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泥状のギギルコン「と」  作者: がら がらんどう
とんかつととんかつ
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第25話 エリアマネージャー/フィレ


 年末年始の後は大塚、藤倉さんと関わる機会がなかったので、必然的に誰にも会うことなく、おれは2軒のとんかつ屋で働き続けた。


 3月12日。チェーン店のとんかつ屋の仕事前に呼び出されたおれは、店長から社員登用を勧められ、えー、そんなあ。おれなんかがいいんすかあ、的に一度躊躇するふりを見せたが、単純に自分が認められた気がしてうれしかった。


「じゃあ駄目じゃないんだな」

「検討して返事します。というか店長ってそんな権限が」

「ああ、おれエリアマネージャーなんだ。店長でもあるけどな」


 ほお、エリアマネージャーか。よくわからんけど偉いのか。しかし大塚の会社といい結局あれだな。次長とかでいいな。まあ部長と次長どっちが上かたまにわからなくなるが。


 おれが次長と部長と仰向けとうつ伏せについて考えていると、店長は、やっちまったか? 風の顔になったがすぐに戻った。


「とりあえず先に言っとくよ。段取りとしては、4月から新卒採用向けの研修あるんだよ。きみの場合は中途だけど枠空いてるからさ。一緒に入ってもらうから」


 は? 新卒研修って。あの漫画とかでたまに読む結構きつそうなあれか? おれは呼吸が荒くなるのを感じつつ口を開く。


「それ泊まり込みのやつですか。あと期間どれぐらい」

「そうそう、泊りだな。確か2週間から3週間。きみPC駄目でしょ? ちょうどいいんじゃない。多分それ系も入ってるわ」

「ああ、はい。そう、ですね。で、その後はここに?」

「違うな。多分だけど、これは言うなよ。全国の国際線のとこにちょこちょこうちの店舗あんのよ。中途は割とそこに行く」

「国際線って。空港? 空港で働くんですか?」

「そういうことだな。あ、悪い。おれ他のとこで引継ぎあるから今日は行くわ。また詳しく言う」


 エリアマネージャーは制服の上にパーカーを着て部屋を出た。


 これは要検討だな。でも最近ずっと、ずっとでもないけどグループワークとかマラソンみたいな本当に嫌なことをせず過ごしてたし、それが溜まってこういう形で目の前に。でもなあ、これはなあ。うーん、いやー、きつい。単純に行きたくない。泊りの研修はきついって。1人部屋なのか? おれ相部屋は無理だぞ、本当に。冗談じゃなくみんな引くぞ。観てる人もおもしろくもなんともないからな。というかこんな精神状態で出来るかばかやろう。それに空港で働くって。大体おれは国際線なんて乗ったことないんだよ。あ、田川どうしよう。どっちかと言えばおれは田川で。でも、こういうことね。そうだよな、もう同じ事を繰り返しても。


 おれは着替えながら大体のことを決め通常業務に入った。



 3月17日。おれはとんかつ屋田川の仕事終わりに田川さんを呼び止め、今のチェーン店でフルタイムで働くことになったと告げた。


「いつから?」

 田川さんはカウンターでの作業を止め椅子に座った。


「4月頭からです。ちょっと急なんですけど」

「わかった。今日食べるか?」

「はい、お願いします」

 

 その日の売れ残り具合によって、田川さんはまかないという形でとんかつの定食を出してくれており、いるか? と訊かれた時は毎回いります、と答えていたが田川さんは毎回尋ねてきた。


「今日はフィレにしといてやる」

 田川さんは油に火を入れ、冷蔵庫から瓶ビールを取り出した。


「やるよ、コップは自分で取れ」

「ありがとうございます」


 ビールを受け取ってカウンターの席に置きコップと栓抜きを用意した後、自分用の食器に米と味噌汁をよそい、先にちょっと飲むか、それとも待つかとビールを飲むタイミングに悩んでいると、田川さんは無言でとんかつが乗った皿を差し出し、奥の従業員用の部屋に入った。


 結局なんでもいいな、なんでもいい。瓶ビールの蓋を開け、コップに注ぐ。

 

 一応、もう一回とんかつ屋かとんかつ屋で迷う準備はしてたんだけどな。田川さんがおれのとこ継げよっていうパターン。ただ免許ないから継げないけど。おれは揚げたてのとんかつを一口食べてビールを飲んだ。

 

 柔らかいのう、うまいのう。この柔らかさは得した感じはある。でも田川さんのフィレの言い方というか独特の発音が毎回気になる、言えないんだけど。


 サクサクと柔らかと肉の味の順番を楽しみつつビールを挟んで食事を終えたおれは洗い物を済ませ、従業員用の部屋をノックしドアを開ける。


「ありがとうございます、ごちそうさまでした」

 

 そう礼を言うと、パソコンのモニターを観ていた田川さんは振り返り、おお、明日も頼む、と言いモニターに視線を戻した。今日はこれで終わりだと察したおれは、再度礼を言ってドアを閉めた。

 

 15時半か。店を出ると雨が降っていたが、傘を準備していたおれは当たり前だよこんなの、という感じで折り畳み傘を開き歩き出す。

 

 本当に感謝してる、今日はうれしかったよ。瓶ビールうまかったし、フィレ肉も最高だった。でも一応ね、今日チェーン店休みなんだよ。休みだから言ったんだよ。でもわかってる、それはおれの勝手な補正だ。よし、家に帰ったらガンダムを観よう。何を観たらいいかよくわからないけど。あと瓶ビールも飲もう。おれはそう決めて家の近くのスーパーに向かった。


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