第122話 口裏
いや、だから棺桶だけでいいんですよ。はい、承知しております。ただ今ご遺体がどう言った状況かをご確認させていただければと。当社でも納骨まですべて請け負わせていただくプランもございまして。それはわかってますよ、聞いたから。ただこちらとしては単純に棺桶を1つ購入したいだけなんです。ですが棺桶だけご購入いただいてもそれ以降のことが……。
この人を説得する自信がねえ、棺桶は諦めよう。ケンタッキー駐車場にいた吉井は適当に礼を言って通話を終了し、助手席に置いている先程ドライブスルーで購入したオリジナルチキン4ピースセットを見た。
ケンタッキー行ったら大体これだったからなあ。このセットに関しては色々とあったよ。うん、あった。
吉井はペットボトルの水を一口飲んで車を発進させる。
冷静になれよ、さすがにケンタッキーきっかけで動き出すっていうのはない、だから運転に集中しろ。でも復活するなら最悪ゾンビ状態でもそれはそれで。生き返らすよりゾンビを人間に戻す方が近いような、目的大分変ってくるけど。いや、やっぱりゾンビはきついかな、もうちょっと違う方向性が。吉井は後部座席に注意を払いながらあらかじめ調べていた近くのホームセンターに向かった。
こういった作業の過程は慎重に行わなければならないという考えから、店舗から離れた駐車場に車を停めた吉井は、店に入る前から能力を使い、ビニールシート、スコップ、ジップロック、メモ用紙とペンをレジを通さずに持ち去った。
しかしやらない善よりやる偽善的思考により、吉井はもう一度店に戻りなんとなくの代金をレジに入れようとしたが、金額が合わなくなることは偽善を超えて迷惑行為にあたると気付いたので、レジ内にあった封筒に「ビニールシート他」と書いてなんとなくの代金を入れ、店内奥にあった職員用の通路にそっと置いて立ち去った。
廃校舎の敷地に入った吉井は、今朝の出来事を思い出しそうになる自分を無視しつつタオルケットで包まれているみきをさらにブルーシートで包んで、その上に荷物を置いて抱きかかえる。
うーん、結局埋める側の理屈なんだよなあ。埋められる方は土掛けられたら一緒だし。ああ、でもこの廃校舎の解体工事とか入ったらちょっとな。やっぱり山か、うん、それで行こう。吉井は廃校舎の裏側にある人の手が介在していない山を登り始めた。
お、この辺いいんじゃないか。山の中腹に木々の隙間から街が見える場所を見つけ、吉井はブルーシートに包んだみきをゆっくりと降ろした。
あっついな。くそ、コンビニで冷凍した状態の飲み物を買ってくればよかった。吉井は一応周りに人がいないことを確認してからTシャツをめくって顔全体を拭う。
あれ誰が買うんだよ、って思ってたけどこういう状況もありえるんだなあ。まあ単純に登山なんだけど。
吉井は持っていたビニール袋の中からジップロックを取り出し、現金500万とチャージした交通系ICカードを入れた。そして2往復して念入りに封をした後、メモを入れるつもりだったことを思い出し、吉井は少し落ち込みながら封を開けて地面に置いてメモ用紙を1枚切り離した。
これはあれか? この手紙を読んでいるということはわたしは死んでいるのでしょう的なやつか。まあ書く方が生きてて、受け取る方が死んでるけど。でも、こいつの。みきの、みきの生涯ってなんだったんだろうな。14歳前後で飛ばされ、17歳前後で戻されて。今、おっさんに奇跡的に生き返った時用の手紙を書かれている。でも、みきは。
吉井はメモ用紙を太腿に当てボールペンを持ってしゃがみ込んだ。
こいつは基本的には悪いことはしてなかった。迷惑は掛けていたかもしれないけど、悪いことはしていなかった。向こうにいる時からそうだ。だから死ぬっていうのはちょっとな。あ、でもおれが犯罪、いやまだ知られていないから犯罪ではない。まあ犯罪なんだけど。それで得た金を使ったって意味では同罪とまでは言わんが、雰囲気的にはきみも同罪ってやつか。でもなあ基本的におれが取ってきた金。あー、だめか。おれが犯罪で得た金だと知っていて使ってるからな。でもそれは口裏を合わせて知らなかったっていうことにすれば。よし、それでいこう。
吉井はメモ用紙に、現在地と自分に連絡が付くいくつかのアカウント及びアドレスを記入し、現金等と一緒にジップロックに入れ再び念入りに封をした。
おし、やるか。吉井はスコップを手に取り穴を掘り始めたが、途中思ったよりスペースが必要なことに気付き、無駄に能力を使って一本の木を派手に抜いた。
これぐらいで十分という範囲を明らかに超えて穴を掘った吉井はスコップを置いてブルーシートに包まれたみきを持ち上げた。そして穴を見ながら吉井はいくつか自分に問いかけ、その問いかけに自分で答えた。
場所の話はもういいじゃないか。死んでるんだよ、暗いも明るいも湿気も関係ない、見えないんだよ、皮膚感覚もねえんだよ。大体現金なんていらないし、ケンタッキーも食べられない。あ、それと今わかったけど顔を見ないのは期待しているんだろうな、ゾンビ状態での復活を含め。それが起こらないこともわかってるけど。
吉井はブルーシートに包まれたみきを穴の中に入れ土を掛け始めた。
よし、終わりだ。さすがにこれなら。完全にブルーシートが見えなくなってからも、あと少し、もう少しと土を掛け、これで大丈夫だと納得した吉井はケンタッキーの4ピースセットを土の上に置いたが、どうせ入れるなら土の中だろうというの後悔と、何らかの動物が寄ってきて掘り起こされるんじゃという不安により、吉井はケンタッキー4ピースセット持って山を下りた。
来た道を何度か振り返りながら下りている道中、吉井は山全体を墓と捉えることにした。理由としては、埋めた場所がわかるように周辺の木に目印をつけておいたが、詳細な場所がそこまで重要か? という疑問と、それを解消する遠くからでも墓が見えるという利点を思いついたからで、特殊な状況ということもあり吉井は自身の考えに少しだけ酔った。
山が墓ならこの辺が墓前になるのかな。吉井は山と廃校舎敷地との境界線と思われる再びケンタッキー4ピースセット置いたが、ゴミを捨てている感が強く出たため結局車に持ち帰えることにした。
マンションに戻った吉井は血の跡や今後の生活のことを一瞬だけ忘れようとしたが忘れられなかったため、何かしらの欲求を刺激するためにゲーミングチェアに座りゲーミングPCの電源を入れるとデスクトップに張り付けられている見慣れないアイコンを見つけた。
この状況に置いて恐れるものは何もないよ。そのアイコンを迷わずクリックすると、日付別でいくつかのフォルダがあり、吉井が一番新しい今日のものを開くと、吉井の部屋の玄関の映像がPCのモニターに映った。
は? なんだこれ? でもこの角度から見えてるのって。え、ドッキリ? なんでこの部屋の動画が。吉井はゲーミングチェアを回して立ち上がり玄関に向かう。
えー、なんだよ。これいつのまに。カメラ以前にこの花瓶があることに気が付いてなかったっていう。 黒く細長い一輪挿しを見つけた吉井は、造花と共に花瓶から小型のカメラを取り出した。
これか、ええっと。吉井は小型カメラ撮影し画像検索した。
あー、はいはい。そういうことね。クラウド上に保存もできるよっていうやつか。そういえばドライブレコーダーがどうのっていうとき言ってたな。「ねえ、吉井さん。こんな生活は保険掛けてない自動車に乗るようなもんですよ!」みたいな。ちょっと話違うと思ったけど。大体いつの間に買ったんだって。あれ、じゃあ。
吉井は慌ててゲーミングPCがある部屋に戻る。
今が、14時39分ね。朝は、そうだな。9時ぐらいか? 下部のバーを動かして適当に時間を戻していると、9時58分のところで玄関に入ってきた3人の男が映っており、吉井はそこで動画を一時停止した。
そこから少し戻って再び動画を再生すると、マンションの玄関を通ってリビングに入り、数分後に再び走って玄関から出ていく男達が確認できた。
吉井は大きなため息をついた後、ゲーミングチェアを半回転させて立ち上がり、冷蔵庫から瓶ビールを取り出した。そして瓶のまま飲みながらゲーミングPCの前に座り、もう1度3人が侵入してくる所から0.25倍速で動画を観ていると、ふと1人の男が被っている特徴的な帽子が気になった。
あ、これあれだ。あの15万ぐらいで1セット買った古着屋にあったやつに似てる。なんか恐竜の背びれみたいなのがついてるキャップ。レジのカウンターの後ろに飾られてた気がする。ということは、あれちょっと待て。吉井はその男の顔が映っている箇所を探し停止した。
もろだよ、これはあいつだ。あの時店にいた店長というかオーナーというかそういう感じの男だ。しかし、そうなら。本当にそうなら。もともとみきはおれが量販店の服着てたらバレやすいからってわざわざ古着屋に買いに行って、それで金持ってるのがバレて、それでこいつはこいつで量販店じゃない感じの帽子を被っていたからおれにバレたって。なんだよ、それ……。
その後、何度が動画を見返している際、吉井は自分の考えに変化が訪れていることに気付く。
どっちかっていうと報復は意味ない派だったんだけどな。吉井は解像度の調整を行った画像(帽子のみと帽子男の全体像2枚)を自分の端末に送った。




