第5話 アメフトバー/ピザ
リーダーが全部悪い会からおよそ2週間後。寝坊のため公園を午後に振り替えたおれは夜寄りの夕方に帰宅。靴を脱ぎながら玄関に置いていた端末を確認すると、12分前に大塚からの通知があった。
近くのパン屋の横で飲んでるから今から来ないか? この前の礼もあるし奢るよ。とあり、どこの近くにあるパン屋なんだよ。と思いながらもビールが飲みたい気持ちから、わかった、どこのパン屋かだけ教えてくれ。そう返信した後、そのまま外に出た。
およそ20分後、おれは大塚の言うパン屋横の飲み屋に到着した。
その場所はおれが住んでいるマンションの最寄り駅付近にあり、よくサンドイッチを1つ買って、あー、こんなんあるんだなあ。という演技をしながらレジ横にあるパンの耳を持ち帰っているサンドイッチ屋の隣で、気分的にも空間的にも開放されている店舗前は歩道までテーブルが並び、そのすべてを人が囲んでいた。
これ半分歩道に入っちゃってるよなあ。いや、出ちゃってるよなあ。店舗の敷地との境界線を確かめていると、店内にいた大塚と目が合い、おれは軽く手を振りながら店舗に入った。
「横の店はパン屋じゃなくてサンドイッチ屋だけどな」
カウンター席とテーブル4台(椅子なし)の空間は明らかにキャパをオーバーしているように思われ、一番奥のテーブルに着いたおれは壁に背中を預けて自分のスペースを確保した。
「どっちでもいいだろうよ。ビール頼んどいた」
「ああ、ありがとう。あ、すいません」
おれはミックスナッツをつまみながら、店員がぎりぎりまで片手を伸ばしておれに渡そうとしているビールを受け取る。
「そんで大塚はなんでここに来てんの」
「この前、藤倉さんっていただろ。お前のとこの路線沿いに住んでる人」
「あー、はいはい。いたいた」
4人中3番目の関心度の女性、というか潔癖の人ね。その呼び名は口に出さずおれはビールを一口飲んだ。
「ここアメフトバーなんだけど。前から藤倉さん気になってたんだって。家はこの駅の隣らしくて。んで、おれもお前を誘って飲む話をしてたから、じゃあ近場だしここで全部まとめようってなったんだわ」
「全部まとめてね。いいんじゃない、効率的で。しかしアメフトバーって。おれ何回かラグビーとの違い説明してもらってるけど覚えてないぞ」
「知ってる。大学の時同じ説明受けたこともあったしな」
大塚はハイボールと思われる液体を飲みながら言った。
アメフトバーねえ。改めて周りを確認すると確かにカウンターの中にある比較的大きなモニターではアメフトと思われる試合が流れているし、実況と思われるバカでかい外国語の音声もスピーカーから聞こえる。ビールサーバーの横にあの不安定なボールもあった。ただこれでアメフトバーなら何でもありだろ。おれがすぐに実現可能な~バーをいくつか考えていると、いつの間にか藤倉さんが隣でビールを持ってモニターを観ていた。
「ああ、この前はどうも。あ、すいません」
またしても限界まで腕を伸ばした店員からピザを受けったおれは、テーブルに置くことを諦め手に持ったまま藤倉さんに軽く会釈をした。
「アメフトってなんか面白そうですよね。ルールわからないですけど」
藤倉さんはおれとは違う細長いグラスに入ったビールを飲んでいる。
「そうですねえ。まあこういうのはルール、ルールと縛られずに観てればいいと。おれと大塚も知らないし」
ピザはかなり小さめで3等分にすることも考えたが、このスペースで上手く切る自信がなかったおれは半分に切ろうとするも、ピザか器具のどちらか、または両方のせいでまったく切れる様子がなく、おれは仕方なく1枚を強引に手でちぎって端から食べた。
その後、大塚がもう一枚ピザを頼んだが同じように切れず、一旦おれに飲んでいたハイボールを渡し、狭い机の上でピザと格闘した結果あきらめ、半分にちぎって食べた。
当然藤倉さんはおれと大塚がちぎった残りに手を付けられず、さらにもう一枚大塚が頼んだ。そして藤倉さんもビールをおれに渡して、おれと大塚と同じ流れでちぎろうとしてたところで、全員の目が合い、テイクアウト用の紙箱に半分のピザ2枚と、ちぎれかけのを1枚入れて店を出た。
さすがにこれじゃあ。ということで大塚の提案により駅前にある国民の8割が知っている居酒屋チェーンの店に入り、個室に案内された瞬間、藤倉さんは自分の非を詫び、合わせて大塚も自分の配慮のなさもあったと頭を下げる。
おれはそれぞれに、うん、気にするな、いいよ、気になくて、となだめ、そして頼んだアルコールが運ばれ形式上の乾杯をした瞬間から、アメフトバーに対する罵詈雑言が乱れ飛び始めた。
途中、三人の納得できないポイントをまとめると、
おれ)ピザ、店員の渡し方、中継の音量、帽子、店名
大塚)ピザ、そもそもアメフトバーをやろうと思った気持ち、店員の帽子のかぶり方、中継の音量、店員少なすぎ
藤倉)ピザ、予約の意味、モニターに移す試合予定が英語、中継の音量、カウンターの客と店員の会話
このような結果となり、やはり全員がピザにぶち切れていることがわかった。その後はそれぞれのポイントの検証に1時間程度話し、飲み放題が終了するという連絡が入った後も、このくらいにしといたる、もうええわ。でもやっぱりあれはないって、と再びヒートアップして30分経過。そして大塚の「今日はむしろ有意義だった気がする」という感想におれと藤倉さんが同意してその場は終了した。
3人で店を出て、大塚は駅に、おれは紙箱に入ったピザを持って逆方向の自分のマンションに足を向ける。午後22時12分。
「あの、ちょっと途中までいいですか?」
一瞬取り残されそうになった藤倉さんは、そう言っておれの横に立った。
「わたしの家この次の駅なんですけど、こっち寄りの場所なんです。だからこの位置だったら歩いたほうが近いので」
「ああ、そうなんですね」
ああ、そうなんだ。おれは思ったままを言い、歩き始めた。
「でも吉井さんとわたしの共通項ってアメフトバーと潔癖、きれい好き関連しかないですよね。もちますかね、会話」
「もう少しあるかもしれないけど、今ぱっと思いつくのはそれだけかなあ。あともつかもたないかは話題そのものではなく、それを話す側の問題かと」
これは話題がないのが話題で通す流れか。まあいいや、それはそれで。おれと藤倉さんは線路横道路の歩道を進んだ。




