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泥状のギギルコン「と」  作者: がら がらんどう
吉井とみきとみきと吉井
137/168

第137話 2本目の串


 師団の業務を終えたヒマリヌは挨拶もそこそこに同じ敷地内にある宿舎に向かった。


 自室に入ったヒマリヌは扉に鞄を掛けた後、そのまま机に向かい記録用の紙を1枚を取り出して、先程リュと話した内容を書き始める。


 『第4と第5、合わせて200名弱の兵士がミナトロンさんによって殺害された』

 →理由、方法、不明。


 『ミナトロンさんはそのことを誰かに話し、その誰かがリュという女を通して私に告げた』

 →ミナトロンさんは誰に話したのか。

 →その誰かとリュはなぜわたしに言ったのか。

 →わたしである意味。


 大きくはこの2つなんだけど。コミュニティの兵士達が捜索のためオーステインに向かうのは明日。となれば今すぐにでも行動を。とりあえずスツリツトさんに……。


 ヒマリヌは一度思考を止め天井を見上げた。


 でもこれが事実かどうか現時点では判断できない。ミナトロンさんもある程度の地位にいる人だ。こんな荒唐無稽な話では上に行く途中で止まる。むしろ誰かがわたしを陥れるためにリュを使った可能性の方が現実的だ。しかしリュという女、あんな状態の人間を伝達に使うということが気になる。正直、わたしならあんな不安定な人間は使わない。でもそれが逆に信ぴょう性を。


 やはり行かないとだめか。

 

 ヒマリヌは重い腰と言われる状態になっていることを自覚しながらその腰を上げて部屋を出た。


 日が沈みつつある中、同じ宿舎が複数立ち並ぶ師団敷地内をヒマリヌは長く伸びた自分の影を見ながら歩く。


 影を見ながら歩くと自身の思考と自身が思う客観的な思考が区別され、その結果考えがまとまる気がする。ヒマリヌは以前からそういった感覚があったが人に言ったことはない。

 

 肉と野菜を串で刺して焼く店を通り越し、葉っぱお化けの家と変な風の道(ヒマリヌは道や建物に名前を付けて覚える癖があった)を過ぎてふと視線を上げると、何かの店にできた行列の、奥側の、建物の、隙間の、奥の、間の、空間から、大きな夕日が見えた。


 その光景になぜか見入ってしまっている自分に気付いたヒマリヌは、あと何回こういう夕日を見られるのだろう。という方向に向かいそうな自分を理解してから切り離し、コミュニティに向かった。



 コミュニティの出入り口に立っていた兵士に見覚えはなかったが、見覚えがあった風を装い「ミナトロンに会いに来た」と告げると、出入り口に立っていた兵士とは別の人間がやってきて敷地内にある平屋に通された。



 部屋に入ってきたミナトロンは、きみのことは嫌いではないが誰かが訪ねてきてこの部屋で話す状況に多少うんざりしている。冷ややかな目と共にヒマリヌに告げた。


「じゃあ手短に」

 ヒマリヌはなぜここに来たかという理由を話し始めたが、その導入も要らない、というミナトロンの言葉により、リュという女が告げた内容をミナトロンに話し始めた。


 当初、気のない素振りで話を聞いていたミナトロンは、途中から含み笑いとなり、最後は下を向いて、くっく、と堪え切れず声を漏らす。


 この男は何を考えているんだろう。話し終えた後、ヒマリヌはミナトロンが落ち着くのを待ちながら、自分が話した内容に間違いがなかったか精査した。


「いや、すまない。意外だったものでね。それできみはなぜこの話をわたしに?」

「……しいて言えば、最初会ったときのギルドでの助言。数年前になるけど、あれがあったからわたしは今の場所にいるから。それと不確かな情報では動けない」

「そうか、義理堅い上に正直だね。じゃあもう一つ。わたしが師団の兵士を殺した、百人規模だ。その大量殺人者だとして、きみは危険を感じないのかい?」

 ミナトロンはいつの間にか手に持っていた果実酒を、いかにもその辺にあったと思われる粗末な木の入れ物に注ぐ。


「わたしが策も無くあなたに言いにくるはずながい。とあなたなら考えると思って」

「なるほど。もう少し詳しく」


 詳しくと言われてもな。ヒマリヌは姿勢を正す。


「あなたはわたしに危害を加えない。どう転んでもそれは得にならない」

「うん、なるほど」

 ミナトロンは頷きながら果実酒を木の器に入った果実酒を飲む。


「いいね、その通り。しかし出発は明日だ。さてわたしはどうなるだろう?」

「さあ。わたしにはわからない」

「きみの予想でいい。聞かせてくれよ」

「その前に」

 ヒマリヌはミナトロンを見据えて続ける。


「本当にあなたは師団の兵士を、そしてノリュアムさんを殺したの?」

「ああ、全部本当だよ。わたしが殺した。第4、第5師団の兵士。そしてノリュアムも」

「……じゃあ、もう話すことはありません」

 ヒマリヌは席を立ち、ドアに向かう。


「きみの予想を聞いていないが」

「おそらく」

 出来る限り表情を消してからヒマリヌは振り返る。

 

「スツリツトさんが出ます。あなた方の言葉を借りるなら、あなたを処分するために」

 ヒマリヌは再び背を向け、ミナトロンが手を振る気配を感じながら来客用の平屋を出た。


 

 もう夜か、早く帰らないと。やることは多い。でも結果としてはよかった。やはりミナトロンさんはリュという女の言った通りのことをしていた。しかし一刻も早くスツリツトさんやその周りに報告しなければならなかったのに。(違う、それには反論できる)確かめる必要があったから?(そう、そういうこと)でも不確かな情報だとしても、それを踏まえて伝えれば?(それも違う、スツリツトさん以外はわたしの失敗を待っている。出所がわたしである以上それは駄目だ)


 ふと夕食のことが思い浮かんだヒマリヌ。そしてそう思う前からその存在に気付いていたヒマリヌ。最初から帰り寄ろうと思っていたヒマリヌは、敷地内にある屋台そのものではなく、肉と野菜を焼く火に体ごと吸い込まれるように進み、店の前に立った。


 大人が両手を広げれば収まるような小さな屋台では、ヒマリヌより年上、30代と思われる男が、串に刺している肉と野菜を焼いていた。

 その男は自身の汗が落ちないよう頭に白い布を巻いていたが、それはほとんど用を成さず、結局体全体から汗が噴き出し、その汗が噴き出している最中も次の新しい汗が噴き出している。


「あの、そこにある串を2本」

 ヒマリヌは焼き終えて端によせてあった串を指さす。


「ああ、どもう。はは、間違えた。どうも」

 汗が噴き出している男は額の汗を拭い、串を2本取ってヒマリヌに差し出した。


「いえ、じゃあこれ」

 ヒマリヌは串を受け取った後、あらかじめ用意していた700トロンを渡す。


 歩きながら串を食べつつヒマリヌは再び検証を始める。


 串じゃなくて先に料金を受け取らないと。手が塞がると財布からお金を出しづらくなる。まあそれはいいとして。しかしなぜミナトロンさんはあっさり肯定した?(それは……)じゃあなぜ否定できなかった?(同じこと。でもこの場合は)だれがこんなことをリュという女に伝えた?(そのために否定できなかった?)ミナトロンさんは直接リュに言ってはいない。リュはミナトロンさんのことは知っていたが、別の人から話を聞いたと言っていた。それにミナトロンさんは、だれから聞いた?とは言わなかった。一番気になりそうなところなのに。つまりミナトロンさんはどこから情報が漏れたかを把握していて……(でもだからといってその間の人間をかばうことになるのか?)ならないと思う。そこを秘匿しても公表しても同じ。


 こっちはここまで、次は。ヒマリヌは2本目に手を付けつつ明日からの展開を考える。


 おそらくミナトロンさんは現場まで行くことになる。さすがに不確かな情報でいきなりどうこうするのは難しい。そして処理役としてスツリツトさんが同行し、あ、「どうこう」が重なった。ミナトロンさんがやったということが判明したらその場で処分という形に。 

 

 とりあえず報告に行こう。2本目が食べ終わる瞬間と思考の区切りを合わせることに失敗したヒマリヌは、残りの串に刺さった野菜を食べながら早足で宿舎に戻った。


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