第3話 リーダーが全部悪い会/4人中3番目の関心度
19時過ぎに「リーダーが全部悪い会」が始まった当初は、チーフ横のこいつ誰? というか、なにこの時間? という雰囲が大塚の会社の女性4人から溢れていたが、窓周りの商材を扱う会社に勤めていたおれの「こんな窓にはこれが合う」という仕事での実体験を交えた話に4人中2人が興味を持ち、その後も所々で会話がかみ合いだすと、大塚とおれが旧知の仲だということも作用し、やり取りがどんどん流れ始めた。
それからは誰かが胸でトラップしたボールを、おれがバットでかち上げ、大塚もしくは他の誰かがダイレクトで掴んでダンク、次は大塚が打ち上げたライトフライを、混合ダブルスのおれと大塚の会社の人でスマッシュする等、よくわからない状況ではあったが場は盛り上がり、1時間20分が経過した時点で、2軒目に行くことが決定した。
多分2軒目はないだろうと思っていた大塚は慌てて入れる店を探し始め、全員一致している意見としては「とにかく歩きたくない」ということだったので、ビルを出て徒歩一分の炉端焼きを売りにしている居酒屋に決定した。
店を出た後、4人の内1人が場所を知っているようで、おれと大塚は4人の後を歩く。
まだ先程の盛り上がりの余韻が残っていたおれは、自己評価低めな奴を演出するため、
「さっきは最低限の役割を果たせてよかったよ」
と、自分としてはかなり控え目に言った。
「ああ、最初はどうなることかと思ったけどな。助かった」
大塚は端末を触りながら答える。
え、嘘でしょ。あれで? え、あれだぞ。あの時間だぞ。何か薄いっていうか。もうちょっとこう、あってもいいだろ。どう考えてもあれは特別な時間だったはずだ。おれとしては水がよかったのか? それとも土地の持つ力? とスピリチュアルな方面も考えるぐらい。
おれは落ち着くため端末を取り出して漫画アプリのログインボーナスをもらいながら一呼吸置き、
「なあ、今日結構会話回ってたよな?」
確認と見せかけ、同意を求めた。
「割とよかったよ。正直、2軒目に行くとは思わなかった」
やっぱりそうか。そうなのか。おれは大塚に気付かれないようゆっくり深呼吸をした。
あれが割とよかったで済まされるって。嘘だろ、こいつどんな世界で生きてるんだ。
その後、訪れた2軒目ではショックの余り食べる気になれず、おれはハイボールをちびちびと飲みながらラーメンとサラダが混ざった物をつまみ、時折笑顔で輪に加わる程度の人となった。当然おれが置き物状態となっても場は盛り上がり、多数が使っているアプリのアカウント確認を経て2軒目は終了した。
帰り道、23時7分。解散の具合により、おれに対しての関心度が4人中3番目ぐらいだった大塚の同僚の女性と駅まで歩くこととなったが、落ち込んでいたおれはとりあえず近くのコンビニに入ったタイミングで別れるというやり方を考えていた。
しかし一つ目のコンビニの前で、すいません、コンビニ寄って行くんで。と言おうとした瞬間、ふざけるんじゃねえ、ばかやろう。何をやってるんだ、ばかやろう。おれは叱咤激励を込めて自分自身に活を入れた。
何人か声掛けたけど全員都合悪かったからおれを誘った。大塚はそう言っていた。そして、数合わせとしか言いようがない、とも。でもな、それでもおれを呼んでくれたんだ。金も払ってくれた。それには誠実な態度で報いないと駄目だろう。あ、3番目の人はいいよ。コンビニ使って、じゃあこここで、のやつ。それは言っていい。だっておれ向こうの都合知らないし。おれがいいのかって言ってるんだよ。ああ、そうだよ。許されるわけがない。
「あの、さっき話してた潔癖症になりかけって、どの辺、どの辺というか、いつぐらいから?」
おれは相手の肩に視線を合わせて言った。
「あ、その話ですか」
うーん、そうですねえ。そう言いながら4人中3番目の関心度だった人は軽く首を傾ける。
「大体4年前ぐらいからですね」
そんな長い期間なりかけってどういう……。おれは最初の二、三言だけを考えた後、口を開く。
「何かきっかけがあったんですか?」
「きっかけ、きっかけっていうか。気付いた感じです」
「きっかけではなく気付いた。いいですね、何か始まりそうな感じが」
「そんな大げさものじゃないんですけど、なんていうか高校生の頃家に不審者が入ったんですよ。どろどろの不審者だったみたいで、家中がどろどろになりました。洗面所とかひどかったんです。清掃業者入れるかどうかのぎりぎりのところで。あ、結果的にはぎりぎり入れなかったんですけど。それ以来、あれ? 家の中ってきれいに見えても結構汚れてるって気付いたというか」
それはきっかけだろう。おれはそう思ったが多少興味深い流れになってきたので、それは大変でしたね、と繋ぐ。
「あ、でもわたしの服が盗られてたぐらいで特に」
「それは気持ち悪いなあ。えっと、ちなみにその不審者は捕まった?」
4人中3番目の関心度だった人は首を横に振った。
「一応警察にも通報はしたんですけど、正直優先度低そうな感じは見て取れましたし、まあしょうがないかなって。それにそれから何もないです。わたしが潔癖になりかけ続けてるだけで」
「なるほど」
なりかけ続けている、という言葉に違和感を覚えたが、おれはとりあえずそのままにしておいた。
「ほんと面倒なんですよ。わたし特に床が苦手で。友達の家とか行くとき常にティッシュを足の裏に貼り付けてますし。こう、さっさっと」
4人中3番目の関心度だった人は左右の掌を軽く交差させる。
「来客用のスリッパとかは?」
「えっと、そもそも人の家のスリッパ履けないですから」
4人中3番目の関心度だった人は笑いながら言った。
もうちょっとなら引っ張れそうか? おれは駅構内までの数十メートルならまだこの話題は持つと判断し、潔癖の話題を続けることを決めた。
「あー、でもおれ家の床きれいですよ」
「きれいってどのぐらいですか?」
4人中3番目の関心度だった人は、2番目になりそうなぐらいの関心を示した。
「まあ日にもよるけど、多い時で午前、午後各1回、夜1回やりますね。クイックルワイパー的なのを」
「掃除機は?」
「個人的な嗜好としては、床に関しては濡れたものか乾いたもので拭きたいかな。でもきっかけといえばおれもちょっと」
あ、改札だ。おれは端末を取り出すのをもたつくふりをしながら、じゃあ、また。ともたついていない手を振った。
2番目になりそうな人は「あ、はい」と軽く手を振りながら「そっちも大変ですね」と笑い、それにつられたおれも笑い、結果二人で笑いながらその場は終了。それぞれ別の方向に向かった。
どう考えてもそっち方がしんどそうだけどな。おれは混雑する週末の構内に自分を馴染ませながら思った。




