第六十七話:最後の切り札
盾というと戦士職しか持たないイメージだが、CWOでは【盾】スキルがあればどのプレイヤーでも装備可能だ。
当然ステータスによって持てる盾は限定されるが。
今回俺が〝翡翠の盾″を装備できたのは素材である〝翡翠石″は強度がありながら軽い特性を持つ鉱石であり、そのインゴットで創られた〝翡翠の盾″にもその特性は活かされている。
ちなみに翡翠石はドワーフ族エリアのフィールド鉱山でたまにしか採れない鉱石だ。おそらく魔族が用意しておいた素材の一つなのだろう。
「おい! 何考えてんだ!?」
ラインの怒鳴り声が聞こえてくる。しかしそれに注意を向ける余裕はない。
いくら盾を装備しているからとはいえ俺は盾を使った経験などない。
だからこそ、俺は目の前にのみ集中する!
「ウォォォォォォォォォォォォォォォー!」
俺に気づいたデーモンが咆哮を上げる。右手に握られた大斧を振りかざし、その切っ先を俺に叩きつけようとする。
「受け止めるな! 斜めに構えて受け流すんだ!」
ロウの叫びが聞こえ、急いで構えていた盾を少し斜めに向け、俺は体を左回りに半回転させる。
斧が盾に当たり、衝撃は斜めにしていたおかげでうまく分散でき、さらに体を回転させたことで止まることなくデーモンへと駈ける。
昔見たゲームの記憶を頼りにしたが何とかうまくいった。
デーモンは盾で俺の進行を止めようとするが、ラインとムルルの攻撃でそれを阻まれる。
そして俺はデーモンのすぐ下に到着し、残ったフレイムボムを全てデーモンの足もとにばらまき、すぐさま離脱。
一斉に爆発するフレイムボム。
爆風を〝翡翠の盾″で守り、俺はデーモンの様子を伺う。
どうやら右足にダメージが集中したようで右膝を崩し、膝が地面にぶつかる。
すかさずライン達が攻撃するが、俺はその膝を利用して、その巨体を登っていく。
「「「「え!?」」」」
左右、そして後方から驚く声が聞こえてくるが無視し、一直線に上を目指す。
しかしいきなりバランスが崩れる。それはデーモンが起き上がったからだ。
そのせいで振り落とされ、さらに俺めがけて斧が振り上げられてくる。
とっさに〝翡翠の盾″を両手で構え、斧と盾が激突する。衝撃波が俺を襲い、俺は空中に吹き飛ばされる。
しかし、これは俺にとって好機だった。吹き飛ばされた方向は上、すなわちすぐ近くにデーモンの顔面がある。
俺はすぐにアイテムウィンドウを表示し、一つのアイテムを右手に握る。
それを投げようとした瞬間、デーモンと目が合う。そしてデーモンは先ほどの攻撃のように左手を上げ、盾で俺を攻撃しようとする。
先程の衝撃で俺のHPは半分を切っている。となれば、もう一度〝翡翠の盾″で防御しても死ぬ確率が高い。
迷いは一瞬だった。
俺は右手に握ったアイテムを迫りくる盾に投げた。目標は折れたラインの切先。
本来ならデーモンにぶつける予定だったがデーモンにぶつかる前に向かってくる盾にぶつかってしまう。
そうなればデーモンにダメージを与えられないかもしれない。
ならば、確実にダメージを与える盾にぶつけてやろう。
--例えそれが俺の死を招くことになっても。
俺の手から離れると同時に導火線に火が付く。ここまではフレイムボムと同じ。
しかし、その太さが違う。今引火した導火線の太さは通常のフレイムボムの導火線5本分。
そしてそれは導火線だけではない。
投げたそのアイテムもフレイムボムより太かった。フレイムボムが長方形なら今俺が投げたのは丸型だ。
しかもその大きさは手で掴めるフレイムボムに対し、手のひらを広げないと持てないサイズだ。
デーモンの盾とぶつかる直前、導火線が本体に到達し、フレイムボム以上の爆発が起こる。
〝翡翠の盾″では防げないと思った俺はその爆発をまともに受け、何かが砕ける音が聞こえた瞬間、俺のHPは0になった。
「……ここは」
気が付くと俺はアトリエの床で倒れていた。HPが0になったので最後に転移した先で蘇生されたのだろう。確か死亡してから1分後に蘇生されるはずだ。
ドワーフ族エリアではなかったのはおそらく噴水の転移機能が制限されているからだろう。
そんなことを考えていたが、ふとあることに気づき、急いでログを確認する。
パーティーを組んでいれば途中で死んでもその後の様子をログで確認することができるのだ。
急いでログを開いたと同時に頭に流れてくるファンファーレ。
途端、ログが更新され、新たな一文が刻まれる。
『イベントボス“ジャイアントデーモン”の討伐に成功しました』
「よっしゃーーーーー!」
思わず声を上げてガッツポーズする俺。
しばらくして俺の視界に映るウィンドウ。そこにはジャイアントデーモン討伐で得たセルやアイテムの一覧があった。
「って、喜んでる場合じゃない! すぐにみんなの所に行かないと!」
「ふぅ~ん? どこに行くのかな?」
「……」
オカシイナ? サッキマデノヨロコビガイッシュンデコオリツイタヨ?
ガシッ!
「ヒッ!」
「何で怯えるのかな?」
「ナンデダロウネ?」
オカシイ、ナンダコノジョウキョウハ?
「お兄ちゃん、あのアイテムは確かにすごかったよ」
「……そうか」
全てに合点がいった。〝アレ″を使ったわけね。しかもそれなりに近距離で。
「私たちがNPCドワーフたちを助けた後にね、“デーモンソルジャー”の群れが現れたんだ」
デーモンソルジャーはエリアボス“デーモン”の取り巻きだが、イベント使用になっていると考えればおそらく強化されていたのだろう。
「一体ずつなら何とかなるけど、群れで攻めてきたから私たちもピンチになってね、攻撃アイテム全部使ったんだ」
「……ちなみに戦果は?」
「一応勝利かな? 討伐ドロップも手に入れたし」
「そうか、ならよかっ……」
「でもあまりに怖くて、三人は鳥人族エリアに帰還した後すぐログアウトしたんだ」
なるほど。エルジュの怒りは後輩四人全員分なのね。
「遺言は?」
振り向かなくても弓を構えているのはわかる。そしてここで言うセリフは一つだけ。
「やさしくし……」
言い切る前に俺の頭を矢が貫きました。
その後、なかなか現れない俺の様子を見に来たラインたちが見たのはハリネズミになった俺だった。
……まあ、刺さっていても街中では死なないけど。
シリアスでは終わらせません。ハハハ。
*今回の『蘇生』のように以前も書いた事象の改稿はまだ済んでいません。申し訳ありません。*




