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泥状のギギルコン「と」  作者: がら がらんどう
吉井とみきとみきと吉井
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第130話 よぎる(後)


 ん、ここか? ギルドに依頼を出した翌日の夜、リュは住宅街の入り組んだ路地を歩き、目印の三叉路にあった建物の1階のドアを叩く。


「おお、お前か。よくわかったなあ」

 イイマの店にいた男はにやけながらドアを開け、リュを招き入れる。


「何人かに聞いた」

 イイマの店にいた男がドアを閉める音に少し不安を感じたリュは、それを振り払うように店内を見渡す。


 店の中はカウンター席が10席程度のの細長い店で、客らしき人物は最初に声を掛けてきたイイマの店にいた男、もう1人は見たことのない男で、店の人間は見当たらなかった。


「ここはおれらが集まるだけの場所だ。だから店の人間はいない」

 リュを手招きしながら、イイマの店にいた男は果実酒をボトルのまま飲む。


「情報が欲しいんだろ? あの食堂に居たやつらの」

「金は、追加して1万トロン払う、だから」

 イイマの店にいた男の前に立ったリュは、カウンターテーブルに1万トロンが入った布袋を乱暴に置いた。


「わかった、金はそれでいい。とりあえずお前の話を聞かせてもらおうか」

「わたしの話? なぜ?」

「いいじゃないか」

 イイマの店にいた男は果実酒をテーブルに置き、リュの体に目をやる。


 またこの視線だ、だから男は……。リュはイイマの店にいた男の体の線をなぞるような視線から顔を逸らす。


「大事なことだ。お前生まれは?」

「西部」


 そうか、家族は? 叔母が1人だけ、後は死んだ。へえ、小さい弟が何人かいそうだけどな。なにそれ。気の強そうなやつは大体そうだろ。それで叔母とは一緒に住んでいるのか? そう。仕事は何をしてるんだ、西部だと農業か? わたしは農家の取れ高や土地の面積を測ったりしている。頭脳労働じゃないか、頭がいいんだな。別にそういう役割なだけ。その学は何処で身に付けた? 以前住んでいた場所の近くに裕福な家が。そこの子どもと一緒に教わった。家庭での教育か、羨ましいね。ただ運が良かっただけだ。それはそうとお前は以前から顔は整ってたのか? なぜ急にそんなことを。いいじゃないか、こっちの都合だよ。別に特に気にしていない。そういうもんかね、その髪もきれいに整えられてる。思うのは勝手だ、こちらは気にしていない。なんで食堂の行方不明客なんて探している? それは言う必要はない。言えよ、重要なところだろ。知り合いがいただけだ。知り合いってだけでここまでするかね? わざわざこんな所にまで来て。そっちには関係はない。話を戻すが勉強を教えてもらった金持ちの子どもとは今もやりとりしてるのか? なぜそんなことを聞く? 質問には答えろよ。それは、今は会ってない。今は、会ってないんだな。そうだ。今仕事はどうしてるんだ? 休んでいる、叔母もある程度ならできるから。それはお前が教えたのか? そうだ。お前好きなことは何だ? 好きなこと? 色々あるだろ、女なら。特に、ない。仕事がうまくいくとうれしいぐらいだ。しかしなんでそんな喋り方なんだ。もうちょっとうまくやれないのか。男と一緒に仕事をしているうちにそうなった。お前には関係ない。はっは、そういうことか。だからそんな男が穿くような二股にわかれたのを。仕事をしていたら農地に行くことも多い。その時、髪はしばっているのか? ああ、そういうときもある。


「いいぞ、大体わかった」

「だから何が」

 リュがイイマの店にいた男から一つ空けた席に座ろうとすると、そのまま立ってろ、それで。そう言ってイイマの店にいた男は続ける。


「お前はおれが、そうだな。お前の体に興味を持っていることに気付いているか?」


 なぜそれを訊く? リュは質問の意図を理解できなかったが、最初に会った時から感じていた。と思ったまま答える。


「そうか。女はそういうのに敏感だからな」

「そういう問題で」

「まあいい、とりあえずそこで服を脱げ。話はそれからだ」

 リュが言い終わる前に、イイマの店にいた男は持っていた果実酒の瓶でリュを指した。


「は? 服、を……?」

「そうだ、脱いでるときは笑えよ」

「そんな、ことできるわけ」

 震えながらリュがもう1人の男を見ると、うんうんと頷きながら笑顔を見せた。


 なんだ、これ。なに、どういう。リュが想像していた展開とあまりにかけ離れた状況に対応できずにいると、イイマの店にいた男がもう1人の男に果実酒をもう1本頼む仕草を見せた後、リュに向き直る。


「これは先に教えてやるよ。あの食堂の、なんだ。店主か。その店主の嫁だ。あいつは昨日死んだ」


 え、え……? リュはその場で崩れ落ちそうになり慌ててテーブルを掴み、なんで、なんでそんな。と絞り出すように呟く。


「なんでって、おれも知らねえよ。そんなことは」

「昨日約束して。本当だったら昨日の、夜に会う」

「お前が探してたのは客なんだろ?」

「だけ、ど。昨日会って。それでだから」

 リュは顔を伏せたままテーブルに乗せた手を強く握りしめた。


 お前さ。イイマの店にいた男は、もう1人の男から果実酒のボトルを受け取る。


「そんな風に戸惑っている間に何とかなると思ってるのか? 言っとくぞ、この話そういう時期はもう終わったんだよ。ああ、そうだ。面倒だから理由をやる。お前は人のためにここまで来たんだろ? それを続ければいいだろ」


 そうだ、わたしは。サエランのために。あの子には恩がある、それを返すために。だが、だからと言って。リュは姿勢を正してイイマの店にいた男を正面から見た。


「お前らの、そう、お前らの言うことを聞いてどうにかなるとは思えない」

「じゃあ昨日と一緒だな」


 イイマの店にいた男はドアを指し、リュは自分ができる最大限の侮蔑を込めた目で2人を見た後、ドアに手を掛けた。

 

「言っとくが次はないぞ」


 イイマの店にた男の言葉で、リュは手を止める。


「わかって、そんな」

「金もいらない」

 ほらよ。イイマの店にいた男が布袋に入った金を投げ捨てた。


「……本当に知ってるのか?」

 ドアに掛けた手を外したリュは背を向けたまま言った。


「今の時点で何を言ってもお前は確かめられないだろ。おれから言えるのはお前がやることをやったら知ってることを教えてやるってことだけだ。大体おれらに頼るような状況になった時点で終わってんだよ、お前」


「絶対知ってることを教えろ、じゃないとわたしは……」

 リュはそう言いながら振り向き、イイマの店にいた男が座る場所まで歩く。


「ああ、わかってるよ」

「わたしは、絶対に知らなければ」

 

 目の前に立ったリュを見て、イイマの店にいた男は満足そうに頷く。


「よし、始めろ。ちゃんと笑えよ」

 

 リュは少しひきつった笑みを浮かながら、着ていた服を捲り上げた。


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