第124話 復讐できるやつ
ここだよな、うん。ここだ。というか、え、開いてるの? 目的の古着屋に着いた吉井は店の前で立ち止る。
店の正面はガラス張りになっており、吉井は気持ち歩く速度を落として店内をのぞき込むと、動画に映っていた店長風の男と30代男が喋っていた。
まあ最悪開いてるのはいい、普通に本人いるっていうのはどういう。
予想外の状況に焦った吉井は、一旦店を通り過ぎることを選択。そしてふと店の横壁ぎりぎりに駐車している軽自動車が目に付いた。
あー、これは多分店長の車だよなあ。はいはい、わかるよ。内装もこういう風にしちゃう感じね。逆に軽なんです、車に乗っている時間も人生の一部です、っていう。
あとさ、さっき探したときに出たけど「男女の待ち合わせで使いたい店」っていう見出し。そしてこの2階建て店舗の細長さ、この辺はいいだろう。そこはまあ置いといて。このなあ、ペンキの剥げた、何色? これ濃紺? このペンキはあれだろ「わざと剥がれてるんだよ、それぐらいわかるよね?」って思わせて実は手抜きだろ。うまくいけばおれのような素人をびびらせることができる、多分。しかし改めて見るとすげえちょうどいい場所にあるな。横にビル挟んでコンビニあるし。でもなあ「住宅街に佇む」とも書いてあったけど、おれの感覚ではギリギリ商業地だよ。実際まあまあ人いるし。目の前の信号には常に1人から2人は立っているぞ。まあ常には言い過ぎた。割と立って、よし、通常のおれに戻ってきた。
落ち着き始めた吉井は最後に深呼吸をして店内に入った。
こういう音楽ね。海外の人がやってるってことしかわからないやつ。いいじゃないか。吉井は適当に服を見ながら店内の状況を確認する。
しかしなあ、いなかったら理由をつけて全力で自分を誤魔化したんだけど。無理か、いるんだもんなあ。そしてわかったのは、出入り口は玄関のみ、とは言えないということがわかった。
最悪の場合に必要な脱出経路を確認した吉井がレジに向かっていると、不意に血まみれで横たわっていたみきを見つけた時の映像が頭に浮かぶ。
無理だ、というか逆だ。結局は全力で自分を誤魔化して探し回ったんだろうな。
途中シャツを適当に2、3枚掴んだ吉井は、おい、そこ。と喋っている2人に呼びかけた。
まず反応したの店長風と話していた30代男で、ああ? と威嚇を目的としているであろう表情で振り返る。そして少し遅れて店長が一応客と思ったのかレジに乗っていたもの片付け始めた。
やっぱり店長、こいつだ。間違いないよ。でもこの威嚇してきたやつはいなかったな。あー、つええがあってよかった。素のおれならスマホを耳につけて通話し始めてるよ。きみたちにじゃないから、っていう逃げで。そういえば前もつええあってよかったって思ったことあったけど、どんな状況だったかな。しかし考えてみれば結局つええがあったからこんなことになっているともいえる。こうなってくると卵が先かのあれでいくなら、つええが先かつええが後かっていうことか。
そのまま吉井は能力を使い、ほぼ静止状態の2人を横にして手に持っていたシャツで拘束していると、感嚇の分が足りなかったのでもう一度シャツの陳列に戻って自分が必要だと思った数より多めに持って戻った。
そしてレジ横にしばった2人を転がして意識を戻すと、状況が呑み込めない2人が大声でわめき始めた。
「なあ、店の。なんていうんだ閉店した状態にするのってどうすんの? あるんだったら防犯のやつとかも解除したいんだけど」
吉井が店長に訊くと、お前何やってん、何、何やってんだ。お前。と威嚇が割って入ってきたので、吉井は威嚇の口に余っていたシャツを巻いた。
おいおい、猿ぐつわって。おれ初めてやったよ。吉井はうごろごと口を動かす威嚇見下ろす。
「よし店長。店をだな」
「お前、な、何を?」
初めて吉井と目が合った店長は言葉を詰まらせる。
「気づいたか。じゃあおれがいる理由はわかったな。窓のとこは閉店した感じでもそのまま見せるっていうやつ?」
「か、金か? 金ならもうない、だから」
だめだ。とりあえず鍵だけ掛けとくか。吉井は出入口に向かい外開きのドアを閉めて鍵を掛けた後、閉めるときに一瞬目に入った物に思い当たることがあり、やっちまった、これはやっちまったと焦りながら再び鍵を開け、OPENと書かれた札をひっくり返した。
「なんで外開きのドアの外側にオープンってやつ付けてるんだ? 開いてるとき見えないだろ!」
吉井が店長と感嚇の前に戻ると、威嚇が猿ぐつわと四肢を拘束された状態で出せる最大限の主張としていた。
もうちょっとつええに対する反応あるかと思ってたけど。今もこいつらからしたら一瞬で移動しているはず、まあ別にいいんだ、あー、うるせえ!威嚇!
吉井は目の前にあったレジを掴み数本のコードを引きちぎりながら威嚇の右足すねを狙ったが、これは膝から下無くなるわ。と思いぎりぎりで少しずらして店の床に叩きつけた。
金属片が目に入ったのか威嚇がうめいている横で、怯えの色が強くなった店長の様子を確認して吉井は口を開く。
「店を閉店した感じにするのはどうすればいいんだ?」
店を閉店した感じにした後、威嚇を置いて吉井と店長は2階に移動した。
2階は主に物置となっていが、階段上がってすぐに店長の個人的なスペースとしての部屋があり、ベッドとモニター、そしてPC、冷蔵庫、ベースとアンプ、そして各種エフェクター類等が置いてあった。
「お前ら3人で来てただろ。残りの2人をここに呼べ」
なんか寮感があるなあ、入ったことないけど。吉井は冷藏庫に入っていた缶酎ハイを取り出し、プルタブを開けながら言った。
「1人、1人は病院だ」
店長は絞り出すように答える。
「へえ、なんで?」
缶酎ハイを一口飲んだ吉井は柑橋系の刺激で少し冷静になった気がした。
「お前といた、あ、あの女に刺された。相当まずい、らしい。今家族が付き添っている」
「さっき一緒にいた男は?」
吉井の問いに店長の目が泳いだのを見て、吉井は下から感嚇を連れて来た。
「なあ、こいつはなんか関係あんのか?」
「おれの、おれの分は全部こっちに。金を、借りててこいつに、今回のを勧められて。で」
横たわっている威嚇に意識があるのかを気にしながら店長は答える。
「すげえ借りてたんだな。個人の領域を大分超えてる気がするけど。まあいいや、なんとなくわかったよ」
吉井は反応がなくなった威嚇を見下ろす。
罪の範囲をどこまでにするか、これは難しい問題だな。いや、難しいか? 答えが出た吉井は店長に視線を戻した。
「で、もう1人は?」
「コンビニに、この近くのコンビニに」
コンビニ? コンビニで何か関係がって言われると。あれ? 吉井は自分の記憶の何か店長の言葉に引っ掛かったのを感じた。
「それ、そのコンビニの近くにそろばん塾ってある?」
少し考えた後、店長はふと思い出したように、自分とコンビニが通っていたそろばん塾があったことを告げた。
吉井は体温が少し上がったような、むしろ下がったような奇妙な感覚に捉われる。
言ってた、回転寿司の時だ。なんか動画撮られたから撮り返したみたいな。できれば関係ないほうがいいんだけどな。しかし、もしそれつながりだとすると、そうだとすると。あとお前らの塾通いの情報はまじでいらん。吉井は店長を踏み潰してしまいそうな自分を抑え、コンビニに連絡を取るように伝えた。
「だめだ、仕事中だから。あいつ店長なんだ」
「とりあえず連絡してみろ」
吉井は古着屋店長の拘束を解くと、古着屋店長はポケットに入っていた自分の端末を操作し始めた。
「やっぱり仕事だ。すぐには動けないって言ってる」
だからなんで仕事してんだよ、こいつらは。あとそっちも店長かよ。吉井は思ったが口に出さず、古着屋店長の端末を奪い取って踏み潰すと、古着屋店長は今日一番の大声を出した。
「コンビニに行く。お前らはまとめてからやりたいんだ」
吉井が激しく落ち込んでいる古着屋店長の襟を掴み、1階に降りようとすると、「もとはと言えば、お前、お前たちがわけのわからないことをするから!」と古着屋店長は階段の壁を掴み抵抗しながら言った。
もとはと言えばおれたちが、か。痛い所をつかれたな、間違ってはいない。しかし。あ、これはやりやすくなった。後ろからの意識に気付き振り向くと、威嚇が部屋にあったベースを持って振りかぶっていた。
迷うな、このままやってもいいんだけど。何もわからないままっていうのもなんか悔しいっていう。でもあれか、わかったところで同じか。こっちの満足の部分だし。しかしなあ、こっちの満足無視したらそもそもやる理由って。
吉井は威嚇が持っていたベースを奪い取り、意識を落として少し間を開けた。
その間の威嚇の顔を眺めた後、吉井がベースを威嚇の腹部と胸部に2度叩きつけると、一瞬壁に張り付いたようになった威嚇はそのまま崩れ落ちる。そして生理的嫌悪感を押し殺しながら折れたネック部分を捨てると、自分が古着屋店長を手から離していたことに気付き、あーあ、もう何をやってるんだか。と吉井は少し自分に失望しながら玄関辺りまで逃げていた古着屋店長に一瞬で追いついた。
おれたちがわけのわからないことをするから。うん、やっぱり合ってる。全部とは言わん、が、多少は合ってる。しかしこいつに言われると。吉井はドアを蹴破って古着屋店長を道路に放りなげた。
そして何が起こったのかがわからず声も出ない様子の古着屋店長を確認した後、吉井は店の横に停めてあった軽自動車の前に立つ。
さっきの古着屋店長の言葉でおれは。そうだな、要は。吉井は車のフロント部分を掴みそのまま持ち上げた。
変わっちゃったな、これ戻れんのか。
「は ?え、なんでそんな持て、おれの車」
怯えと驚きが混じった古着屋店長は座り込んだまま、吉井と自分の車を交互に見つめる。
「やっぱりお前の?」
吉井は車を持ったままそのまま店の正面に立ち、車を店内に投げつけた。
ガラスが割れる音が響いた後、車は斜めに滑りながら衣類やマネキンをなぎ倒してレジが置いてあったカウンターで止まった。
爆発はしなかったなあ。よし、コンビニに行こう。吉井は激しく降り注ぐ通行人の視線を背に、大声で叫び続けている店長を掴んで歩き出した。




