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泥状のギギルコン「と」  作者: がら がらんどう
とんかつととんかつ
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第18話 歓迎会/夢

 

 田川で勤め始めて1ヶ月が過ぎた12月22日。店が終わって掃除を始めようとしていると、

「歓迎会でもやるか?」

 田川さんが後ろから声を掛けてきた。


 歓迎会かあ、田川さんと2人だもんなあ。絵に新鮮味がないことが少し気になったが、いいですよ、と返すと、今日の夜7時からという想像より早めの開催を通達された。


 おれとしては誘ってくれる気持ちはうれしかったので、もう一度、いいですよ、と気持ち笑顔を浮かべながら言った。


「じゃあ後で。お疲れさん」

 田川さんはほぼ無表情でそう言ってバックヤードに入り、期待と不安を抱えながら掃除を終えたおれは、時間が空いていたので一度家に帰った。



 午後6時52分。引き戸を開けて店に入ると、カウンター内の椅子に座っていた田川さんは立ち上がりながら端末を操作した。


「おお、田川だ。今から行、え、おいおい。さっきは、ああ、そうか。ああ、いいよ。ああ、わかった。いいよ、わかってる。また今度」


 あー、これはあれだ。多分事前にオッケー出てたけど駄目になったやつだ。おれは静かに後ろ手で引き戸を閉め、掃除が甘いとこないかなーっと店内を確認するふりをした。


「行こうと思ってた店が団体入ってたらしい。外は無理だ、うちで飲もう」 


 え、ちょっと待って。1軒駄目だったからいきなりここ? 店なんていくらでも。いくらでもはないけど、なんならすぐそこに大吉が。おれが口を開きかけた瞬間、田川さんが上着を探すしぐさを始めた。


 買いに行くところからか、まあしょうがないといえばしょうがないんだけど。何かあるから家でやるわけじゃないんだなあ。

 

 歓迎会開催の流れに戸惑っていると、田川さんが、行くぞ、と言いながら前を通り過ぎたので、そのままの流れで外に出たおれは鍵を閉め、敷地内にある4台分の駐車スペースに停めていた田川さんの車に乗り込んだ。



 あ、また通り過ぎた。助手席に座り目の前を通り過ぎる居酒屋を眺めていると、田川さんはおもむろにウインカーを出し左手にあったコンビニの駐車場に入った。


 いやいや、え、いやいや。コンビニはコンビニ行くならもっとあった。もっとあったって。


 しかしここまで来てしまったおれはどうすることもできず、田川さんに続き車を降りてコンビニ店内に入った。


「なんでもいいぞ」

 田川さんはそう言って手ぶらでアルコールが置いてある棚に向かう。


 コンビニで食べ物と酒を買って家で飲むのか。そんな贅沢久しぶりだな。おれはカゴを取って田川さんに追いつくと、田川さんはサントリーの角をおれが持っていたカゴに入れた。


「これとファミチキを2つ買っておいてくれ。チーズと普通のを。あとは炭酸水を2、3本とタン」

「たん? TAN?」

「タンだ」


 たん? たん、って。たん? いくつか頭の中で変換し、タンのことだと気づいたおれが、ああ、はい。大丈夫です。と言うと田川さんは財布から現金1万円を取り出しておれに渡し店を出た。


 えー、どうすっかなあ。ある程度空腹状態だったおれはとりあえずアサヒスーパードライの500mlの6缶パックをカゴに入れる。

 

 田川さんどれぐらい飲むのかなあ。このウイスキー1本空ける感じなのか。いやー、でも新人職員の歓迎会で1本はいかないよな。となると、おれもわざわざ買わずとも、ビール飲んだ後は田川さんのウイスキーをちょっと貰うという流れで。あー、この感じ久しぶりだな。もう1回コンビニ行くの嫌だから酒の調整をしとくやつ。それかあれだ、温泉地の旅館で夜腹減って悲しいの嫌だからある程度用意しとかないと不安っていうのでもある。


 おれは迷った結果、アサヒスーパードライを350mlの6缶に変更しトリスウイスキーを1本購入することにした。


 やっぱね店主が角なら従業員はレッドかトリスだ。これはもうしょうがない。別にいいんだ、おれトリス好きだから。おれは片手では多少しんどい重さとなったカゴを抱えレジに並び、目の前の揚げ物類が入った棚を確認した。


 うわー、ファミチキのチーズねえ。普通は2個あるけどチーズがねえ。えー、こういうときどうしたらいいんだ。

 前の会計が終わったので、おれはレジにカゴを置きつつ今後頼まれる可能性も考慮して一応確認することにした。


「あのー、すいません。チーズの、ファミキチのチーズってありますかね」

 

 あー、かんじゃったよ。チキをキチっていっちゃったよ。ないのわかってて訊くからだ。おれは頭の中でチキ、チキ、チキと繰り返す。


「今は、えー、扱ってないですね」

「じゃあ、ええと、ファミチキ3個と、そうですね。ファミチキ3個を。あ、計6個お願いします」

「はい、揚げますので少々お待ちいただけますか?」

「わかりました、大丈夫です」

 そう言っておれは横に避けて待つ。


 チーズってないんだ。いや、そういわれたら数年前、いやもっと前からなかったような気も。そしてチーズが存在しないことに動揺して多めに頼んでしまった。店員が先にカゴの中身を精算しているときに、おれはふと思い出す。


 あ、ああ! あああ! 前から思ってたやつだ! 食べきれない程のコンビニのチキンだ! おい! おおおおい! 叶うぞ! 夢が叶うぞ!


 ちょっと買い足ししたいから離れるね、よろしくね。といったことを店員に告げ、おれはもう一度入口でカゴを取った。


 あとはポテトチップスだ。ここはでかいやつしかない。でもどうだろう。でかいやつ一袋だと食べきれない程か? おれ用にチキン4個はまあまあやばい。これ以上やると怒られる可能性もある。でもポテトチップスならいいよな。よし、もう一袋いこう。まあ2つ選ぶとするならうす塩とコンソメかな。おれは2袋をカゴに入れた後、うすしおを棚に戻す。


 ここはのり塩とコンソメにしよう。うす塩とのり塩。どっちも塩はついてるからのりの分だけお得感がある。あとは、えー、あ、コーラだ。おれはコーラ1.5リットルのペットボトルを取った。


 無駄に高いパスタも気になるんだけどなあ。この機会に食べたい気持ちもあるが、さすがにそれは下品だよ。やっぱり前から考えていたやつを優先しないとって。そうだ、あれだよ。さけるチーズだ。前からさけるチーズをあまりさかずに食べたかったんだよな。


 おれの夢をカゴに詰め込んでう一度レジに戻るとファミチキが用意されており、合わせて支払い終えたおれは、駐車場で待つ田川さんの車に向かった。

 

 店に戻ると、流れるように奥のテーブル席に座った田川さんにつられ、おれも一度座りかけたが、ゲストとは言え従業員だ、そこはわきまえよう。そう思いおれはコップ、氷、取り皿を用意してからビールを2本取り出して、残りとさけるチーズを冷蔵庫に入れた。


「ビール飲みますか」

「ああ、もらう」


 おれは缶のまま、田川さんはコップに入れてビールを飲み始める。


 乾杯はないんだ、歓迎会なのに。おれは一瞬缶ビールを持ち上げかけたが、一度始まった会を戻すほどのことでもないのでそのまま手に持ったビールを飲んだ。


「吉井も買ったのか」

 田川さんはファミチキを取り出し、この辺で切れば食べやすいよ、という線の所を丁寧に切り離す。


「はい。なんか前から食べたくて」

「前から? 食えばいいだろ」

「まあ、そのお金が無くて。すいません、だから今日はちょっと舞い上がってしまったというか、結構買ってしまい。あ、それとチーズはないみたいですね」

「ないのか、じゃあいい。あとおれがいいって言ったんだ。好きなもの食えよ」

「はい、ありがとうございます」


 おれは揚げたてのファミチキを手に取り、包み紙をやぶり食いつく。


 うめえ、うめええ。どう考えてもとんかつのほうがうめえけど、うめえ。

 

 おれは口の中の油をビールで流し、包み紙を少しずらして食べ続ける。

 さっくさくだわ。そしてこのコンビニチキン独特の無駄な油。たまんねえ、とまでは言わないけど、言うわ、たまんねえ。

 

 ビールを1本飲んだ後、田川さんはハイボールに切り替え、おれは2本目のビールを飲みながらファミチキを食べ、3本目のビールを持ってきてのり塩の袋を開けた。


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