第17話 パスワード/ボランティア側の核
ボランティアコーディネーターとの面談当日、17時30分に約束していたおれは17時27分に正面玄関から病院に入った。
外来診療の受付が終了しているため病院内は閑散としており、おれは事前に言われていたので受付を素通りしてコーディネーターが待つ面談室に向かう。
こういう病院の感じは好きだ。前にもこういうことがあったような。まあ、いいや。別にその話は。
面談室の前に着くと、ちょうど部屋から出てきたボランティアコーディネーターと目が合った。
「あ、よかった。一旦部屋に入って今出てきたところです」
ボランティアコーディネーターはドアを開け笑顔で言った。
一旦入って出てきた? なにそれ、どういうこと? まあ、いいや。これも別にいいよ。
おれは多少思うところがあったが促されるまま部屋に入った。
「すいません、わざわざ来ていただいて。ちょっと心配になりまして。急だったというのも」
ボランティアコーディネーターは眼鏡を触りながら言った。
「すいません。仕事が決まったっていうのが理由ではあるんですけど」
「そうですか。確か夜働いてたと。それが昼になったということですか?」
うわー、そうだ。おれなんか適当な仕事を夜やってるって設定にしてたんだった。それを忘れて色々。えー、どうしよう。何をしてることにしたんだっけなあ。
このアカウントのパスワードはなんだっけ状態のおれは、うんうん、と曖昧に頷いた。
「当然ですよ。まずはご自分の時間を優先していただく。その上でじゃないとボランティア活動は成立しませんから」
「すいません。そういうことなので今後の予定も入れないでもらえれば。あと、休止の時って書類とか必要なんでしたっけ」
「必要ですね。用意しています」
「はい、じゃあ」
おれが差し出された紙の空欄に記載していると、
「少し質問いいですか」
コーディネーターはおれが埋めている文字を見ながら言った。
「はい。いいですけど」
「吉井さんのことではなく、あくまで一般論としてんですが。なぜボランティア活動なんてする人がいるんでしょうね。ボランティアで得られるものなんてごく一部で、ほとんどは他で効率よく得られるじゃないですか」
おいおい、このコーディネーターは何を言ってるんだ。おれは手を止めてボランティアコーディネーターの首元あたりを見た。
「人それぞれじゃないですかね。得る得られないの実感というのは」
「吉井さんの活動には本当に感謝しています。ただあなたは、あなたの活動方針はそのごく一部の部分、ボランティア側の核の部分を自ら捨ててしまっているように見えるんです。でもそれはこちら側の核ではないので別に問題はないんですけどね」
「ちなみにボランティア側の核って何なんですかね」
初めて口に出したわ。なんだよ、ボランティア側の核って。というかそちら側の核も意味わからない。それに一般論って言ってるけど、ほぼ名指しっていう。おれは出されたペットボトルのお茶を手に取った。
「不安ですよ。それ以外ありますか」
あーあ、なんか抽象的なの来たな、ちゃんとしたの無いならもういいよ。おれは書き終えた紙をコーディネーターに渡す。
「なんかよくわからないですけど。気が向いたらまたやります」
「そうですね、お願いします。あ、わたしは3月末で部署移動になるので。新しい担当に引継ぎはしておきます」
「ああ、はい。わかりました。じゃあ帰ります」
書類を確認するコーディネーターより先に部屋を出てドアを閉める瞬間、隙間からこちらを向いて笑っているコーディネーターが目に入った。
なにそれ、怖いんだけど……。おれは早足で正面玄関に向かった。




