第四話:契約
やっぱり間に合わなかった。ちくしょうー、全部雪のせいだ!
アルケ「いや、お前が住んでるところ全く降ってないだろ」
作者「一度言ってみたかった」
とりあえず話を聞くためにラインを拘束した。
「いや待て! なんで俺が簀巻きにされるんだ!? そもそもこのロープはなんだ!?」
「尋問するならまず相手の行動を奪うだろ? あとロープはここ最近覚えた錬金アイテムでそう簡単には切れないぞ」
「はぁ!? あっマジでほどけねー!?」
さて、尋問もといオハナシを始めるとするか。なお、新規の錬金アイテムであるロープを見て目をキラキラさせているキャロルさんはスルーする。
「まず、お前とこの錬金術ギルドとの関係は?」
「本当にこのままなのかよ」
「なんなら失敗作と交換するか? そっちのほうがそれよりのきつくてHPが徐々に減るからあまり使いたくないんだが」
「そっちのほうがえげつねぇじゃないか!?」
ちなみにこのロープは獣人族エリアで戦ったブローケンヴァインがいた近くの蔓を素材としている。あんなに巨大なモンスターがいたんだから近くにも同じ性質のモノがあるのではと探してたら見つけたものだ。
それと【錬金術】で作った鉄の失敗作を混ぜたらワイヤーみたいなのができるかなぁっと思って調合した結果生まれた〝アイナックケーブル″だ。なお、さっき言った失敗作は〝アイナックスリング″で〝アイナックケーブル″よりも短いため締めつけられてしまう。
「で、関係は?」
「……キャロルさんは元々ブレイズのメンバー予定だったんだよ」
「予定?」
「ああ。試験突破していよいよメンバー入りする段階で急に『辞めたい』って言ってきたんだ」
それはすごいな。ブレイズは今やだれもが知るギルドの一つだ。それに合格したのに蹴るなんて珍しい人もいたもんだ。
なんて考えているとなぜかラインからじと目で見つめられていた。
「どうした?」
「いや、その理由が……」
「私が【錬金術】に、正確には錬金アイテムに興味を持ったからなんです」
おや、ようやく現実に帰ってきたか。ついでに本人から詳しい話を聞くことにする。
「私は最初剣と盾を使う一般的な戦士スタイルでCWOをプレイしてました。あ、私は第二陣のプレイヤーです」
「第二陣ですか。それでよくブレイズの入団試験突破しましたね」
「VRMMOはよくプレイしてますから。動きになれているんです」
「実際、今まで受けてきた希望者の中でもそうとう強い部類に入るぞ」
ライン補足説明ありがとう。その姿は簀巻きだが。
「入団が決まってからもさらに自分の強さに磨きをかけていったのです。しかし、どうしても倒せない敵が現れて途方に暮れているところであるアイテムの存在を知ったのです」
「それって……」
「フレイムボムです。それを使うとすごく楽に倒せました。その時に知ったのです。CWOでは個人の強さだけでは到達できない強さがあるのだと」
俺に向けられた視線にはまさに尊敬の感情が現れていた。
「でも、アイテムを使って倒してもそれは自分の強さではないのでは?」
実際、俺自身の強さはラインたち攻略組と比べると大人と子供、いや天と地ほど離れていると言える。
しかし、そんな俺の言葉をキャロルさんは否定した。
「確かに個人の力ではないのかもしれません。しかし、それを含めて『プレイヤーのそのものの力』だと私は思うのです」
そして、フレイムボムの存在についていろいろ調べ、キャロルさんはその強さに憧れて錬金術師になったそうだ。
「はぁ。でもなんで今もラインと交流を?」
「『今後も【錬金術】を続けるなら俺に支援させること。そして調合したアイテムをできるならブレイズに提供すること』。それがキャロルさんがブレイズの入団を断るときに出した俺からの条件だからだ」
「……つまりは、俺以外の錬金術師とも関係を作ろうと?」
「だって、お前忙しそうだし。ここ最近ブレイズに錬金アイテム納品してくれないし」
っぐ。確かにルーチェが忙しくなってからは『水仙』へのアイスとフェアリーガードへのフレイムボムしか納品できてなかったな。それは俺の落ち度か。
「まあ、結果的にお前との関係が強化されたんだから文句なしだ」
「で、でも。まだ決まったわけではないですよ?」
「ここの錬金術師たちの憧れであるアルケからの業務提携だぞ? あの連中が断わるわけないだろ」
「おい、なんだその憧れって」
「そういえば言ってなかったな。キャロルさんは第二陣だけど、他の職人は第一陣から始めている錬金術師たちだぞ」
「いや待て待て。あの当時は俺しかいないはずだぞ」
実際、アトリエを獲得したのは俺だけだったはずだ。
「ああ。彼らもキャロルさん同様、お前のように【錬金術】一本だったわけじゃない。でも控えスキルに【錬金術】を入れていたのは間違いないぞ」
「じゃあ……」
「ま、最初のころは【錬金術】はクズスキル扱いだったからな。こそこそやるしかなかったのさ」
そういえば、今でこそ多くのプレイヤーが求めてくれているがジャイアントデーモンの時の映像からだもんな。【錬金術】が、錬金アイテムが注目されたのは。
「そんなわけで問題は何もない。あとは料金といつから開始できるかくらいじゃないか?」
「そうですね……すぐ聞いてきます」
「え、今すぐ?」
「はい。これは錬金術ギルドにとって今後の運営を左右することですから」
キャロルさんは一礼すると部屋を出て行った。取り残された俺は手持ち無沙汰になったのですっかりぬるくなったお茶を飲む。
「ところで、これいつ解放されるんだ?」
妙なボヤキが聞こえた気がするが、きっと気のせいだろう。
しばらくして戻ってきたキャロルさんの後ろには先ほど見たプレイヤーたちがいた。そして全員が期待を込めた瞳をしている。これは確定かな。
「みんなと話し合った結果、そのお話受けることにしました」
「そうですか。ありがとうございます」
「はい。ここからはどうやって事業を引き継いでいくかをみんなで決めたいと思います。なので、場所を集会所に移してお話ししませんか?」
「ぜひ、よろしくお願いします」
こうして話し合いが行われ、錬金術ギルドで俺が提案した錬金アイテムたちの販売が決定し、来週から販売することも決定した。
そして来週一週間はルーチェを閉店し、新たな錬金アイテムの販売に向けて在庫を作ることになった。
俺は錬金術ギルドのみんなに別れを告げ、ルーチェに戻ってダイブアウトした。ずいぶん遅くなってしまったので早く寝よう。
(スムーズに話が進んで助かった。これで新しい錬金術も試せる時間が作れる。努が錬金術ギルドのことを話してくれてたす……かった?)
あれ? もしかして? いや、まさかなぁ……。
*ライン視点*
「無事上手くいってよかったよ」
「初めは半信半疑だったんですよ?」
「でも来ただろう?」
「……まあ、そうですけど」
少しすねた表情を見せるキャロル。これで俺より年上なんだから女ってのは怖いねー。
「しかし、よくもあれだけ口が回りましたね」
「事実しか話していないからな。相手を納得させるコツだぜ」
「勉強になります」
そう。アルケに話した部分には言ってないことがある。まあ、あいつのことだ。そろそろ気づいたかもしれないな。
「じゃあ、俺もこれで失礼するよ」
「お気をつけてくださいね、ギルマス(・・・・)」
「その略し方はやめろ」
「はいはい。ではまたです、マスターライン」
キャロルが俺に一礼して、他のメンバーも俺に頭を下げる。
そして俺は、ブレイズが錬金術用に設立したギルド、錬金術ギルドを後にした。
あ、キャロルにきちんとしたギルド名に変更させろって伝えておくの忘れてたな。後でメール送っておこう。
次の投稿ですが、明後日25日の0時にすでに予約投稿を済ませております。クリスマス回です。
そしてその次ですが、水曜日に投稿します。しかし、内容は一日早いですが大晦日です。個人的都合で申し訳ないのですが、1月1日に投稿できる保証が全くないので。
そのため、お正月関連のお話は早くても4日くらいの投稿の予定です。
ではみなさま、よいクルシミマスをお過ごしください。
え? 誤字なんてありませんよ。




