第十話:収穫
最近花粉症になりました。毎年のことですが、やはり辛いですね。
皆さんも体調管理お大事に。
クエストを受諾すると老婆が動き出し裏手に続く扉に近づいていく。
「この裏に私専用の果樹園がある。そこから私が要求する物を持ってきな」
するとウィンドウが現れ、そこに三つの果物が画像付きで表示された。なるほど、これらを収穫してくればいいんだな。
しかし、専用の果樹園か。この老婆いったい何者なんだ?
「持ってくる物は出ましたか?」
「ああ。〝ザッシュ″・〝ブードゥ″・〝モンゲー″の三つだ」
名前からしてブードゥ=ぶどう、モンゲー=マンゴーかな? ザッシュだけはわからんが。
「うわぁ、どれも面倒な物ばかりです」
「面倒?」
「えっと……見たほうがわかります」
先ほどと変わって疲れたような表情になったカナデちゃんが扉を開ける。一本道が続いており、先には果樹園と思われる敷地。しかしなぜか壁で覆われている。
「何アレ?」
「おばあちゃんは果樹園って言ってますが、実際はそんな優しいものじゃないです」
とぼとぼ歩くカナデちゃんの後を追い、道を歩いていくと壁にたどり着く。よく見ればその壁にはドアノブのような取っ手が付いている。
「先に言っておきます。アルケさんが必要なものはどれも奥に生息しています。だからここを開けたら迷わず全速力で走ってください」
「なんか表現おかしくない!?」
「私の時はすぐ近くばかりだったのに、なんでこうなるのかなぁ?」
どうやら先ほど感じた真剣な瞳の中にはカナデちゃんに対する親バカも含まれていたことが今判明した。
「では、心の準備はいいですか?」
「その前に確認。使えないスキルは【鑑定】だけ?」
「正確には【鑑定】系ですね。当然ランクアップしても使えません」
「つまり、それ以外ならどれを使ってもOK?」
頷いて肯定するカナデちゃん。となれば、久しぶりにアレの出番だな。
「ひえぇぇぇぇぇぇぇ」
声を出しているのはカナデちゃん。その原因は今の状況にある。
今の俺はカナデちゃんを脇に抱えながら【俊足】で駆けているからだ。奥まで行く必要があるのならこれのほうがいいと思ったが、それは別の意味で正解だった。
(どこが果樹園だ! あちこちから植物が襲ってくるのだが!?)
取っ手を回すと転移メッセージが表示されたので同時にYesを押して転移したのだが、目の前に現れたのは果物を食事中の食虫植物さんたち。
それを見た瞬間俺は悲鳴を上げてしまい、それによって向こうにも気づかれた。その時の感じは「餌を見つけた野生動物」と同じ目の輝きを口から放っていた。
すぐさまカナデちゃんに目的の物がある方角を教えてもらい、今の状況になっている。
「カナデちゃん!? これのどこが簡単なの!?」
「い、いつもはこんなにたくさんいないんです! こんなのおかしいです!」
一瞬老婆の罠かと思ったが、俺はともかくカナデちゃんを危険な目に合わせるわけがない。となると別の要因が……そういえばあるじゃないか。
「まさかと思うけど、これも悪魔族のしわざか?」
「えっ!?」
チラッと見れば後方から追ってきている食虫もとい食人。というよりも雑食植物たちはお互いも食べ合いながら追ってきている。その光景を見て「これが正常である」とは誰も言わないだろう。
「仕方ない。あまり使いたくなかったけど」
俺はジャンプし、体を反転させながら左手でアイテムボックスから取り出したものを飲み込み、右手を突き出す。
「初公開! 《ファイヤーバレット》!」
突き出た俺の右腕から火の玉が高速で雑食植物に飛んでいく。事前に魔法名だけ言えばどこからでも出せると聞いていたのでこの方法を思いついたところ、エイミさんからも「問題ないです」と言われていたのだ。
本来なら杖から出すから俺もそうするべきなんだろうが、俺の中で杖=殴る武器なのでイメージがわかなかったのだ。
飛んで行った火の玉は雑食植物に当たると炎上する。どうやら火属性の攻撃はかなり有効打になる用だ。攻撃力という観点ならフレイムボムの6割くらいらしいからな。エイミさんの見解を俺なりに解釈した値だが。
炎上したことで向こうはかなりパニックになった。今のうちに奥まで逃げてしまおう。
「カナデちゃん! このまま一気に「《ファイヤーバレット》!」……へ?」
再び走り出そうと体の向きを戻そうとしたら今度はカナデちゃんが攻撃した。その攻撃によって体力が0になった雑食植物、ログによればジャックプラントという名前らしいがそれらがポリゴン片へとなっていく。
「えっと、どうやらドロップは無いみたいですね。もしかして火属性で攻撃したからドロップも燃えちゃったのでしょうか」
「カナデちゃん?」
「はい?」
こちらを向いたカナデちゃんはいつも通りだった。いや、急に声をかけられたので「何か御用ですか?」と表現しているように首をかしげている。
「いや、先を急ごうか」と言ってそのまま歩き始める。CWOを初めたのはアーシェが誘ったからだったから俺と同じような境遇なのに、遠慮なく攻撃するところを見て(いっしょにいる人間や行動によってこうまで違うのか)と少し驚いてしまった。
しかし、よく考えてみれば初めて会った時からカナデちゃんはブレイズ主力メンバーの回復・支援役。それが今も続いているのなら当然なのかもしれないな。
その後もジャックプラントと何回か戦闘を行う。結果として〝レッド・アイ″を二個ずつ使ってしまったがようやく目的の物が生えている場所に到着した。そしてカナデちゃんが言っていたことを思い出した。
「なるほど。だから『生息』か」
「そういうことです」
俺たちの視界の前では果物の形をしたモンスターが楽しく踊っている。正確には浮きながらクルクル回っている。小学校の頃のキャンプファイヤーを思い出す光景だな。
さて、果物を手に入れるにはアレを倒してドロップを獲得する必要がある。なお、モンスター名も手に入れられる果物と同じなので姿を知らなくても間違えることはない。
「ということはさっきみたいなことはできないのかな?」
「多分、そうだと思います。私は火属性攻撃手段が無かったので【杖】で攻撃してましたが一度もドロップが無かったことはなかったので」
ふむ。植物系のモンスターのドロップ目的なら火属性はダメと。これは覚えておかないとな。
「ちなみに、あれの強さは?」
「ぶっちゃけ弱いです。アルケさんのステータスでも容易に倒せます」
「なら、さっさと収穫しちゃうか」
俺たちはお互いにそれぞれの杖を握りしめ、踊っている果物たちに向けて振り下ろした。
「ふむ。問題ないね」
「ありがとうございます」
戦闘自体はカナデちゃんが言う通り容易に終わった。ただ驚いたのは俺が三回攻撃しなければならない敵をカナデちゃんは一回で終わらせていた。
いくら生産職だからとはいえ後衛、しかも回復役にすら劣るのかよ俺の攻撃力。
「ほれ、果樹園のカギだよ。今後は好きに寄りな」
『クエスト〔老婆の手伝い〕をクリアしました。
獲得アイテム:果樹園のカギ』
ウィンドウが表示されるとカギを獲得した。どうやらこれで自由に果樹園に入れるようになったが、あそこもう行きたくない……いや、確認しておくことがあるな。
「それでは、私はラインさんのところに戻りますね」
「ああ。付き合いありがとうね」
「いえいえ~」といいながらラインと連絡を取ってカナデちゃんは老婆の家を出て行った。
その背中を見送って俺は再び果樹園に入る。
目的は二つ。
一つは果物を一定量確保してアイスを作るため。
もう一つはジャックプラントがあそこまで出てきた理由を探ること。
再び入った果樹園はうって変わって静かな光景が広がっていた。
「……ここまで明らかに違ってくると『ここには何かありますよ』って言ってるようなものじゃないか?」
警戒をより高めながら先ほどと同じ道を歩む。
しかし予想と反して何も起こらず先ほど収穫した果物たちのところまでたどり着いた。
(あれがクエストだったからという理由もあるが、なんか腑に落ちない)
果物たちを撲殺、いや収穫してから元来た道を戻る。その途中でもうクエスト中ではないことを思い出し、【看破】を発動させた。
書いてて拳から出てくる描写で頭に思い浮かんだのは電子怪獣の獣〇拳でした。なんで死んじゃうのかな……無印も三作目も(涙)
次回も水曜日に投稿します。
追記=バレンタインデーのことうっかり忘れていました。すでに投稿してあります。申し訳ありませんでした。




