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泥状のギギルコン「と」  作者: がら がらんどう
とんかつととんかつ
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第13話 襟/求められている感じ

 

 11月18日の午後。おれはとんかつ屋の面接に来ていく服を買いに行くことを決め、自分なりに調べた結果やはり襟付きの服がいいのではないか、という結論に達し自転車に乗って国道沿いにある量販店に向かった。


 服なんて買うのはいつ以来だ? 店に入ったおれは高揚感で気持ちふらつきながら店内を歩く。


 ええと、襟付きの服ってことは、あれだな。襟が付いているということだよな。おれは服の襟に注目して探し周り15分経過した後、一旦落ち着くために店外に出てベンチに座った。


 しかしあれだな。今まで注目したことなかったけど思ったより服に襟ってないんだな。あ、そうか。仮に世間に流通する服の8割に襟が付いていたとすると、わざわざ選ぶというか特別感がでないか。飛行機のエコノミーが2割しかないみたいな。

 しかし、ちょっと待てよ。むしろ大量に流通していたとしたら、それを着ていないという様子のおかしい人間を振るい落とすという考えもある。今回のとんかつ屋面接のケースとしては、うーん、でもなあ。大体にして揚げ物に襟がいるかっていう話も。だって店員着てないもん。一般的、いや一般的っていうのはよくないな。でも思い浮かばないからいいや。一般的な会社の面接ならスーツで来いっていうのも多少意味はあるよ。だってスーツ着るもん。その点から面接でもスーツという確認作業をしたいという気持ちはわからないでもない。

 あ、そうだ。そもそもおれが襟付きの服が好きだったらいいんだよ。そうしたらわざわざ襟付きを選んで失敗した感もないし、襟付きの服が好ましいという話もいける。よし、そうしよう。


 そして想定される様々な意見を集約し、多数派の意見である白っぽいシャツ一枚を2千円弱(正確には1,980円)で購入した。


 家に帰ったおれはさっそく白っぽいシャツを着てみた。しかし下がスエット素材のジャージ風だったので雰囲気が出ず、黒に近い色合いのデニム地と取り換え、洗面台の前に立った。


 あーあ、出たよ。またこれだよ。おれは心の底からうんざりしながらシャツの袖を掴む。


 シャツを入れる入れないのやつ。ほんとたまにというか忘れた頃に来るよな、これ。もういいって、飽きてるんだよ。本人も見ている人もシャツ入れる入れないとラップが取れなくなるの。で、どうしたらいいんだよ。おれベルトも持ってないぞ。ただシリアス度は低いけどさ。明日朝一で面接じゃないし、大体にしてベルトない状態で面接落ちるときはベルトしてても落ちるし。


 一旦シャツの問題は置いておくことにし、求人情報を調べるため端末を手に取りソファーに座る。


「とんかつ屋」「天ぷら屋」「天丼屋」か。しかしどれに対しても等しくフラットな気持ちだよ。食べる側としては全部好きだ。こういうのはあれだな、優先順位を決めよう。それで選べばいいさ。おれは自分が働くことを想像する。


 まず圧倒的優先事項は、家から近いこと。改めて考えてみてもぶっちぎりだな。やっぱりねえ、近いのがいいのよ。近くに引っ越すという手もあるが金と手間を考えると、こっちが寄らないといけない。


 もう一つぐらいあってもいいな。そしてなんか落ち着かない。おれはシャツを脱いでハンガーに掛けクローゼットにしまった。


 よし、じゃあ「より求めれれているところ」言い換えれば「困ってるっぽいところ」これで選ぼう。やっぱりね、ちょっとボランティアに引っ張られてる感はあるけど、せっかく働くんだから人の役に立ちたいね。わかる、わかるんだよ。働く理由を他人に預けてどうすんだっていうのは。実際しょうもないし、そんな主体性のないやつは大成せんよ。ただまあ今回のケースとしては、とりあえず人が欲しいという場所に、とりあえず働くというおれが行く。そういう状況が作り出した回だからね。話が進んで次の回に入ったら変わるかもしれない。とりあえず申し訳ないけどここから始めさせてくれ。


 慎重に探すこと1時間、おれは家から2駅の場所にあるとんかつ屋を第一候補にすることとした。


 店名だけで考えると「とんかつ姉妹」という店がかなり気になったが、乗り換え込みで50分という距離がおれを冷静にさせる。

 普通に考えて、だからなんやねん。で終わっていいと思う。無理して行く程の事ではないよ。


 午後4時過ぎになり、とんかつの素人から見ても電話するにはちょうどいい気がしたので、おれは感情の赴くままに端末を操作し第一候補の「とんかつや田川」に電話した。


 2回半のコールの後、若い男性の声で、とんかつ一筋の田川だけど何か用ある? という内容を丁寧な言葉で発せられた。


「求人の応募なんですけど」

「あ、そうなんですね。ありがとうございます。担当に取り次ぐので少々お待ちください」


 若い男性のうれしそうな声に、これは求められている、少なくとも一人には求められている。おれは出だしにかなり満足した。


「代わりました。田川です。それでいつから出れる?」

「ええ、ああ。そう、ですね」

 

 おお、田川さん。ということは店主ないしオーナー的存在か。しかしいつからって。面接は? おれは激しく戸惑いながらも、


「とりあえず明日いけます。以降は今勤めているところと調整が」


 ボランティアは勤めているところじゃないだろう。おれは自分の言ったことに反論しながらも、もう取り返しがつかないとの思いから、その気持ちを押し込めた。


「なるほど。じゃあ明日朝10時に店に。詳しい説明はその時にするから名前だけ」

「はい、吉井です。では明日伺いますので。失礼します」


 通話を終了したおれは大げさに言うなら人生で初めて放心状態を数分経験した後、ふと藤倉さんの5千円のことを思い出し、夕日を背に端末のモニターに触れた。


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