第九十三話:戦果
気が付けばあと七話でこの章だけで百話到達……
歓声に沸く俺たち。
さらに勝利アイテムである〝古びた盾″が手に入ったウィンドウを見てその声はますます大きくなる。
しかしウィンドウはそれだけではなかった。
『エキストラボス〝要塞華撃団″全員撃破ボーナスとしてそれぞれに〝勾玉″が贈呈されます』
そのメッセージの下には〝白の勾玉″と〝ピンクの勾玉″の二つを獲得したという文字が書かれている。色から判断してこれは白武者とピンク武者の核のような物なのだろうか?
どうやら下に続きがあるようなのでウィンドウをスクロールする。
〝白の勾玉″・合成アイテム・HR
要塞華撃団団長である白武者の力が宿った勾玉。
*合成に使用すると【猛る魂】が発動可能*
*【猛る魂】20秒間自身のステータスをすべて1.3倍にする。Lvが一定数上がるごとに持続時間が延長される*
〝ピンクの勾玉″・合成アイテム・HR
要塞華撃団の華であるピンク武者の力が宿った勾玉。
*合成に使用すると【破邪】が発動可能*
*【破邪】30秒間、光属性強化&闇属性魔法無効化。Lvが一定数上がるごとに持続時間が延長される*
それぞれ破格のスキルだが、今のところ【光属性】は見つかってないし、【闇属性】は魔族だけの固有属性だ。それがここで出るということは、また襲撃でもあるのか? それともアップデートで登場するのだろうか?
みんなにもどんな勾玉か聞いてみると喜怒哀楽な返事が返ってきた。
「私は紫色。合成スキルは【槍の栄光】で効果は『槍装備時、物理&魔法の攻撃力と防御力1.5倍』だから外れだね」
「私は黒です。【遠見】で『【射程・中】自動付与』です」
「私のは緑色で【豪傑】です。『武器装備、物理攻撃力1.3倍&防御力1.3倍』ですので悪くないですね。魔法のステータスには作用しないのが残念ですが」
エルジュは悲しみ、リボンは歓喜、スワンは普通という感じだな。
エルジュのは槍使いなら喉から手が出るほど欲しいだろうし、リボンは自身の武器と合っているからこれが終わったらすぐ合成しそうだ。スワンのも魔法職以外ならどの武器や防具、スキルにも適応できるからこれも当たりだろう。
そういえばNPCはどうやって効果を知るんだろうと思って二人を見れば、二人とも勾玉を飲み込んでいた!?
「ちょっと、二人とも!?」
「ん、どうかしましたか?」
「ふぁに?」
すでに飲み込んだティニアさんと口の中をもぐもぐしているアリサさん。え、NPCってそうやってスキル得るの?
と思ったらティニアさんは両手を前に出し、何かを受け取るように手を重ねた。するとそこに黄色い光が生まれ俺たちが手に入れたものと同じ勾玉が出現した。
「私が手に入れたこの黄色のナニカですが、回復系の魔法やアイテムの回復量を増やしてくれるみたいですね。回復はあまり得意ではないのでアリア姉様にでも献上しましょうか」
「そういうのって自由に取り出しできるんですか?」
自分で言って頭の中でティニアさんの形をした引き出しを想像してしまった。
「何か言い方に変な感覚を感じましたが、私たちは自らが適応する能力を選ぶ方法を幼いころから学んでますから」
なるほど。ちゃんと自分に適した魔法属性なのはそのためなのか。てっきり魔法属性って先天的なものだと思ってた。
「ちなみに、私のそれは赤色だったよ。能力はこんな、感じ!」
アリサさんが右手に力を込めて振るうと拳に巨大な鉤爪が出現した。しかも拳を解いても鉤爪はなくなることが無い。あと燃えるわけではなさそうだ。
「魔力を流し続ける限り存在し続けるみたい。ティニア、これ要る?」
「……アリサが使っていいですよ。例のあの魔法と組み合わせればより強力な一撃になりそうですし」
「それを言うならティニアの〔ボルカニック・フィスト〕にコレ合わせれば?」
「あれも魔法の腕ですから制御が難しくなりますね。でも、そうですね。こういう感じでしょうか?」
ティニアさんは少しの間思考顔になるといきなり右手を振るった。すると爪の先からさらに鋭い炎の爪が伸びていた。
「おお! すごいじゃん!」
「いえ、これはただ存在しているだけのもので魔法とは呼べません。ですが、要領はわかったので後は魔法として構築するだけですね」
……炎の拳だけでもすごいのに追撃で鉤爪? 実はティニアさんって魔族じゃないのかと一瞬疑ったぞ。
「さて、めでたいところだけど、私先に出るね」
突然エルジュがそう言って新たに出現した魔法陣へと向かう。どうやらあれに乗れば自動的に出られるみたいだが、何をそんなに慌ててるんだ?
「どうしたの、エルジュちゃん?」
「実はこの後ヴァルキリーのメンバーと上様攻略の約束してたの」
「え、この後!?」
リボンちゃんは驚いているが俺としては別に不思議でもない。エルジュは一度ここを攻略しているので〝古びた盾″をもう持っている。むしろエルジュが行くべきなのは剣を獲得できるダンジョン遺跡なのだから。
俺が思ったのと同じような説明をしたエルジュは「またね~」と言って慌ただしく魔法陣へ走り、そのまま転移した。
「では、私たちも戻りましょうか」
「そうね。今回はさすがに疲れたわ~」
ティニアさんの提案に従い魔法陣へ向かおうとするが「すみません、待っていただけますか?」と声が聞こえる。
「どうしたスフィレーン?」
「申し訳ありません。大事なお話があります」
どうやらまだ何かあるようだ。
俺以外には話せないということなのでみんなには先に戻ってもらった。
「そろそろいいか?」
「はい。まずは謝らせてください」
そう言って頭を下げるスフィレーン。いきなり謝罪されてもこっちはなんのことかさっぽりだぞ?
「実は、もうあなたを主とは呼べなくなってしまいました」
「どういうことだ?」
スフィレーンは下げていた頭を上げる。そこで気づいた。髪の先端の色が水色から青色に戻っていて徐々に髪全体に広がっていることに。
「すでにお気づきの通り、この体は元の素体に戻ろうとしています」
「原因はわかっているのか?」
「私が本来あるべき手順によってこの地に降臨していないからだと思います」
その後、スフィレーンは教えてくれた。
まず、スフィレーンのような精霊の力を手に入れるには、この世界のどこかにあるそれぞれを祭った神殿に向かい、そこで与えられる試練を突破しなければならない。その試練を突破することで精霊の加護を得ることができるようだ。
「しかし、それはあくまで【加護】の範囲です。加護は私たちの力を与えるだけに過ぎませんから」
「つまり、さっきまでの状態は加護じゃないのか?」
「はい。さきほどまで、私はあなたと【契約】を交わしていました。契約はその者が死ぬまで共に歩み続けることを誓う儀式です」
そこまで言うとなぜか悲しそうな表情になる。
「できればあなたにはその儀式がどういう物かお伝えしたいのですが、どうやら創造神によってそれが封じられているようです」
創造神ってことは運営か。まあそうだよな。最強状態の白武者以上の力を持つ存在の入手方法をそう易々と知られたらたまったものじゃないからな。
「ですが、今の私にもできることがあります。右手の指輪を見せてもらえませんか?」
その言葉に従い、俺はパルティリングをスフィレーンに見せる。するとスフィレーンはパルティリングにキスした。
するとパルティリングの表面に水色の光を放つ紋章が刻まれるが、水色の光はすぐ消え白い紋章だけが残る。
「そこに私の一部を宿しておきました。長い時間を必要としますが、魔力が溜まれば短い時間となりますが、私の分身を降臨させることができるはずです。一部なうえに分身ですので能力は先ほどの私と比べれると半分以下ですが」
おぅ。グレンダイム以上の切り札となったぞ、この指輪。
「もう少し、お話し、したいですが……もう、じかんが……ないよ……うです」
確かに髪全体がすでに青に戻り、着ている服もいつの間にかワンピースに戻ってる。
「いつ……か、ま……た、あ………え……」
最後まで言い切る前に意識がなくなったように急に倒れこむスフィレーンを慌てて抱きしめる。しかしそこにいたのは間違いなくパルセードだった。
とどめに伸びていた身長が俺の腕の中で縮んでいく。それはスフィレーンがもうここにいないことの証明でもあった。
「ああ、またいつか。きっと会いに行くよ」
「……マスター?」
目を覚ましたパルセードに落ちていた麦わら帽子をかぶせてあげる。嬉しそうにほほ笑むパルセードを抱えながら、俺は魔法陣によって要塞遺跡の入口へと転移した。
というわけでパルセード復活です。スフィレーンとの再会は……いつだろ?
次回は宣言通り水曜日です。




