第110話 割とすぐ調べてたという
うん、やっぱりそうだ。管理局の出入り口近くの個室で出入台帳を見ていたヒマリヌは1人頷く。
ここ1ヵ月ランク付きの出入りってミナトロンさん以外にいない。モドキの動向が不透明だし師団に制限も掛かってたから当然といえば当然、か。あ、でも東側は。
ヒマリヌは間近で監視している係員に、もう少しで終わりますから。と愛想笑いを交えてつつもう一冊の台帳を開いた。
都市の出入り口は西側、東側の2カ所あり、ニガレルン、オーステイン方面は西側、反対の東側は農村地帯で都市から続く街道を2日程度歩くと港に辿り着く。
その港は隣国との貿易のためラカラリルドムが資金を出して維持してきたが、およそ50年前に魔物の妨害が相次いだ時期があり、費用対効果の面から議会で貿易を休止することが決定。それ以降は人の流れが激減し現在は漁港として使われていた。
こっちは2人いる。第1師団と一般上がり、なるほど。ヒマリヌはその名前と行き先を暗唱して記憶する。
でもミナトロンさんの外出理由『所属希望兵士の身元確認』ってなんだろう。わざわざオーステインまで行くこと? でもこれに嘘を書くことの意味、それをあの立場の人がわからないとは思えない。
ヒマリヌは台帳を閉じ、監視している兵士に礼を言って建物を出た。
よし、覚えてるうちに。しばらく歩いた後、ヒマリヌは布袋から筆記用具を取り出して街道脇に座り込む。
いつも思うけどあの場で書き写すことの禁止って意味あるのかな? すぐ見に来れるし、こうやって書いておくこともできるんだけどな。
ヒマリヌは先程見た内容を紙に書き始め、3人分の日時、名前、場所、理由を書き終えた後、2度内容を確認してから布袋にしまい、スツリツトに報告するため師団建物に向かった。
「ふむ、外に出ていた特級者は第1と一般の2人組、それとミナトロンか」
「はい。前者はスツリツトさん達が出る2日前の日付です。ただ東側ですけど。それに行き先は結構遠くてリナカカユ地帯の漁村群です。都市から収穫の調査依頼があったみたいです」
スツリツトの自室に戻ったヒマリヌは書き写した内容を説明していた。
「モドキの動向がつかめないからだろうな。本来なら師団が行くようなことでもない。これは嘘という可能性は低いな」
「そうですね。ランク持ち2人ですから大分目立つと思いますよ。買収や工作するにもけっこうなお金掛かります。おっしゃるようにモドキの動向でぴりぴりしてる中ですし、あんな大それたことをやるならもうちょっと違うやり方を」
「うむ、しかしめずらしいな。第1がわざわざ一般と」
「そうなんですよ。わたし結構見てますけどあまり記憶にないですね」
「なるほど。じゃあミナトロンのほうはどうなんだ」
「今現在、把握できている状況だけで考えると、ミナトロンさんは関与していないと」
「ほう、なぜだ。オーステインに向かったんだろ。ノリュアム達と同じところだ」
「それはですね」
ヒマリヌは立ち上がり棚にあるコップを取った。
「まず第4、5師団合同の部隊が出る16日前に都市から出てるんですよ。その時ってまだ計画自体がまとまってないですから」
「しかし何らかの突発的な理由で」
「結構難しいと思いますよ。あの人数、そしてノリュアムさんがいますからね。事前に行動を把握しているか、内通者でもいないかぎりは」
「そうか。計画自体が無いのに内通というのもな」
「あくまで現状で、なんですけど」
すいません、いただきます。ヒマリヌは机に置いてあった水差しを手に取り、持っていたコップに半分程度注いだ。
「あの人にとっての利益が見えないんです。かといって個人的な恨みとかそういうことで危険を冒すようなことはしない人だと」
「じゃあこういうのはどうだ? 例えば第5師団がコミュニティと共謀して我々をはめたというのは。そう考えれば我々が行くことになったことも説明がつく。内通者も第5の誰かだ」
「うん、そうですよね」
ヒマリヌは水を飲みコップをソファー横にある机に置いた。
「わたしも同じことを考えたんですよ。でもそれなら第5はコミュニティにある程度の報酬を渡さないといけないじゃないですか。ノリュアムさんがいる部隊ですから、それ相応の金額になってしまうと思うんですよ。そうなると結果として第4を削ってあっちを上げたら意味ないっていうか。脅威の場所が移るだけで、弱みも握られますしね」
「じゃあ当初の想像通り始祖の調査中に何かがあったということか。ニガレルン駐屯兵のやつらではないだろうしな」
「そう考えるのが自然じゃないですかね。あくまで今のところは」
「ふう、結局振り出しか」
スツリツトはため息をついた後、組んでいた足を延ばした。
「あ、そいういえばこれから話し合いあるんですよね? 出席者はいつもの?」
「いや、今回は第1も来る」
「そうなんですか。めずらしいですね」
「それとミナトロンだな。今回の話し合いで具体的な調査方法が決まる」
「わかりました。じゃあここで待っていていいですか?」
「ああ、わたしはもう出る。そうだ、師団員の再編成と予算の組み換えを頼む。不要になることを期待しているがな」
「はい、わかりました」
「やれやれだ、まったく」
スツリツトは億劫な様子を隠さず、ゆっくりと立ち上がり部屋を出た。
スツリツトが出て行った後、ヒマリヌはスツリツトが用意した真新しい自分の机に紙の束を手に取る。
スツリツトさんの言うように再編成と予算の組み換えは必要だ。今回遠征した師団員が戻って来ることはない。でもこの状況はなんだろう。今回に限って第1とミナトロンさんが調査の会議に来る。そしてその2組は最近都市から出ている。不自然ではあるんだけど、関わっているほうがより不自然。わかっているのはこれだけだし、でも。
ヒマリヌがパラパラとめくる紙にはコミュニティが始めた金融業とその動向について書かれており、それはヒマリヌ自身が師団員に調べるよう指示したものだった。
答えがあるならそこから推察すればいい、過程は後からついてくる。だったかな。
ヒマリヌはミナトロンと最初に会った時のことを思い出した。




