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泥状のギギルコン「と」  作者: がら がらんどう
吉井とみきとみきと吉井
127/168

第127話 どこか冗談だったんだけどな


「違う違う。単純にイライラするんだよ。男女平等ならトイレ掃除のばばあをなんとかしてからだろ」

「あー、それな。おれはどうでもいいけど」

「それにな、男女の格差より貧富の格差のほうが問題だろ。普通そっち先なんとかしようって思うだろ。結局、男がー、女がーって言ってるやつは、国会議員選ぶときに自分の住んでるとこ良くしてくれるやつ選んでる馬鹿と一緒だよ」

「それはいいじゃん。自分のやりたいことやってるんだから。それとこの方面の話題はやばいからやめよう。他ないの」

「あー、そうだ。店にたまに来る。未だに来るんだけど。あれよ、あれ。FAX送って欲しいっていうやつまじで死んで欲しい」

「FAX? あー、なんだっけそれ」

「おいおい、紙で送るやつだって。ひくわー、さすがにその嘘はひくわー」

「ほんとだって。説明受けたらわかったけど。一瞬忘れてた」

「これ今度お前の親に聞くから。あいつFAX知らないって言ってるんですけどガチですかって」

「やめろってー。そんなこといきなり親に聞かれたら姉ちゃんに言われるんだよ。そんであの子の友達にこんなの言われたんだけどって、それがおれのとこに来るんだってー」


(爆笑)

 

 こういうのね、はいはい。吉井は端末を操作し動画を45秒進め、15秒戻した。


 移動中の車内での会話で、古着屋店長とコンビニ店長、そして入院中の男は3人での雑談動画を頻繁に上げていることがわかり、吉井はやることもなかったのでそのチャンネル内で気持ち多く再生されている動画を観ていた。


 しかし入院中のやつ喋んねえ。あー、もう無理。あー、来たよレジ袋。このくだりは予想が付くな、レジ袋が環境に及ぼす影響について怒るやつだろ。さっきのジェンダー的なやつもしょうもないし、もう限界だ。吉井は窓の通り過ぎる車を見ながら音声を聞いていたが、コンビニ店長のレジ袋に対する熱の入った話が始まったところで止め、「この動画ってさ。お前の、さっきの店で撮ってんの?」運転している古着屋店長に訊いた。


「あ、ま、あ。そうだけど」

「これやろうって言いだしたのはこいつ?」

 吉井は一つ後ろの列で猿ぐつわのままもごもごと喋るコンビニ店長に目を移す。


「あ、あ。そんな感じだ」

「わかった。よし、ちょっとそこ左に入って。落ち着いて話そう」


 吉井に言われたまま古着屋店長はウインカーを出し、指示通り片側3車線の幹線道路から住宅街に続く道に入った。


「で、そうだな。あ、左側の住宅建築予定地。そこで」

「ああ、わかった」


 古着屋店長はハザードを点け、ある程度の築年数のアパートと、小売りもやっていますという個人経営と思われる何かの麺を売っている店、その間にある平地の前に停めた。 


「あのさあ、お前なあ」

 こんなに遠慮しないで何かの感想を言うのは初めてかもしれない。吉井は少し高揚している自分に気が付いた。


「お前らまじでどうしようもないな。人殺しのクズがやってる動画どんなもんかと思って観てみたらこれだよ。大体なんでおれにこの動画のこと言ったんだ? 今のおれが観て面白いと思うとでもおもったか? 普通の精神状態で観たらどうかしらんよ、笑ったかもしれんよ。はっは、そうだとしてもこれで笑うか、ぼけ」

「別に、お、お前にどう思われても。あと今はどこに向かって」

 古着屋店長は振り返って吉井を見た。


「いいよ、もう。大体のことがどうでもよくなってきてるんだよ。その中でどうでもいい質問はさらにどうでもいい」

「わ、わかった。もう聞かない、だからあいつの猿ぐつわを取ってくれないか? 話を」


 コンビニ店長との話ね。吉井も少し状態は気になったので、一つ後ろの席に移り、コンビニ店長の猿ぐつわを外すと、大声で、あああ、おい、お前は、おれの車を、お前、は何を。と怒鳴り始めた。


「なあ、先に聞いとく。入院中のやつってどこ?」

 吉井はコンビニ店長を無視し、古着屋店長に訊いた。


「市立病院にいる。横浜市立病院だ。多分、HCUかICUに」


 横浜市立病院って。そんなありそうでなさそうな病院が本当にあんのかよ。吉井は怒鳴り続けるコンビニ店長に半分程度の猿ぐつわをしてから車内を移動し、古着屋店長の運転席の後ろに戻った。


「そいつの名前は? 漢字も」


 コンビニ店長は少し迷った様子でミラー越しに何度かコンビニ店長を見てから、入江、入るに江戸の江、そして隆だ。隆は岡村隆史の隆史の隆だけを使った隆、と言った。

 

 普通の入江に、隆は岡村隆史の隆だけを使った隆ね、わかるんだけどな。吉井が隆を伝えるのに岡村隆史以外に何かあるかを考えていると、コンビニ店長が、お前何言ってるんだよ! なんで教えてるんだ! とさらに大きな声でわめいた。


 今のうち、まともなうちに。この辺で確認しておくか。吉井は後ろに座っていたコンビニ店長の胸ぐらを掴み、無理やり自分の座席横に移動させる。


「あの女を殺したのって入院してるやつか?」

 そう尋ねながら吉井はコンビニ店長の手足を縛り直す。


「は? 大体、だれ、お前なんだよ。だれだ?」


 あー、そこからかあ。えー、なんか一回やったクエストが保存されてなくてもう1回やれ感があるなあ。面倒になった吉井は状況説明を古着屋店長に任せ、横浜市立病院の場所を端末で確認し始めた。


 おいおい、横浜市立病院と横浜市民病院ってあるんだけど。これ系ほんとどうにかならんかな。早くどっちか譲らないとだめだって。というかそもそも後からのやつが空気読んでせめて名称を平仮名にするとかそういう努力をだな。


「大体、説明は終わったぞ」

「ああ、そう」

 古着屋店長からの報告を受け、病院名の代替案を考えていた吉井は頭を切り替えた。


「改めてだが、お前らのだれがあの女を殺した?」

「だれがというか……」

 古着屋店長は絞り出すように話す。


「ん?」

「だれがというわけじゃ……」

 

 運転席に座っていた古着屋店長は俯いて黙り込み、コンビニ店長は、あいつだろ、あいつが言ったから、とブツブツと呟いた。


「だれがやったとかじゃないってどういう」

「おれたちが、3人で、やった。悪かったと、今、冷静になったら本当に思う。聞いたんだ、さっきおれの店にいた人いだだろ? あの人が、何かあったら3人同時でやればだれが殺したかわからなくなるからって」


 ああ、威嚇ね。あいつが絡んでんのね。それで3つぐらいの傷が、ってそんな下らない理由かよ。というか仕方なかった風のこと言ってたけど最初から想定してるじゃねえか。吉井は自分の呼吸が荒くなっていくのを感じながら、何か言ってなかったか? と尋ねる。


「なにかっ、って。ああ、何か、エバーがどうのこう、のって。エーバーかな。よく聞こえなかったけど。まだ観てないのに、まだ観てないから、って。そんなことを大声で言って、た」


 そう、か。そうね。あいつやっぱり観たかったのか、あんだけ言っといて。結局観たかったんだな。まずいな。いや、まずいというかもう。吉井は車の天井を見上げた。


「大体よお! あいつだって、あの女だって入江を刺してんだよ! あいつもあぶないんだ。どっちもどっちじゃねえか!」

 座席から半分落ちかけていたコンビニ店長は体をよじりながら吉井を見て言った。


 おい、異世界ジョークか? 吉井は天井から視線をコンビニ店長に移す。



 おれとみきの命が偽物のお前らと同等だと?



「なあ、お前が何してるのかとかお前が何なのかとか、もうわけわからないんだよ、でも」 

 古着屋店長は震えながらと振り返り吉井を見た。


「お前、吉井だろ? 本当に悪かっ、た。おれ、頭から離れないんだよ、エーバー、エーバーと繰り返しながら、お前の名前、を呼ぶ、あ」


 古着屋店長が言い終わる前に吉井が目の前の運転席を蹴ると、古着屋店長は反動で顔面をハンドルに強打し、一瞬クラクションが鳴った。


 あーあ。当初の予定では、今日何回目だよっていう廃校舎に行って詳しい話を聞くつもりだったんだよ。そこでこいつらにまあまあ辛い目にあってもらうっていう。仮だぞ? 仮で考えてたのはトレーラーみたいなのを持ってきてだな。荷台だけでもいいんだけどさ。それを土の中にぎゅって押し込む。つええがあるおれならできる。それで後ろを開けて中に放り込むんだよ。みんな浮かぶかな? この絵。要は土の中に縦長の箱が入るんだ。絶対出れない高さの。そこにそうだな、ちょっとした工夫を。片方は視力を奪って、もう片方は手足の自由を奪うか。そこに定期的に食料でも投げ込んでどうなるかっていう。でもなあ、今のぱっと思いついた感じでやったら絶対失敗する。え? その動きすんの? っていうので一発で終わるのが想像できるよ。で、なんだかんだパンを買いに行っている間に、おれか古着屋店長の位置がご都合主義的にGPSで位置を特定され、さっきの古着屋にいた威嚇が窓が黒いやつ、なんだっけ。フルスモークか。あってるか? フルスモークで。まあいい、そう窓のワゴン車に乗って強面のやつらを数人連れてくるんだよ。それをおれがちぎっては投げ、ちぎっては投げで、ぞんぶんにつええを発揮してっていう流れだと思ってたんだ。


 だけど。吉井は自分の横に置いていた缶ビールの蓋を開けた。


 そういう状況、状況っていうか、そういう気分ではなくなった、今もう。車内での移動中、揺れていたこともあり暴発気味に飛び出すビールの炭酸の泡を能力を使って避け、一口飲んだ後、吉井は車から降りる。


 限界だ、ここでいい。車外に出た吉井は停車している車の正面にまわりこみ、握りしめた拳をフロント部分に振り下ろした。


 はは、これみきのどんっだわ。影響されてんなあ。まあいいや。吉井は車体が後部から浮き上がって迫ってくるのに少し驚きつつ、自分の思っていたやり方を修正。最初からそのつもりだったという体で、車の屋根部分を受け止める。


 そして流れのままに屋根部分を引き剝がすとコンビニ店長と顔を押さえている古着屋店長が車外に放り出され、住宅建築予定地の上に転がった。


 吉井は2人の顔をしっかりと見てから、強引に持っていた車を振り下ろす瞬間に、ドア部分は意外ともろいという話を思い出し、ギリギリで車体を斜めにしてバンパー部分が当たるようにコンビニ店長、古着屋店長、コンビニ店長、コンビニ店長、古着屋店長の順に車を叩きつけた。


 これはもう。行為が終わった後、数秒前まで古着屋店長、コンビニ店長だった塊を見た。


 死んだとかそういう問題じゃないな。単純に潰された肉だ。


 吉井は車を住宅建設予定地の上に投げ捨て、その場を後にした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 吉井…… 胸が痛いですね
2022/01/28 20:26 退会済み
管理
[良い点] 更新待ってました!語り口と思考と行動と、どれも味があって最高です。これからの展開も超楽しみにしています!
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