表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泥状のギギルコン「と」  作者: がら がらんどう
吉井とみきとみきと吉井
141/168

最終話 シャウエッセンでよかった


 川辺はアウトドア的手法で使用された後が色濃く残っており、吉井は少しがっかりしたが、落ち着いてキャンプをやりたいくせに人の手が入った所は嫌、という自分の考えを否定することこそ素人である、と考え直し、がっかりしたことを隠しながら設営を始めた。


 やるべきことが終わりホームセンターで購入した折り畳み式の椅子に座って、川の流れを見ていた吉井は、キャンプ用品を梱包していたゴミとほぼ同化している新聞紙に包まれた銃が目に入った。

 

 あー、はいはい。銃ね。とりあえず切っとくか。しかし、銃身を短くして撃ったら大変なことになる、ということを何かで読んだことを唐突に思い出した。うーん、でもまあ仮に大変なことになっても別にいいか。それはそれで。

 

 状況的に問題ないと判断した吉井は、新聞紙を剥がし銃を取り出して口に咥え、右手が届く場所に印をつけた後、銃身をのこぎり状のもので切った。

 

 おおー、いいね。久しぶりに会った人がちょっと痩せてたみたいな感じがする。確認のため再度口に咥えて引き金に指を掛けた後、出来上がりに満足した吉井はクーラーボックスからビールを取り出し、その辺にあったちょうどいい石に銃を立て掛けた。



 着火剤を多用して炭に火が入る頃には完全に日が暮れ、吉井は思いついた順で適当に網に肉を乗せて焼ける様子を見守りつつ、総菜コーナーにあった白飯をホームセンターで購入した底が深めのプラ容器に移し、卵かけご飯にして食べた。そして卵かけご飯の間に同じスーパーで買った握りずしを2、3貫つまんでいると肉が焼け始め、一気に慌ただしくなる。


 暗くてよくわからねえ。吉井は箸を置いて簡易的な背もたれの無い椅子を近づけた。


 あとねえ、これはねえ。言い訳でしかないけど、現状キャンプをして愉快かそうでないかと言われれば、プラスマイナスでゼロだ。きれいにゼロ。絶対行きたくない、キャンプやるぐらいだったら家で普通に食事したほうががうまい、とまでは思わん。炭でダイレクトに焼く楽しみもあるしな。だが現状マイナスはある。単純に火と雰囲気のみを楽しむだけならおれは勝って終われたんだけど。


 吉井は半分程度残っている寿司を視界から外す。


 これなんだよ。一回これやってみて欲しい。暗がりで寿司を食ってもうまくない。何がなにやらいまいちわからん状態だ。ごめん、それは言い過ぎた。大体何かはわかっているけど。知らなかったなあ、寿司ってアウトドアには向いてないんだなあ。いなりとか太巻きならよかったんだろうけど、握りはなあ。醤油の危険が常に付きまとうし。ああ、当然寿司はまったく悪くない。悪いのはおれだ。


 肉、卵かけご飯、寿司を順番に食べながらビールを4本程度飲んだところである程度満足した吉井は、一旦現時点で出たゴミを袋に入れて片付け、ウイスキーのボトルと氷を取り出した。


 いいころ合いだ。よし、いいか。酒を。吉井はウイスキー(トリスクラシック)をコップに入れる。


 うーん、単純に小さい頃から好きだったから思い出枠として卵かけご飯を入れたけど、特に盛り上がることはなかったな。いい経験になったよ、卵かけご飯は記憶を呼び起こすことはない、次はもうないがな。そして、こういう時にいい酒っていうのは意味がないよ。いつも飲んでるやつがいい。これはねえ、ラカでもこっちでも一緒だ。


 吉井はウイスキーを一口飲み、喉を通り抜けていく感触を味わう。


 うん、安いのも高いのもこのぐっと熱くなる感じは変わらん。いや、変わるかもしれんがおれにはわからん。あとは曲だな、思い出の曲。大体にしてこの状況で必要なの? という話もあるが。迷ったよ、最後に聴く曲。で、迷った結果、ボブディランの「風に吹かれて」と荒井由実の「やさしさに包まれたなら」になるという。

 やっぱりね、今は奇抜なのは必要じゃない。でもなあ、これがいいって思うならこんなことすんなよ、何も伝わってねえじゃねえか。そういうことじゃねえよ。という2人の、ボブと由美の、気持ちはひしひしと感じる。そこは申し訳ない。

 でもこうなってしまったからなあ、もうしょうがないよなあ。吉井は気持ち焚火から離して置いているちょうどいい石と、そこに立て掛けている猟銃を見た。


 いくぞ、あれを手に取る、咥える、撃つだ。3つの工程しかない。てかいいの、おれ? 本当にいいの? みきの言ってたジョージの話に全乗っかりだ。本当にいいのか? だってジョージだぞ。あのジョージの話を信じるんだぞ。


 吉井は溶けた小さな氷と共にウイスキーを飲み干す。


 わかってるよ。ジョージジョージ言ってるけど、さすがにおれはジョージの話は信じてはいない。おれのことだからおれはわかる。単純に嫌になったんだよ、1人は。できるよ、偽おれを殺して入れ替わればいいだけだ。つええもあるしなんとでもなるだろう。現金を集めておいてから、適当に投資で溜まった金にしておいて誤魔化せば不都合は、いや、不都合はあるけど、ぎりぎりなんとかなる範囲だ。でもな、本当のことをずっと言えないというか、正直な気持ちを誰とも共有できない生活はしんどいよ。だって現時点でかなりしんどい、たった2、3日だぞ。


 ごめん、ちょっと嘘をついた。氷を追加した吉井は、雰囲気としてコップを揺らしながら自分を否定した。


 ジョージの話は信じてはいない。それはそうだが、信じてはいないが望んでいる。えー、具体的に言うとおれは戻りたい。ラカ……、ラカなんとかに戻りたい。だから、みきの言うわけのわからん、人殺しが死んだらあっちの世界に行く、っていうのに乗っかりたいんだよ。一応みきは岡村隆史の隆を殺した。判定は微妙だがあいつがやったことが直接の死因だ。だからジョージ理論が正解ならあいつは戻ってるかもしれない。あー、いいよ、もう。いい、結局ね。


 吉井は雰囲気として揺らしていたコップに口をつける。


 楽しかったんだよ。どんぐりとか、なんだっけ、そうだ。イイマ食堂とか。新しい所に住んだり、ギルドに登録したりさ。金はなかったけどそれはそれで面白かった。またあれやりたいんだよ。おれの人生であんなに刺激的なことはなかった。まあこっちに来ても刺激的だったけど、ある程度予想の範囲内っていうか。おれの知っている世界だし。みきのメモに書いてあったこと。くだらねえよ、完全にくだらねえ。でも面白そうなんだよ。やりたいんだよ。無理は承知でラカでお中元を流行らしたいんだよ。なんならそろばん教室開きたいんだよ。それが得るための過程でならおれは死んだところで別に、別にっていうか諦めるよ。

 だってこれからってところだぞ。サエランだって、はは、地名は怪しいがあの子のことは名前だけでなく巨乳だということもちゃんと覚えてる。だってあの子よかったもん。言ってしまえばちょっと好きだったぐらいの。あの後はサエランが仲間になって進んでいくはずだったんだ。で、まあ死ぬほど嫌いな展開だけど、みきと3人でこう、ね。いわゆる3人のあれがさ。そういうのもあったはずなんだよ。ごめん、死ぬほど嫌いは言いすぎだ。やり方によっては好きだし、自分の身に起こったらそれはそれで納得して受け入れるよ、おれは。

 大体ね、想像してみろ。こっちでね、さらに金使って3億ぐらいのマンションに住んで16万とは言わず50万ぐらいの性的サービスを連日受けて、どこいっても全部乗せで食う生活。そんなものは、うーん、まあ悪くはないよ。でも、そうだな。1回やってみるっていう手も。それで、うん。案外楽しいような気もする。そんな気もしてきた。いや、むしろ楽しそうだな、楽しいんじゃないかな。楽しいのであればわざわざ死ぬ危険を、っていうか多分死ぬだけだし。


 トングを手に取った吉井は網の上のウインナーをコロコロと転がした。


 一旦リセットしよう、よし。それはそうと、いつも通りを忠実にやりすぎてウインナーも安いの買っちまった。シャウエッセンでもよかったんじゃないか。さすがにそこはいいんじゃないか。パリッと感が欲しかったよ。あー、失敗した。

 しかしここまで舞台を整えておいて、つええから銃が効かないっていうのは無しだよなあ。大丈夫、意識を切ればなんとかなる。それに口腔内はつええでも防ぎきれない。うーん、どうなんだろうな。実際のところは。


 吉井は空になったコップに氷をがちがちに入れて半分程度ウイスキーを注ぎ、ヘッドフォンを端末に繋ぐ。


 よし、聴こう。迷っているうちはやらないほうがいい。うん、そう思う。パリッとしないウインナーを食べながら聴こう。


 ボブディランの風に吹かれてを流した瞬間、出だしのアコースティックギターの音質から、これはいいぜ、いきなりいいぜ。と吉井は盛り上がったが、一旦停止してウインナーを食べつつ、和訳を端末のモニターに出した。



 曲が終わった後、余韻に浸りながら吉井は1人頷く。



 うん、よかった。日本語訳無いとわからなかったけど、最後の曲にふさわしい。吉井はウイスキーを一口飲む。

 あれ、なんだっけなあ。村上春樹の小説でボブディランの声をなんかに例えてたんだよなあ。まあいいんだけど。よし、次は、いや、もう1回聴くか。


 吉井はもう一度「風に吹かれて」を聴きながら、ゴミを集め、川の水を寿司が入っていたプラ容器ですくって炭の火を消す。


 そして片付けの途中、吉井はおもむろに銃を持って口に咥え引き金に指を掛けた後、一度口から出してウイスキーを飲み、液体が胃に落ちていくのを確かめてから、大きく息を吸って引き金を強く引いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] おう!なんだみんないるじゃんか。 感想欄が死後の世界の待ち合わせ感w なんていうかこういう 実験作の最終回のこの 独特の感じっていいんだよね。 終わるとこで潔くちゃんと切れてる。 鮮や…
[良い点] 完結おめでとうございます。 次があるつもりで読んでいたので、「ここで終わり!?」ってなりました。 文章がすごく良かったです。 [一言] みきと吉井の物語は大満足なんですが、ミナトロンの方は…
[一言] みきが亡くなってからの吉井の行動 やけ気味だなぁと思ってましたが こうなってしまいましたか… 願わくば向こうの世界で再開できますように 長い間の執筆お疲れ様でした 完結おめでとうございます…
2022/10/25 06:22 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ