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泥状のギギルコン「と」  作者: がら がらんどう
吉井とみきとみきと吉井
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第117話 明日、廃校舎を押す

 

 うなぎとひつまぶしを食べた翌日、吉井とみきは早朝から廃校舎を探し始め、アニメ休憩を何度か挟んだ後、昼頃には横浜校外にある木造廃校舎を押すことに決めた。



 横浜にもこんな場所があるんだな。周辺画像を見ながら吉井がつぶやくのを聞いたみきは、横浜は都会の利便性と自然と異国情緒と古き良き時代と現在進行形の開発が融合した街だ。ゆえに日本で体感できることはすべて、いや大体ある。それを今証明する。そう告げてテーブルに置いていた端末を手にした。

 そしてみきの端末の画面をテレビモニターに表示しながら具体的な説明をしている最中、どうせ行くならアウトドア要素を取り入れよう、という吉井の話題を変えるための場面転換に、ラカラリムドルに戻った時のいろいろ当番の期限を調整することでみきは合意。そして昼食にデリバリーで頼んだお好み焼きを食べた後、2人でキャンプ用品を探しにホームセンター及び専門店を周り、テント、寝袋、照明、保冷用機、クーラーボックス、リクライニングチェア等を買い漁り現地に向かった。



「なあ、これ何に使うの?」

 

 夕方、廃校舎周辺のスーパーで買った食料品を車の荷台にまとめていた吉井は、後部座席にあったスピードガンを適当に操作しながら言った。


「あー、それはですね。吉井さんの身体測定っていうか能力測定に使おうかと。わたしどれぐらいのスペックあるかよくわかってないんで。あ、これは車内用っと」

 みきはスーパーで買った袋からコーラのペットボトルを1本取り出す。


「でも正直これじゃ何も測れないっていうかさ」

「何もって。何かはあるでしょう。例えば左手で石を投げた時の速さとか」


 石ねえ。実際苦労はしないが、おれのつええがこれで測れるなら苦労しねえよ。あ、そうだ。運転は慣れてきた時が危ないっていうことを常に考えていないと。忘れてたよ、おれ。吉井はスピードガンを戻しドアを閉める。


「吉井さん、買い忘れ大丈夫ですか? おそらくここが最後の補給地点ですよって。あーあ、もしわたしがサングラスを頭に乗っけていたらここでサッと下したのになあ」

 みきはそう言いながらドアを開け助手席に乗り込む。


「無いならしょうがないよ。荷物は大体買ったから問題ないと思うけど」


 運転席に座った吉井は慎重にギアを入れ、前後左右を確認して車を発進させた。


 スーパーの駐車場から出た吉井とみきは、何度も地図を確かめながら住宅街の坂を上った。そして廃校舎があると思われる山道に入る交差点で一時停止し、「絶対にこれだ(吉井)」「可能性の一つではあるが絶対ではない(みき)」それぞれ画像を見ながら主張し合った結果、間違ったら戻ればいいじゃん、そんな致命的なミスじゃないじゃん。という話でまとまり、廃校舎があると思われる舗装された山道に入った。


 こいつ地図回すタイプなんだよな、信用できねえ。吉井は1車線の山道を運転しながらチラチラと助手席のみきを確認する。


「なんでこんな若干不便なところに学校なんて」

 みきはさらに端末を上下左右に回しながら地図を見ていた。


「だから廃校になったんだろうよ。っていうか回しすぎてわけわかんなくなってないか?」

「やり方は人それぞれです。だからわたしは回し続けます、吉井さんが回さなくても。そうだ。急激に話を変えますけど、吉井さんこういうアウトドア的なの嫌いって言ってませんでしたっけ」

「ああ、そうだな。あ、ああ。いや、うん」

 吉井は対向車が来ると思ってブレーキを踏んだが、標識と見間違えただけだったので人知れず自分を恥じた。


「じゃあよくあっちで生活してましたね。中心部に行っても半アウトドアだったじゃないですか」

「意味なく外で。ってのが気になるだけだよ。あっちではそれが普通だからさ。必要に応じているなら別に問題はない」

「でも今回の廃校舎押しって正直そこまで生活に必要ないかと」


 お前がそれを言うなよ。って、お。あったんじゃないか? 右手に木造校舎らしきものが見え、吉井は誰もいない道でも丁寧にウインカーを出して右折した。



 運動場横に車を停め、木造平屋建ての廃校舎の前に立った吉井は、これは完全に廃校舎だという感想を持ちつつあたりを見渡した。


「いいですね、画像通りです。思ったより運動場が荒れているのが気がかりですが」

「そりゃあ廃校だからなあ、草も生えるよ。よし、荷物降ろしちゃうか」

「はい、休んでいる暇なんてないですからね」


 吉井とみきは一旦車に戻り冷房で冷やせるだけ体を冷やしてから準備を始めた。


「テントってどうする?」

「そうですよねえ。うーん」


 廃校舎の運動場でキャンプ用品を並べていた吉井とみきは、9,800円で購入したワンタッチテント(2人~4人用)の前で悩んでいた。


「考えてたら日が沈んじゃうんで、とりあえず作業をしながら考えましょう」

「わかったよ。どっちみち考えるならっていうことだな」

「わたしはこれを、吉井さんはこっちを。でも吉井さんテント買う時どう思ってたんですか? これは一緒に購入を決めたわたしにもろに返ってくる問いかけなんですけど」

「え? おれは最初から車で寝ようと」

「はあ? この期に及んでくるまあ?」

 みきは11,990円で購入した業務用LED投光器の設置を中断し吉井をにらむ。


「何で屋外で寝るあの感じを求めないんですか? あっちに戻った時にスムーズに馴染むいい機会だと思うんですけど」

「でもさ、雰囲気で買ってはみたものの実際現地で見てみると、あの空間に2人で寝るのってちょっと、きみも思ったんだろ」

「思いましたけど。はい、確かに思いました。違和感しかないです。でも、そこは無理してぎりぎりまで引っ張って、結果じゃんけんで決めるもんじゃ」


 だよなあ、違和感しかないよなあ。吉井はテントを少し離れた場所に置き、24,800円で購入したコンロ一体型のテーブルセットを組み立て始める。


「わかったよ、どこで寝るか問題は引っ張ろう。おれ肉とか野菜準備するからきみは炭をなんとかしてくれ」

「いつもの棚上げですね。いいでしょう、慣れてますから」


 ええっと、炭をっと。みきは端末を取り出して検索する。


「えーっと、『おすすめなのが8の字かまど式です』へー、なるほど。それで、『バーベキューの炭を8の字の形に組み、8の字の丸の部分に着火剤を置き火をつけます』って。ねえ、吉井さん。8の字に組むってどういうことなんですかねえ」

「8の字ねえ。普通に8で、これ英数字っていうのか? それか漢数字の八かによるんじゃない?」


 いっつも迷うんだよなあ。こういうとき洗わなくていいのかって。吉井は疑問を感じながらも袋から取り出したもやしをそのままボールに入れた。


「画像もあるんですけど、見てもどっちかわからないんですよ」

「じゃあ、適当に着火剤多めに入れればいいんじゃない? 頑張れば大抵のものは燃えるよ」

「そうですね、言われた通り適当に着火剤多めに使います。で『火が大きくなったら、大きめの炭をかぶせて、火が回るのを待ちます。炭全体が白っぽくなり、煙が出なくなれば完成です!』だそうです」


 しかしサバイバル力ひっくいな。3年あっちにいたのに。よし、早く終わらせてあの椅子を。


 吉井はみき専用の45万7千円バルコニー用椅子を羨ましく思っていたことから、今回のキャンプで必要だと自分を騙し、アウトドア要素が詰まったリクライニングチェアを6万8千円で購入していた。そして下準備が片付いた後、おもむろに眼下に広がる横浜の街が見える位置に置き、クーラーボックスから取り出したビールを手に座った。


 いいじゃないか。うん、ちょうどいい。飲み物置くところもあるし。吉井は半ば寝そべる形で座り、遠く海に沈む夕日を眺める。


 横浜の海か。となると横浜湾っていうのか? まあいいや、怒られるからわざわざ聞くこともない。しかしこの快適さはすげえ、6万8千円でこの威力。45万7千円はいったいどれぐらいの……。


 吉井はクーラーボックスから2本目のビールを取り出そうとすると、子どもが火を起こしているのに大人が寝ているなんてありえないんですけど。というみきの指摘により、ベンチシートに座ってみきが火を起こすのを見守った。



「やっぱり外だと違いますよ、ラカラリムドルに向かう道中を思い出しますねえ」

「へえ、あれ楽しかったんだ」


 業務用LED投光器の明かりの中、吉井とみきはコンロ一体型テーブルセット(ベンチシートタイプ)に対面で座りながら、炭火に置いた網で肉と野菜を焼いて食べていた。


「わたしは、ええと、わたしは『向こうではこうやって外で食事をしていましたね』という振り返りをしていたんです。楽しい楽しくないっていう感情は入ってなかったと思いますけど」

「振り返りの時間だったんだな。うん、そういうことなら間違ってないよ。しっかし、これ明るいな。ちょっと一旦消そう」

「えー、だって肉の焼き加減がいまいちわからなくなるじゃないですか」

 みきは3,190円で購入した保冷機能付きマグにお茶を入れる。


「大体食べ終わっただろ。ほらここからはペースを落としてだな」

 吉井はクーラーボックスからビールを取り出すついでに、業務用LED投光器の明かりを消した。


「あー、全然見えないです。ほら」

 

 ねえ、わたしこんな状態ですよ。ほらほら。みきは右手の箸と左手で持っている焼肉のたれが入った紙皿を大げさに交差させる。


「大丈夫だよ。ホルモンはくるってしてたら大体いける。ちなみに明かり消したら横浜の街が結構見えるぞ」

「え、そうなの!」

 みきは反対側に移動し、ベンチシートに座る吉井の隣に立った。


「ちょっと待ってくださいよ! 横浜の街が、というか夜景が、かなり重要な観覧車が見えないですけど、結構見えてるじゃないですか!」

 みきは吉井のビールと皿を反対側に押しやる。


「LEDが頑張ってたからあんまり見えなかったっていうね。でもマンションからも見えるけど、やっぱりある程度距離があったほうが」

 暗がりに慣れてきた吉井は、あらかじめ準備をしておいた焼きそばを作るためプレートに油を垂らしキッチンペーパーで広げた。


「うん、来てよかったです。押してないですけど」

「あ、気づいてたんだ?」


 うーん、これ大丈夫か? 火力不足により肉と野菜を炒めている、というかプレート上で動かしているという感じがして、吉井は少し不安になっていた。


「まあすぐ夜になっちゃいましたからねえ。明日朝帰る前に押しましょう。わたし絶対忘れませんから。だって押さないで帰って、なんのために行ったんだよおおっ、みたいな状況、本当に嫌いなんで」

「おれは別にどっちでもいいよ、とは言わん。来てる時点で押すことは決めてるんだ。だから明日の朝、おれは押すよ」

「成長している証を見せつけましたね。褒めましょう、よくやりました。じゃあ焼きそばをお願いします。わたしはこういう角度からの横浜も知っておく必要があるので」


 その後、吉井が焼きそばを作っている間、みきは肩肘をついて横浜の夜景をぼんやりと眺めていた。


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[気になる点] 「うなぎとひつまぶしを食べた翌日」 にビックリしました。 初めてじゃないですかね、接続表示部。 なんかこう馴染みの のれんをくぐったら 「らっしゃい」と言い放つ 店主の仏頂面を期待…
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