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泥状のギギルコン「と」  作者: がら がらんどう
とんかつととんかつ
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第19話 映画/生きることの意味


 ある程度回り始めた後は、無言で飲み食いするだけとなった歓迎会を2人で行っていると、

「逆襲のシャアでも観るか」

 田川さんが不意にそう言って立ち上がった。

 

 逆襲のシャア? 聞いたことあるな、ガンダムか。でも歓迎会だよ? それはちょっとまた別と言うか。あー、でも好きなもの買って飲ませてもらってるからなあ。その時点で歓迎は終わって親睦会になったと言われれば間違っていない。


「ガンダムですか?」

 自分の取るべき立場を探るためおれは遠慮がちに訊いた。


「そうだ」

 田川さんはレジ付近の机からリモコンを取り出す。

 

 そこにリモコンあったんだな、開けたことなかったよ。で、このモニターを使うのか。おれは壁掛けのモニターを見た。


 ここに来てから1ヶ月ぐらい一度も使ってるの見たことなかったけど。そっかあ、客用じゃなくて自分用だったんだなあ。おれは3本溜まった空き缶をテーブルの端に寄せて並べた。


「ガンダムは知ってるか?」

 田川さんは照明を落としモニターの電源を入れる。


「正直あんまり」

「どれぐらいわかるんだ」


 どれくらい? うーん、そうだな。えーっと。おれは4本目のビールを開けた。


「解熱剤っていうものがあって、飲めば効くのはわかるんですけど、それが何で作られていて、なぜ効くのかはわからないってぐらいは」

 

 あれ順番逆か。何で作られてるのかわからないけど飲めば効くのは知ってる。こっちのほうがわかりやすいよな。おれはそう思ったが訂正するほどのことでもないので、そのままにしておいた。


「よくわからんな。こっちに来い、ここの方が観やすいだろ」

 カウンターの中で椅子に座る田川さんはおれを手招きした。

 

 おれは暗がりの中ビールを持って移動し、椅子を反転させカウンターに背を向ける。


 いや、うん。おれが悪い。順番も悪いけど例え自体も悪かった。っていうかこの人家で映画観るとき電気消すタイプか。

 

 モニターに映像が映し出されたのでおれは画面に集中した。 


 一旦トイレ休憩を挟んで2時間後、画面が消され照明がついてからも、感覚的にはあんぐり口を開けて立ちすくんでいたおれは、実際には座ってポテトチップスのコンソメ味を食べていた。


「どうだ?」

 カウンターにいる田川さんの声におれは振り返る。


 よかったよ。うん、よかった。おれはそう思ったので、

「よかった、です」

 と素直に言った。


 それを聞いた田川さんは満足そうに頷き、片付けはいつも通り。また明日は休みだからいつまでいてもいい、と告げ残ったサントリー角のボトルを持って店から出た。


 なんだろうなあ、この映画。すげえ熱量だ。どんだけ振り切ったらこうなるんだ。何をと言われればわからないけど、何かを激しく伝えたいということは確実に伝わった。おれは端末を手に取る。

 

 1988年か。しかし大丈夫なんだろうか。こんなテンションでやったら次が。ってまあ次が出てるは知ってるんだけど。でもあれか。これがなんていうんだろう、この、えー、プロフェッショナルの日常なのかな。

 

 おれはテーブルに移動して残っていたゴミを片付けた後、丁寧に拭く。

 

 一応ね、知ってるけど一応。手を洗った後、言い訳しながら冷蔵庫を開けた。はい、ビールはもうない。うんうん、知ってたよ。だって6本買って6本飲んだから。奇跡が起きているかと思っただけで。えー、あとはコーラ、さけるチーズ、ファミチキ(普通)とウイスキーか。


 おれは自分がたまに飲むインスタント味噌汁用にストックしておいた紙コップを棚から取り出し、氷を入れる。


 地味にちゃんとのBOSEのスピーカーつけてるんだよな。鳴ってるの初めて見た、いや聴いたけど。おれはモニターのリモコンを操作しながら、この状況を目一杯楽しむ方法を考えた結果、以前教えてもらった大塚のサブスクのアカウントを思い出して、リモコンを操作してログインした。

 

 ありがとう、田川さん。こんな機会をおれに与えてくれて。ありがとう、大塚。おれにサブスクのアカウントを共有してくれて。


 ウイスキーを少し注いで揺らしつつ、おれは大き目のモニターで観たほうが楽しめるであろうと思われる映画を探し始めた。


 翌朝の6時38分。帰るため腰を上げたおれは、これまでにないぐらい念入りに、様々な場所を洗い、拭き、確認のため眺め、また洗い、拭く。そしてこれ以上は人間の目では判断できないところまで到達し、満足したおれは残ったウイスキーのボトルとさけるチーズをレジ袋に入れ店を出た。


 外は思ったより寒さを感じず、おれは気分よく歩き出したが、家に着くころには温かいココアが飲みたいと思うぐらいに身体は冷えていた。

 

 部屋に入ったおれは線香に火を点けた後、そのまま洗面所に向かい、通常より若干適当に歯を磨きシャワーを浴びた。そしてより室内の明るさを求めてカーテンを開けると、朝日が部屋の半分を照らす。


 いいねえ。限界まで眠いときにあえて明るくして寝る感じ。最近出来てなかったから忘れてたけど好きだったなあ。おれは掛布団と毛布を調整して寝る準備を整えた。

 昨日から食べたいものを食べることができ、感動する映画を連続視聴でき、さらにはアルコールまで飲め、暖かい場所で眠れる。足首が毛布から出ていたので、おれは両足を使って調整した。


 こんなことが起こるなら、こんな気持ちになれるのなら、生きることに意味はある。そう思うおれ、そしてそれを見つめるおれ。


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