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VRMMOの錬金術師  作者: 湖上光広
第二章:新たな力
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閑話:過去と現在、そして未来

お久しぶりです。

「では、行ってきます」

「「行ってらっしゃい」」


今日もアルケさんのアトリエからルーチェへと調合アイテムを届けに行く。本来ならこういうことをしていないで早く様々な調合に挑戦して錬金術の技術を上げてほしいと思う。


(でも、こういうのも悪くないと思う自分がいるのも事実)


アルケさんに協力をお願いしてからもう結構な時間が経っている。その時間を考えるとアルケさんの成長速度は驚くほど速い。これも客人の力なのだろうか?


そんなことを考えているうちにルーチェに到着する。かつては近くの仮装民家から転移魔法陣を使っていたが、今となっては普通に入ったところで問題ない。


「こんにち……は?」


しかし今日は稀に発生するお客さんがたくさんいる日だったようで、中には大勢の人がいる。これではカウンターにまで到達するのに時間がかかると判断し、仮装民家へ向かう。


「こんにちは」

「あ、お疲れ様です。すいませんね」

「しょうがない」


休憩中だった売り子の一人に背負っていた籠を渡し、売り子が補充を終えるのを待つ。この作業も最初の頃は戸惑っていた売り子さんたちも今となっては慣れたものですばやく補充作業を終える。


「あ、これ追加のリストです」

「わかった」


新たな補充リストをもらいルーチェを後にする。

リストを見ながらアトリエに向かっていると、ふと昔のことを思い出す。





まだ私がホムンクルスとして生まれたばかりのころ、お父様はようやく〝賢者の石″の量産に成功していよいよ〝コア・クリスタル″の調合に挑戦するころだった。

私はお父様のために様々な場所に転移しては素材を採取した。時に大型のモンスターに追われたり、素材を守っていた者たちと戦ったりと苦労も多かった。


それでもお父様のために自分ができることをするのは当然のことだった。私はそのために創られ、生まれたのだから。


一方、お父様は次第にやつれていった。〝コア・クリスタル″の調合は困難どころの難易度ではなかった。錬金術の知識も与えられていた私から見ても本当に調合できるのかと疑問に思うほどだった。


お父様は文字通りその身を削りながら調合に明け暮れ、そして亡くなった。亡くなったのを知ったのは錬金窯に寄りかかるようにして動かないお父様を見た時だった。


もうお父様は存在せず、私も後を追うと決意した。その前に他の人間にお父様の成果を荒らされないよう遺品を整理している時、日記に書かれていた一文が私を生かした。


『我が研究は佳境を迎えた。 しかし、私の命は残り少ない。 あとは封印している娘が引き継いでくれるだろう』


そう、お父様はすでに悟っていたのだ。自分の命が存在する間に成功することは無いのだと。私が生まれたのはお父様の研究を受け継ぎ、成功させるためだったのだと。


『封印している娘』という文字が気になったのでその続きを読み、そのページを破った。なるべく自然に破るのは大変だったが、それっぽくは見えるから良しとした。この情報はむやみに知られてはまずい。


お父様の遺志を継ぐと決意したが、ここで問題が発生する。

私も錬金術の知識はあるものの調合の経験はほとんどなかった。自分で試した結果、そこそこの腕前はあるがお父様と比べると大人と子供くらいの差がある。


そこで、私は錬金術師にお父様から得た知識を与え、代わりにお父様の研究を成功させてほしいという取引を思いついた。当時はまだ錬金術が浸透していたので候補を見つけるのは難しくなかった。








「すまないな、この体ではこれ以上は無理だ」


もう何度こういう言葉を聞いただろうか。多くの錬金術師とかかわり、そのほとんどと取引を交わした。初めは私が持つ知識欲しさだった人もいたが、それでも錬金術師としての血が騒ぐのか私の願い〝コア・クリスタル″を自分でも見てみたいと思う人たちばかりだった。


でも、誰一人して〝賢者の石″すら作れずにその生涯を終えた。そのためその身内から罵倒されることも多かった。

「あなたさえ来なかったら彼はまだ生きていた!」「どうして彼女の前に現れたんだ!」と。


そんな姿を見続けて、もう人間に頼らないことにした。

お父様と暮らした館にこもり、私は一人で錬金術を極めた。外に出るのは素材を採取する時だけ。食事も睡眠も必要としないホムンクルスの性質のおかげで私は何も妨害もなく錬金術だけを極め続けた。




それでも〝賢者の石″を生産できるくらいが私の限界だった。何度か完成度の低い〝賢者の石″を体内に取り込んで自らを強化しながら試行錯誤を繰り返したが、やはり本物の錬金術師ではない私では〝コア・クリスタル″を生み出せない。


途方に暮れた私に、言葉が響いた。


『この世界に住むすべての生命に告げる。まもなく、外の世界よりこの世界を訪れる人間が現れる』


多くの生命にとっては驚愕のことでも、絶望の淵に立たされていた私にとっては救いに等しかった。

外の世界から来た人間。もしかしたらその人たちならこの世界では不可能なことでも達成できるのではないかと。


私は残された最後の希望だと自らを奮い立たせ、その時を待った。







そして、私はアルケさんの存在を知り、彼の行動を監視し、契約を持ち掛け、今こうして共に生きている。


自分が想像していた未来とは異なる現在いまだが、この生活にお父様と暮らしていた頃に感じていた満足感や安心感を感じている。それはアルケさんがどことなくお父様に似た雰囲気を持っているからなのかもしれない。


アトリエに向かっていると対面からフードをかぶった人が歩いてきたのでぶつからないよう少し左にずれる。


そのまますれ違うだけのはずだったが、その存在から言葉が放たれる。


「まもなく君の制限が解除される。封印されていた力を有効活用したまえ」

「!?」


余りの衝撃に足を踏み出したまま硬直する。お父様の日記に書かれていた封印された娘。なぜこの存在はそのこと知っている!?


ようやく体が動くようになり急いで振り向くが、もうそこには誰もいない。





私は徐に右目に手を添える。それは封印状態を確認するための儀式。


「……この力が必要となる、というのですか?」


その力は今の時代ではあまりにも強力すぎる力。錬金術を極めたお父様だからこそできたある意味錬金術師らしい力。


「一度館に戻る必要がありますね」


足を館のほうに向けようとしてアトリエに戻っている途中だったのを思い出し、リストを見る。その一番上には『緊急』の文字が書かれていた。


「とりあえず、今はこちらのほうが先ですね」


遅れている分駆け足でアトリエに向かう。体内の〝無限転移石″を使えばすぐにでもアトリエに着くが、誰に見られているかわからないので使用は控える。

まだアルケさんは転移石すら調合できていないのだ。これ以上の負荷を与えるわけにはいかない



「ただいま」

「あ、お帰りなさい」

「アルケさんは?」

「素材を回収にフェアリーガードに向かいました。もうすぐ帰ってくると思いますが」

「なら、先に調合を始める。手伝いできる?」

「緊急の納品ですね。どの素材が必要ですか?」


錬金術の研究のために同居しているエイミさんに必要となる素材をお願いし、錬金窯に火を入れる。

この平和な時間がいつ崩壊するのかわからない。しかし、いざとなれば私も覚悟を決めなくてはならない。


密かに決意を新たにし、戻ってきたアルケさんにも緊急の要件を伝えながら、今日も私は錬金術を続ける。


願わくは、封印が解けることのないことを。

というわけで、セリムさんのお話でした。次回はあの子の話です。


誤字修正作業が間に合わないかも……涙

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