第24話 元日感/2つのとんかつ
翌朝、どちらともなく起き出したおれと藤倉さんは交代で洗面台を使い、昨日と同じ手順で余っていた刺身を手巻きで食べた。
その後、おれが新世界より(中)藤倉さんが新世界より(上)を読んで過ごし、午後3時過ぎにおれはチェーン店のとんかつ屋に行くために準備を始めた。
「元日からとんかつ食べる人いるんですか?」
「2か所とんかつ屋に勤める身としてはとんかつを下げる言動はちょっと」
「あ、すいません。そこは配慮が足りなかったと思います」
素直に謝る藤倉さんに、この人の感覚がわからないと思いながら、帰るときに鍵は掛けなくていいよ。と言っておれは家を出た。
天気は曇り。明らかに車通りが少ない道、多少の静寂という元日感を味わうため、いつもよりゆっくりとした足取りで駅まで向かった。
午後11時前。仕事を終えて家に戻ると鍵が開いており、あれ、まだいる? と、少しうれしい気持ちになったが、開けといていいよと言ったことを思い出して、少し残念な気持ちになりつつも、電気の明かりと人の気配がしたことから、藤倉さんがまだいることがわかった瞬間、おれはまた少しうれしい気持ちになった。
「まだいたんだ」
できるだけフラットに言い、半額で買ってきたかつ丼ととんかつ弁当をカウンターに置く。
「それはそうですよ。わたしのように大晦日に1人でいたくない人は、元日も1人でいたくないですから」
一瞬こちらを見た藤倉さんは視線を読んでいた本に戻す。
「なるほど。そういえば夜って食べた?」
「まだですけど。それなんですか」
「かつ丼ととんかつ弁当。どっちか食べる?」
「食べます。とんかつ弁当を食べます」
藤倉さんは本を置いてソファーから降りた。
おれは立ったまま、藤倉さんは座ってそれぞれ食べ終え、お茶を飲むため電気ケトルに水を入れていると、
「意味はないんですけど、なんで2つ持って帰って来たんですか」
小説を手に取りながら藤倉さんは言った。
「明日の昼の分だよ。余ってたのが二つだったんだ。これを言うのは本当に嫌なんだけど、これは本当のことなんだ」
「へえ。そんな先のことまで考えるんですね」
再び小説を読み始めた藤倉さんに、本当に、これは本当のことだ。という念押しをしたかったが、さすがに言い過ぎもよくないと思ったおれはそのまま会話を終わらせた。
「あ、元日終わったんでそろそろ帰ります」
午前0時過ぎ、藤倉さんは小説を置いて大きく背伸びをした。
「なるほど。そういう考えね」
「え? 何がですか」
「ごめん、いいんだ。藤倉さんは間違ってないよ。一貫してる」
「気付いたんならよかったです。自己完結は大事ですよ」
藤倉さんは帰り支度をはじめ、同時に住所がわからないという理由からおれがアプリでタクシーを呼んだ。
15分後、着いたという連絡が来ると、藤倉さんは来る時は入ったが、帰るときは入りきらなかった荷物をビニール袋に詰めて両手に抱えていたので、さすがに哀れに思ったおれはテレビを持って下まで降り、タクシーに積み込んだ。
「いろいろありがとうございました。あ、さっきの小説は続き気になるんで買います」
「それがいいよ。ここで藤倉さんが買ってくれると図書館の意味もある」
軽く手を振って藤倉さんを見送った後、部屋に戻ったおれはソファーに座り、線香を取り出す。
おお、すげえ。あんだけあったのにこれ最後だ。
おれは火を点けた線香を見ながら、あんなこと言って元日にとんかつ食べてるじゃねえか、と言い忘れたのを後悔した。




