第131話 互いに認識できていない様
しかし、よくこんなところに。来客用家屋地下に降りたススリゴは、かすかに入る光に照らされたほこりが気になり反射的に手で口を覆う。そしてそのまま辺りを見渡しすと、果実酒のボトルが入った箱の上で横になっているリュが目に入り、ススリゴは、「おい、起きろ」と声を掛けた。
声を掛けられリュは、びくんと反応した後、よろよろと起き上がり、ススリゴを見上げる。
そうだ、串を持ったままその辺を歩いたけど、結局行く所が無いから帰ってきたんだ。入口の兵士もススリゴの名前を出したら通してくれた。リュはよぎっていた頭を整理する。
「悪い、寝ていた」
リュは体の横に置いてあった串に気付いたが、寝起きの頭でもかなりどうでもいいことだという判断の下、一度は無視したが何となく手に取った。
「今は夕方だ。昼間にあの女に会えたのか?」
ススリゴは階段に移動し、数段上った後座り込んだ。
「会えた。言われた通りに伝えた」
「そうか、ならいい」
納得した様子のススリゴが階段を上がろうとすると、リュは駆け寄ってススリゴの手を掴んだ。
「なあ、これが何になるんだ? ミナトロンの話をあの若い女にすることでどう」
「お前がしてもいいっていうから頼んだ。それだけだ」
ススリゴはリュの腕を振りほどく。
「言ってやったんだ、だから。ちょっとわたしの話を聞いて、わたしと話を、してくれないか」
その場に座り込んだリュを無表情で見下ろしていたススリゴは、「何があったかは知らんが」そう言って再び階段に座る。
「お前、少し普通になったな。自身を憐れむ感覚に慣れたか?」
「ああ、なるほど……。そういう、そういうことか」
「いいことだ。で、話せばもっとまともになるのか?」
「……口に出した方が楽になれる気がする」
「大抵のやつは」
ススリゴは立ち上がり果実酒の箱を開けて1本取り出した後、顎でリュに話すよう促す。
「そういう時間は金で買うんだがな」
「……助かる」
リュは堰を切ったように話し出す。
……で、わたしは結局その日から一昨日まであの店で過ごした。イイマっていう食堂の店主がいてその妻にわたしが似てるからって髪も切られた。知り合いのようで興奮すると。その他も色んなことをされたが、ここでは規制があって書けない。
数日後、あいつらからミナトロンの名前が出た。人が消えるとかそういうおかしな話は大体絡んでるっていう噂だと。結局あいつらが知っている、思い当たる節があるのはたったそれだけ。たったそれだけのためにわたしは……。でもあいつらはそれを言うのもかなり躊躇していた。出入りしなくなったとはいえ、コミュニティのことは恐れていたようで、酒を使って状況を整えやっと聞き出せた。
でも1人だけいい人がいて、その人はコミュニティのことを教えてくれた。元々はあいつらと同じ集団に所属していたようだが、話した感じだと巻き添えで出されたようだった。
その人が言うには、食堂の人達がいなくなった件、そういう状況になった場合はほぼ死んでいると思った方がいいと。そしてその人もミナトロンが絡んでいるのではと感じていたようで、何とか会えるように門番に取り繕ってくれた。それでわたしはここに来ることが出来た。
「そうか、よかったな。そいつらはもういない」
薄暗い室内の中、ススリゴの声はよく響いた。
「いないって?」
「お前が最初に言ってただろ? それもあって少し調べた。結果、全員内々で処理されていた。おそらくお前が今言ってた、1人だけいい人も含め」
リュは自分の中に芽生えた感情について触れないようにしたが無駄だった。それは単純な快感であり、リュは自分が飲み込まれていくのを自覚した。
あいつらが死んだ。あいつらが、死んだ。死んだ。あんなことをするからだ。どんな死に方だったのか?でも、いい死んだ。死んだんだ。
「それでお前はどうするんだ? この日が当たらない場所ですらずっといることは出来ないぞ」
「ああ、そう。それなら」
もっと、あいつらは死んだ。だったら次は、わたしは、死んだ。あいつらは。何か出来る、何か。リュは立ち上がってススリゴの前に立つ。
「わたしに、今のわたしに手伝えることはないか?」
「それはあの女、サエランの復讐か?」
「あんたを手伝うことで、サエランを殺したやつに繋がることが、そしていずれ殺すことができるなら」
「先に言っておくと」
ススリゴは果実酒のボトルを置き、リュを見上げる。
「復讐の過程でお前は死ぬ。達成されることはないだろう。それでもいいのか?」
「どうせ一度ここを離れたらわたしは同じように処理されるんだろ?」
「よくわかってるな。大体にして今お前がこうしているのも単にミナトロンの気まぐれだ。明日にはどうなっているかわからない」
「そうか、気まぐれ。ミナトロンの気まぐれか」
なんで、なんでこんな。なんで……。リュは両手を強く握りしめる。
「なんでたかが2人の人間。黒髪2人のためにこんなことになってるんだよ! 一体何人殺すつもりなんだ! サエラン達だけじゃない。わたしが住んでた家に帰っても一緒に住んでた叔母さんはいなかった! 周りの人間に聞いてもだれも教えてくれないし、わたしはあの集落ではもうのけ者だ。あいつらの酒場で何日か寝泊りさせられ、もう一度戻ったときには家すらなかった。食堂の人も殺されて、結局あのクズ共も死んだ。なんでこんなことになるんだよ!」
近くにあった果実酒が入った箱を蹴ろうとしたリュの足を、ススリゴが掴む。
「え、なんでそんな速く? 階段にいた、のに」
「速い? ミナトロンなら速いとすら感じさせないぞ。それに」
ススリゴは箱からさらに1本取り出してリュに向かって放り投げた。
「もっとだ、もっと死んでるよ。あの黒髪2人関連で」
「あの2人は一体何をやったんだ……」
あいつらが何をやったのか、ね。ススリゴは考えを巡らせる。
「いくつか思うところはあるが、どっちみちお前が知っても意味はないだろ。とりあえず寝るところは用意してやる。ただしお前もコミュニティの一員だ。今から仕事はしてもらうぞ」
「わかった。わたしに出来ることはやる」
「じゃあ着いてこい」
そう告げて階段を上るススリゴ、続くリュ。
「どうでもいいんだが。その串」
階段を上る途中、ススリゴは振り返った。
「串? ああ、これか」
リュは手に持った串を揺らす。
「他にも集めてるやつがいた。意味があるのか?」
「いや、特にない。別に捨てても」
「そうか」
ススリゴは口元を歪めて笑い、前を向いた。




