第九十七話:お土産
最近寒くなりましたねー。みなさんも体調管理気を付けてください。
……あ、風邪薬買わないと。
転移した先は要塞遺跡と同様遺跡の入り口近くですでに戻っていた三人と合流する。
「お待たせしました」
「いえ、大丈夫ですよ」
「お帰りなさい」
「おかえり~」
三人三様の返事をもらいスプライトに戻ることにする。あ、その前にみんなが何をもらったのか訊いておくか。
「皆さんはなにをもらったんですか?」
「私はこれですね」
最初に見せてくれたのはアリアさん。両手を開いて見せており、その手には先ほどまでなかった手袋がある。
せっかくもらったものが手袋なのか?
「この手袋は採取した物に傷がつかないような加工がされているみたいなんです」
「へぇ~。そんな機能があるんですか」
「かなり前に存在していたことが文献に書いてあって、欲しいなぁと思ったことがあったのですが、神様に感謝ですね」
文献に載っていたか。今度見せてもらうかな。
「私はこの簪ですね。特別な効果は無いのですが髪飾りが欲しかったので助かります」
ティニアさんは振り向いて後ろ髪に触れる。基本は金色だが銀色の装飾との対比がとてもきれいだ。……なんかめちゃくちゃ高そうだな。
「私はこんなものもらった」
そう言うとアリサさんは右の袖をめくった。その下には三つのリングでできたブレスレットがある。
「魔力の回復が早くなるんだって」
「それは便利そうですね」
三人の中ではアリサさんがもらったものが一番効果高そうだな。もしかしたら魔法職プレイヤーならもらってる人がいるかもしれないからあとで掲示板を覗いてみよう。
こんな感じで残り時間はまだあるが俺にとっての大型クエストは幕を閉じる……はずだった。
「まさかここに必要な素材があるなんてな」
場所は変わってダンジョン遺跡4階。ここにいる理由はこの次の5階にある。
実はせっかくなので〝秘伝の巻物″読んでみるかと〝解読モノクル″を使ってみたところ、必要な素材の一つがダンジョン遺跡5階、イレギュラーステージに登場することが判明。しかも解読済みならばそこに行くか選択できることも書いてあり、行ってみようということになった。ちなみに「興味あるから」の一言でアリアさんが同行。そして「「じゃあ、ついでに」」とティニアさんとアリサさんも同行している。
おかげで魔法陣がある場所までスムーズに進められた。
「さて次が本命なので、念のため休憩を入れます」
「え、いるの?」
「俺が採取している間は足止めになってしまうので」
そういうとアリサさんも納得してくれたので十分くらい休憩する。ティニアさんが待ってましたとばかりに接待を始め、アリアさんとアリサさんは差し出された水をもらう。あ、ただの水です。
「アルケさんもどうぞ」
「ありがとうございます」
俺も頂いて一口。ただの水なのにティニアさんから渡されると高級に見えてしまう。そのあたりが遊女でも最高峰たる花魁の実力なのだろう。
十分休憩したところで5階へ進む魔法陣に足を入れる。すると前にはなかったウィンドウが現れ『行き先を指定できます。《秘境エリア》へ転移しますか?』と書かれていたので下にあったYesに触れる。
転移した先は前の水が流れていた場所とはうってかわって草原が広がっており、青々とした木々も見える。
「あれは!?」
少しばかり鑑賞してみようかなと思った俺の心境をぶち壊すような大声を上げるアリアさん。何をそんなに興奮しているのかと思ったらすぐさま木のほうへと走り出していく。
「どうしたんでしょうか?」
「私にはさっぱりです」
「同じく」
二人も知らないとなると【調薬】関連かなと推測する。そしてその読みは的中した。
「すごい! 本物の長霊樹!」
待て、長霊樹だと。それは俺が探し求めている素材でもある。そしてティニアさんも「長霊樹!?」と驚いて走っていく。唯一話についていけないアリサさんのために説明する。
長霊樹とは名前の通りの樹木として有名らしい。俺もさっき〝秘伝の巻物″を読んで知ったのだが。
それによると長命で最低でも百年は枯れないと言われている。また非常に特殊な魔力を溜めており、それが精霊に好かれたという伝説から〝伝説級のアイテム″とも言われているらしい。
「というかなんで妖精族のアリサさんが知らないのですか?」
この伝説は確か妖精族から広まっていったはずだ。
「私そういうのあまり興味ないですから。それを知って私の魔法が強化されるわけではありませんし」
前々から思っていたが、本当にアリサさんは魔法好きなんだな。さて俺もそろそろ採取しますか。
「アリサさん周囲の警戒お願いしますね」
「了解。私しかできなそうだもんね」
苦笑しながら周囲を見渡せるよう少し離れていくアリサさん。それを確認して俺も長霊樹に向かう。
二人はしきりに生えている枝に着目している。実際長霊樹の最大の特徴は込められた魔力。だからこそ枝を採取してそれを加工して杖にすれば、それはまさに至高の一品となる。だからこそまだ青々と茂っている今みたいな感じでは加工には向いていない。
それでも枝を採取できれば一級品の杖にも劣らないくらいの性能にはなるだろう。
一方俺が必要なのは葉だ。俺が欲しいのは魔力ではなくその生命力でそれがつなぎとしてとてつもなく強い効果を発揮し、さらに耐久値も高くなる。
しかし若いと言ってもさすがは長霊樹。求める葉は遥か頭上だ。だからと言ってあきらめることはしない。
「これくらいなら、なんとかなるな」
幹に足をかけ、反対の足もかけ登っていく。登り辛いところもあるがなんとか一番下の枝に到達し、先端の葉を少しだけもらう。
〝長霊樹の葉″・素材・Sp
若い長霊樹に生えている葉。まだ若いため魔力はほとんどないが生命力にあふれている。
*素材として使用すると耐久値を大幅に上げる*
さすがは伝説にもなったアイテム。説明欄に『~を大幅に上げる』なんて初めて見た。
感心していると下から声が聞こえてくる。
「アルケさん! 私にも! 葉を!」
「少し折れてる枝無い!?」
おおう、ずいぶん必死ですねお二人さん。見ると遠くのほうにいるアリサさんが手を合わせて謝ってくる。
結果として葉は同じように少しだけもらったが、残念ながら枝はまだしっかりしているものばかりなので折ることはできなかった。それを知った時のティニアさんの顔はまさに絶望だったな。
その後で落ちている枝から一番いい状態のものを選んで、そこそこいいのがあったらしいので良しとしよう。
そして肝心の敵だが全く出現せず、少し歩けばすぐに転移魔法陣があった。足を進めようとしてある疑問が浮かんだ。
「あれ? 魔法使うのはティニアさんじゃなくてアリサさんでは?」
ティニアさんも魔法を使うが杖を使っているところなんて見たことないぞ?
「これは『水仙』に飾るため用ですから」
……まあ、使い方は人それぞれということにしましょう。
「今回のことをきっかけに武器も覚えようと思ったの。だから少し杖から離れようと思って」
「でも、長霊樹なんてめったに遭遇できませんよ?」
「確かにそうだけど、今の私には実力が圧倒的に足りないよ。だから最低でもパロン様と同格にならないと無理だよ」
おお、案外立派な回答が返ってきたことに少し驚いた。
こうして最後にちょっとしたお土産をもらって俺たちは5階から転移した。その後はすでにクリアしているので入口に戻った。
これで俺のクエストは終了。アトリエに戻った俺は〝長霊樹の葉″を丁寧にしまい、ダイブアウトした。
さて、明日からは普段の錬金術生活に戻りますか。
次回からそれぞれのクエスト終了後を送ります。いわゆる後日談ですね。
それが終わったら二章終了です。その後誤字修正が控えているので三章はもしかしたら12月~になるかもしれません。
では、水曜日に。




