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泥状のギギルコン「と」  作者: がら がらんどう
とんかつととんかつ
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第4話 公園/月がきれいな夜


 翌日、10月27日。午前7時に起床したおれはアプリのログインボーナスを受け取ってサッカー漫画の続きを一瞬で読み終えたあと、ダイニングのカウンターに置いてある電気ケトルに水を入れてスイッチを押し、クイックルワイパーにワックス付きのシートを巻き付けた所で沸騰。


 沸かしたお湯を一旦無視して、1DKの隅々までクイックルワイパーを滑らせた後、再度電気ケトルのスイッチを押し、十数秒後、沸騰。

 そしてお茶という大きな括りではお茶だが、細かく言うとティーバックの緑茶をカップで飲んだ。


 今日は公園なんだよなあ。雨降らないかなあ。2杯目のお茶を飲みながらおれはこれからの天気を確認した。


 退職した際、以前から気になっていたボランティアをある程度まとまった時間やってみたいという気持ちから年間100日活動することを決めたが、それだけだと時間を余しそうだったのでおれは週1回は図書館と公園に行くことも合わせて決定していた。

 ボランティアはボランティアに行く。図書館は図書館で本を借りる。公園は朝に出て午前中公園のベンチに座る。一見どれもシンプルに感じるが、公園は途中から端末の持参を禁止したことによりかなり外れ枠となった。理由としては結局座ってモニターで漫画か小説を読むだけで新鮮味が感じられなかったためで、それにより公園の日はいつも雨を待ち望んでいた。


 だめだ、これは降らない。何度確認しても天気は曇りだったため、諦めて外に出た。そして5分後、野球場併設、遊具少な目、敷地広めの公園ベンチに座るおれ。

 時間は恐らく午前10時頃。近隣の保育園の園児たちが走り回っている様子を見ながら、缶コーヒーの空き缶を手に取り、そして静かに置いた。


 この行為は一応形として、コンビニで何かを買って立ち寄っただけだよ、ということを周囲に知らしめるためで、サンドイッチかおにぎりが入っていると思わせる袋も常に横に置いている。中身は風で飛ばさられることを防止するための重しとしてのペットボトル(水入り)だ。

 当初は特に飲みたくもない缶コーヒーや野菜ジュースを買っていたが、日割として一日に使える食費が232円のおれに毎回缶コーヒー、ましてやサンドイッチを購入する余裕はなく、4回目から缶コーヒーの空き缶を使いまわしている。

 当然、ある一定の期間が来ると新しいものに変えているが、その度おれは身がちぎれそうな程つらい思いをしていた。自分なりに年収等から想像すると同年代、アラウンド30で勤めている人間の5倍から10倍のダメージを負っている。誰だって缶コーヒーに1,000円出すのはつらいはずだ。

 

 また端末を家に置いてきているため、午前中、つまり12時までは公園で過ごす取り決めは毎回感覚によって前後していたが、それに関してはある程度緩めの判定を認めることにしている。

 ただおれは単純に時間のずれを放置しているわけではない。一応自分としての基準があり、それはおれの思考が奥に入っていられる時間を目安にするというもので、ぐっと入る、入ったな、と感じた場合は大体30分ぐらいが経過していた。ただ、ぐっと入るまでの時間や、入れる回数が体調や天候に大きく左右されれるため、毎回30分から45分程度のずれはあった。


 よし、こんなもんか。自分なりに3時間が経過したと感じたので公園のベンチから腰を上げる。

 変わらず天気は曇り。片側一車線の道路の歩道上を歩くおれは、出来るだけ季節を感じて生きるという取り決めに従い、秋を探しながら帰り道を歩いた。


 部屋に戻ったおれは、大量に冷凍しているパンの耳をバターで炒めてカリカリにし、砂糖を適度にまぶして自分なりのラスクを作る。そしてそれを水道水と共にゆっくりと食べ、残った半分は夕食分に回すことにした。


 一瞬窓を開けて空気の入れ替えをしてからソファーに横になろうとしたおれは、今日の滞在時間の確認を忘れていることを思い出す。

 ええ、っと。今が13時37分。戻って来てからラスクを作り食べたことを考えると、すげえいい時間だったんじゃないか、今日は。おれは今日の記録を3時間7分とし、記憶に留めた。

 以前は公園の滞在時間をメモしていた時期があったが、あほがあほなことをするのはいい。あほだから。ただあほがあほなことを記録するのはあほだ。そのことに気付いてから公園の滞在時間はその日限りのものとしていた。


 その後は図書館で借りてきた本を読み、端末の漫画アプリで期間限定の無料掲載漫画を読み、また図書館の本を読み、水道水を飲み、別の漫画アプリで期間限定の無料掲載漫画を読み、ラスクを食べ、図書館の本を読んでいたら午後10時を過ぎていたのでおれは就寝の準備を始めた。

 通常は端末の明かりで無料のウェブ小説を読む時間ではあったが、昨日のことが、直接的には、4人中3番目の関心度の女性に対しおれは何か言いたいことがあるような気がし始めてきた。しかしおれのようなものが半ば公共のものを思われる回線を使用して無駄なことを、と少し躊躇していると、おれは反論を始めた。

 

 うん、それはわかるよ。でも対人関係においてそれを言い出したら何もできんよ。例えばね、交際相手に関してだ。年収500万円以下お断りっていう人もいるだろう。商品を直接見て買う派の人に対し、は? その移動時間とか他に使う人がいいんですけど。という人もいるだろう。それらは何ら悪いことではない。でも初見でその辺を全部把握できない場合もあるじゃない。だからそこはお互い様っていうか、ああ、形式上はね。おれ側に何も言う権利はないけど、そのすり合わせまでの時間はねえ、何か金を払って登録していないかぎりは、って。全然掛かってないし、上手いことも言えてない。もう連絡を取ったことにするか。


 おれはリアリティを出すため端末に触りつつ、4人中3番目の関心度の女性に「昨日はどうもどうも。そういえば掃除機での床掃除って埃をまき散らしてる気がしませんか」と送る体にしようとしたが、若干失礼に当たる気がして、「掃除機での床掃除の利点ってなにかありますか?」に変更した。

 そうすると向こうの返事は「クイックルワイパーって何を使ってますか?」という質問に質問で返されたと想定。おれは「クイックルワイパーに関してはものはあまり関係ない、巻き付けるやつも含め。結局大事なのは頻度だ」そう自分の人生経験を踏まえた返しで反応。「ありがとう、ためになった」という4人中3番目の関心度の女性からの感想で終了する未来が見えた。


 よしよし。カルビーポテトチップスと家でジャガイモを切って作ったポテトチップスぐらいの差はありそうだけど、ってジャガイモとか素材の問題じゃねえよ、0と1の差だろうがよ。という所で終わりでいいか? 本当にいいのか? 落ちてるか? まあいいや、落ちてなくても落ちたことにしよう。


 区切りがいいのでこの話題は止め、おれは無料のウェブ小説を読むことにした。

 

 月がきれいな夜ではあった。


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