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VRMMOの錬金術師  作者: 湖上光広
第二章:新たな力
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閑話:あの子と帽子

遅れてしまいました! 本当に申し訳ありません!

さて、いよいよアップデートを明日に控えた今日。知り合いはみんなそれぞれ準備に向けている中で俺はいつも通りアトリエで調合をしている。でも、ここで調合するのも今日が最後なんだよな。


「思えばいろいろあったな」


努に誘われてCWOをプレイし、【錬金術】がクズスキル扱いされているのを知って見返してやろうと思い、攻撃アイテムを発見して、動画の影響で一気に広まって、ルーチェを開店して、そして大型クエストが終わってまた新たな物語が始まろうとしている……なんてな。


そんな風に今までのことを振り返っていると調合に成功した。そう、とうとう成功したのだ。〝転移石″の調合に。


「これで、ここの設備はそのまま譲っていただけることになった。よかったー」


アトリエの内部を新しいルーチェの中に組み込むことは前もって決まっていたが、元々アトリエは老人の物だ。それを譲ってもらうために挑戦を重ね、ようやく最初に言われた〝転移石″の調合に成功した。


「あとはこれを見せるだ……」


け、と続こうとした瞬間、指輪が蒼白い光を放つ。確認してみると紋章の色に青みが増えている。なるほど、こうやって経過を表してるのか。


「そういえば、最近会ってないな」


俺は遺跡で出会ったスフィレーンよりも、そして指輪をくれたパルセードよりも前に会っていたあの子に久しぶりに会いに行くことにした。







久しぶりだったので少し道に迷ったが、なんとかアルバーロに到着した。今度エイミさんにお願いして転移魔法陣に加えてもらおう。もしできるのならばになるが。


「え~っと、どこかな~?」


到着したはいいがあの子がいつも同じ場所にいるわけないんだよな。仕方なくあちこち歩いてみるかと決め、足を踏み出そうとするとカサカサと音が聞こえてくる。

聞こえてきた方向に顔を向けると茂みの一つから顔が出ている。


「「!」」


言葉もなく驚いたのはお互い同じだったが、俺は動けなかった。なぜか前かがみのままこちらに走ってくる少女、パニヤードの姿を見たからだ。


とりあえず膝を曲げて背を低くする。そんな俺にまさに突撃してくるパニヤード。思った以上に強い衝撃だったがなんとか倒れずに受け止められた。


その時気づいた。パニヤードが震えていることに。いや、泣いていることに。


「何かあったのか?」


訊いてもただ泣くだけで何も答えてくれない。しかたなく、黄色の髪をそっとなでる。こんな時だが、ショートヘアのさらさらした髪がとても心地よい。


そうしてずっと撫でていたかったが「くぅ~」という音が聞こえてきた。発信源である下の少女を見れば泣き顔とは別に顔を赤くしたパニヤードがいた。




そして知った。俺はパニヤードの頭を撫でていたことに。つまり、パニヤードの頭にはいつもあるはずの帽子が無いことに。








お土産として持ってきていた〝パニヤードのきのこ″を食べるパニヤード。持ってきた10本のうち6本はすぐに消え、今最後の一本を食べ終えようとしている。


「落ち着いたか?」


コクコクと頭を動かすパニヤード。しかしその顔はいまだにさみしそうだ。

となれば、やることは一つだけだ。


「よし、いくか」


?顔をするパニヤードをそっと抱え、頭を通し肩に乗せる。すると「きゃ!」と声が聞こえてくる。でも少しでも明るくなって良かった。


「それじゃ、パニヤード。帽子はどこにあるかわかるか?」


しばらく反応が無かったが、言葉を理解したのかまたしても泣いたみたいだ。頭から伝わってくるあたたかな水がそれを教えてくれる。


そしてその足がそっと動きある方向を差す。その方向へと俺も足を進めた。








結論からして、帽子はすぐ見つかった。しかも大量に。

そしてその原因も。


「なんだあのイノシシもどき?」


たくさんの帽子の前に豚の鼻を持ち、全身がハリネズミのように針で覆われた体長3mはある巨大なイノシシ?がいて、帽子に生えているきのこを食べている。


「あれが原因?」


地面におろしたパニヤードに確認するとまたしてもコクコクと頭を振る。そして自分の帽子を見て泣いている。


一瞬エイミさんをここに呼べばあのイノシシをすぐに倒せると思ったが、この状態のパニヤードを放ってはおけない。


一応俺でも何とかできる策があることにはある。しかし、それをするには協力者が必要となる。今のパニヤードに頼むわけにはいかないし、どうするか。


『マスター』


そこに聞こえてくる声。懐かしい声。


その瞬間、作戦は決まった。










きのこを食べていたイノシシが少し前を歩く存在に気づく。蒼のワンピースに水色の麦わら帽子。そう、召喚に応じてくれたパルセードだ。

もっとも、パルセードは水を飲んで生きているので帽子にキノコは無い。しかし予想通り知能の低いイノシシもどきは新しいエモノだと捕らえ、走っていく。


距離を詰めたというタイミングで捕獲しようとイノシシもどきがパルセードにとびかかる。何も知らない人から見れば少女にイノシシが襲い掛かり、さぞ肝を冷やすことだろう。

しかし忘れてはいけないのが、パニヤードはどこで会ったかということ。


そう、あの西の遺跡でパニヤードは最弱と言われながらもボスだったモンスターだ。


「【夕立】」


言葉が紡がれ、パルセードの正面に集中豪雨のごとく雨が降る。その勢いによって地面へと叩きつけられるイノシシもど……もう針イノシシでいいや。


「ブモー!」


叩きつけられたことで怒り状態になった針イノシシはパルセードに向かって突撃する。そのころにはすでにパルセードは遠くへと逃げているが、少女の足ではそこまで逃げることはできない。


すぐさま追いつこうとする針イノシシ。しかしその道中雷に襲われる。俺が事前に仕掛けておいた〝ライジンディスク″だ。濡れている針イノシシはもろに雷の攻撃を受けその場で転倒する。


その隙を待っていた俺はすぐさま〝グレンダイム″を放つ。もったいないかもしれないがここは一発で仕留めるほうがいいと判断した。


残念ながらその一撃では仕留めきれなかったが、針イノシシはそのまま奥へと逃げだした。


「うーん、倒せなかったのは痛いな。あとでエイミさんにでも狩っておいてもらうようお願いするか」


それを決めた時、あのパニヤードが近くに寄って来ていた。遠くにはさらに多くのパニヤードたちが自分たちの帽子を探している。少なくても二十体くらいはいそうだな。


「ア、アリガトウ」

「どういたしまして」


今度は帽子の上から頭を撫でてあげると喜んでくれたが、その視線が指輪に、帰ってきたばかりのパルセードに向けられる。


「どうかしたのか?」


ずっと指輪を見つめるパニヤードだが、しばらくすると他のパニヤードの元へと駆け、そしてみんな森の奥へと姿を消した。


「ありがとうな」

「マスター、メイレイ、マモル」


あのパニヤードのようにパルセードを撫で、指輪に戻すのもかわいそうなのでそのまま抱えてアトリエへと戻った。

当然、スプライトに到着する前には指輪に戻ってもらったが。









*???サイド*

またあの人間が来てくれた。


人間は恐ろしい存在だって長が言ってたけど、あの人間はそんなことなかった。


あと、人間が持っていた光る何か。どうしてもあれが気になってしまう。


……今度来たら訊いてみよう。


「私も……」


*???サイド終*

次週、12月から第三章です。

あと、5万PVで1000万到達!

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