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VRMMOの錬金術師  作者: 湖上光広
第一章:ダイブイン
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第三十七話:意外な集合場所

*8月15日誤字修正:遊楽街⇒歓楽街に統一しました*

*8月19日誤字修正:木々の輪ずれかに⇒木々がわずかに*

「さて、指定された場所はこの先だが……」


俺宛にミシェルから届いたコミュで指定された場所は、ミシェルたちフェアリーガードとは全く関係ない場所だった。


その場所の名は『観楽街』。その名の通り、ここはいわゆる娯楽施設がたくさんある場所だ。しかしここはCWOの中なのでいろいろアレンジされている。


この妖精族エリアでは魔法弾の射的や魔力拳を放つパンチゲーム、さらには後ろの羽で飛び、競い合うレースなどそのエリア特有の遊びが数多く存在し、冒険に出ずにここで遊ぶだけのプレイヤーもいる。


その奥、城壁のような壁がそびえ立つところに黒い幕で覆われた扉がある。その先が指定された場所なのだが、そこは歓楽街でもあまり人が来ない場所だ。

なぜなら、この扉は『遊郭街』の出入り口だからだ。


「ほんと、なんでここなんだよ」


確かに隠し場所としてはうってつけかもしれないが、遊郭街の出入り口はここにしかない。つまり必ずバレるのである。


さすがに扉の前にいつまでも立ってるわけにはいかないので、俺は再びコミュでミシェルに連絡を取る。


『今“黒幕の扉”の近くにいる。指示をくれ』

『了解した。“扉”の右側の壁を進んでくれ』


中に入るんじゃないのかと疑問に思ったがとりあえず指示通り壁に沿って右に進む。しばらくすると木々が立ち並んでいるが、〝フェアリーサティファ″が反応し、木々がわずかに左右に動いて道ができた。

その道を歩いていくと通り抜けられない木にぶつかり、壁を見るとそこにも扉があった。ちなみに、その扉も黒幕で覆われている。


「こんな場所があったのか」


その扉を三回ノックして、5秒間を置き、今度は五回ノックする。これがこの扉の解除キーらしい。


開けた扉の先は掲示板で見たことのある風景が広がっている。視線の先では着崩した服を着た色香漂う女性が客引きしている。あ、今哀れな羊一人が店へと連れこまれた。


見渡せばあちこちで同じことをしている。しかも落とされた男性のほとんどがプレイヤー表示。大丈夫かCWO。


「さて、俺もああいうのが来る前に移動を……」

「その必要はありませんよ」


すぐ横から聞こえてきた声に驚いて振り向く。そこには黒の牡丹が描かれた鮮やかな紅色の着物を着た一人の女性。スミレをモチーフにした金色に輝く簪で髪を結い、先程の女のように着崩したわけでもないのにただ立っているだけで視線を奪われる、そんな魅力を持っていた。さらにはオーラ? のようなモノまで感じる。


「失礼ですが、アルケ様で間違いないですか?」

「は、はい。そうです」


あまりの美人に緊張し、思わず返事も固くなる。その様子が面白かったのか女性は手を口に当て微笑む。そんな仕草まで妖艶に感じた。


「では、私についてきてください」


手を握られ、女性の進む方向に抗うことなくついていく。


下駄の音が鳴り響き、大勢の女性の客引きの声が聞こえてくると、明らかに普段とは違う場所に来たのだと実感する。


そして初めは緊張で気づかなかったが、歩いていくにつれていつの間にか多くの視線を集めていた。これが男性の嫉妬や羨望だけならわかりやすいのだが、客引きしていた女性からも尊敬や憧れといった視線が放たれていた。

それらから、今俺の手を握っているこの女性が只者でないと判断し、帰ってきた理性を発動させ正体を探る。


彼女は確かに自分の名前を口にした。そのことから彼女に俺のことを伝えた誰かがいる。流れ的にミシェルが一番怪しいが、正直彼が女性と一緒に行動するイメージが思い浮かばない。彼は本気で仕事に励んでおり、色恋にうつつを抜かすようには見えないからだ。

他に知り合いと考えると、意外にもアリアさんかもしれないと考えてすぐに振り払う。どちらかと言うとアリアさんは落ち着いた令嬢のイメージだ。ここに関わる人と真逆な彼女が彼女と関係があるわけがない。


そんなことを考えているといつの間にか風景が変わっていた。建物のグレードが上がっているのだ。先に進むにつれてさらに豪華になっていくので、これから向かう先には何が待っているのかと気になったので思い切って訊いてみることにする。


「いまさらですが、どこに向かっているのですか?」


その質問を待っていたかのように女性は振り向き、笑みを浮かべた。


「私が働いております『水仙』です。申し遅れましたが、私は『水仙』の花魁、ティニアと申します」


ティニアさんが言葉を発し終わると同時にアナウンスが聞こえてきた。


〝一定基準を満たしたので、称号【高き者たちの友】を手に入れました″


急に現れたシステムアナウンス。“称号”にも聞き覚えが無かったので、ティニアさんに注意を向けながらお馴染みヘルプ機能を呼び出す。これくらいの動作はすでに余裕で出来るようになっていた。ついでに【高き者たちの友】も確認する。


『称号:ある基準を満たすことで入手できる特別な証。その称号に合った能力が随時発動される』


『【高き者たちの友】<入手条件:特定種族、その中の高位に属するNPC3人から名前を教えられる>名前を知ったNPCが所属、もしくは関わる施設に対して優遇される』


「……」


“称号”っていうから期待したのに内容は大したことが無い。

というか、『高位に属するNPC3人』って誰だ? まず間違いなくティニアさん。そしてミシェルものその一人だろう。フェアリーガード三番隊副隊長だし。そう考えると残り一人は誰なのか。

考え込んでいると不意に女性の足が止まった。どうやら着いたようだと考えていたため下げていた頭を上げる。


「……」


前の無言は落胆だったが、今回の無言は驚愕だ。


たどり着いた場所はティニアさんが着ている和服に似た赤い色の門。そこから日本庭園らしき光景が広がっている。

門をくぐり、石畳の道をしばし歩いたその先には一軒の豪邸、いや館というべきだろう。

オレンジ色の強い赤い瓦と柱。木目が美しい木々を強いた床。そして廊下を走る美女……ではなく鎧を着たごつい男たち。


「………………はぁ?」


先程ティニアさんは自らを“花魁”と言っていた。花魁とは現代で言うと“No.1ホステス”だ。ならば連れて行かれた場所はそういう所なのかと内心少し期待していたが、そこにいるのは必死に働く男性の妖精族たち。一部の女性にはパラダイスかもしれないが、俺にそんな気は存在しない。


動揺している俺をティニアさんが館の奥に案内してくれた。


通り過ぎる男たちと会釈しながらティニアさんは奥へと廊下を進んでいく。俺も習って会釈するも彼らが誰か未だにわからなかった。


しかしようやく正常な動きを始めた脳は全員が統一した鎧を着ていることでようやく答えを導いてくれた。つまり彼らが妖精警備隊フェアリーガードの隊員たちなのだろう。


やがて一室にたどり着くと廊下に足をそろえて座り、ゆっくりと扉を開けるティニアさん。というか、ほとんど洋式風だったこの妖精族エリアでまさか襖を見ることになるとは。

実際妖精も西洋発祥で、見た目からして外国人って感じがしてたからな。


「失礼します」


作法なんて全く知らないので、取りあえず入る前に一言かける。


「おお、来たか!」


中から聞こえてきたミシェルの声に安堵し、中を覗くもそこから先に進めなかった。


足を踏む場所が無いほど敷き詰められた〝魔力石″。奥の別室には火薬草が天井近くまで積まれた山が三つ。


確かに俺はフレイムボムを量産できれば今後楽できるだろうと考え、ミシェルにフレイムボムの材料を巡回ついでに探してもらうことになっていた。

その許可を得るために先日行われた定例会議用に一個渡しておいたのだが、なぜこうなった?

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