行くことと、どこかの国際線の店舗で働くことに対する準備ができたおれは、3月24日の夜、大塚にこれこれこういうことでこういうことになったよ。と近況を送った。
するとすぐに、よくわからないから飲みに行かないか、という内容の返信があり、翌日の夜に最寄り駅にあるいつもの居酒屋で飲むこととが決定した。
「とにかくお前は再来月ぐらいから国際線のとんかつ屋で勤めるんだな」
「短く言えば」
軽い乾杯の後、1杯目を3口で飲み終えたおれは追加のレモンサワーを頼んでタブレットを置いた。
「で、なんでこのタイミングなんだ?」
「タイミングっていうのは大塚にこのことを言うタイミング?」
「そうだ」
鉄板焼き餃子を器用に箸で剥がし、大塚は躊躇なく口に運ぶ。それを見たおれは熱くないのか? という思いと、大塚が大丈夫ならおれも問題ないかという安心感から次は餃子を食べようと決めた。
「おれにとっては大事件なんだけどさ。大塚とかハードな日常を生きている人間からすると、その程度で報告いる? みたいに思われてもなって。でもちょっと寝かしてみても自分的には事件の大きさは変わらなかったから言いたかったっていう」
「就職は誰にとってもでかい。十分飲みに行ってもいいレベルだ。そっか、これで吉井も常時働くようになるんだな。よかったよ、お前なんか、前とは変わったというか、おれに遠慮してたもんな」
でもごめん、疑うわけではないが一応ね。おれは念のため餃子をタレにつけて取り皿に放置することにした。
「そりゃあそうだろ。なんかと言えば金出してもらってたし、アマゾンプライムも現在進行形で使わせてもらってるからな」
「でも何ていうかな、金だけじゃなくてさ。お前も感じてるだろ? 最近おれと2人で飲むの若干気まずいって。実際そうだよ、おれもちょっと気まずい。20代前半の頃とは違う。あの頃はこんなんじゃなかったよな。2時間なんてもんじゃない、おれとお前に時間の制限なんて意識はなかったよ。でも今は違う。だからだろ? 就職が決まったことを言ったら飲むことになるから、一旦保留にして伸ばした」
あーあ、それを言うのか。言っちまうのか。えーっと、食べたのはイカ、マグロ、ハマチだったよな。おれは二人でわけることを意識しつつ、刺身盛り合わせからサーモン取った。
わかっていたけど、言うともっと気まずくなるから言わないようにはしていたが。こいつがここで言うっていうことは。つまり、それは。でも合ってるんだよなあ。いや、しかし。
おれが次の一手を考えていると、レモンサワーを飲み終えた大塚が口を開く。
「でも吉井だけのせいじゃないからな。人との関係性っていうのは木製の歯車みたいなもんでさ。がっちり合っても、いやむしろがっちり合っていればいる程、すり減って離れていく感じがする。だからおれとお前はこれからはさらに合わなくなるよ。それだけは確かだ。だから今後の関係性で見ると、今がこれからの人生で最高に嚙み合ってる瞬間だ。次からは第三者いないと無理じゃないか?」
「それは大塚がそういうことを言うからだって」
「特別が普通になるだけだよ。誰にだってそういう相手はいるだろ。今の普通の関係でもおれは十分だ。おれとお前にはあの頃があったからな。よし、グラス空けろよ。改めて祝おう」
「色々思うところはあるけど、まあいいよ」
おれと大塚はそれぞれレモンサワーを頼み、がつんと重い乾杯をした。
研修場所に行く前日、田川での最後の仕事を感動的なシーンも交えて終えたおれは、帰りに図書館に寄って本を返した後、ふと思いついてスーパーに寄りとんかつを買っていつも通っていた公園に向かった。
午後4時過ぎの公園は賑やかで、遊具周りでは何かしらの端末を持った数人の小学生が、時折大声を出しながら何かしらのゲームを、また自転車の練習をしている両親と子どもが2組おり、それぞれできた、できない、で歓声を上げていた。
最初、田川に電話に出たの息子かどうか聞き忘れたなあ。あと田川さんがどこに住んでるのか。2階じゃないっぽいんだよ。ということはあれかい? 2階はガンダム関係のもので埋め尽くされてるっていうパターンなのかい。
ベンチに座ってとんかつを食べ始めたおれは、とんかつはうまいか? とおれに問う。いや、まあ総菜のとんかつだなっていう。やりたかった公園でとんかつの端を食べるやつだぞ。なんなら端だけでなくて全部あるぞ。そうなんだけどなんか色々状況が違い過ぎてなんとも言えない。30円の別売りのソースは使わないのか? うーん、買ってはみたけど別にいいかなって思って、もう食べ終わるし。そのソースは冷蔵庫の中に入れておくんだろうな。入れといても絶対使わないのに。
わかってるよ、それぐらい。おれはゴミを袋に入れ立ち上がった。




